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魔王の"元"娘、アクアスを満喫する

『間もなく本艦はアクアスに到着致します。着水する為、席をお立ちのお客様は座席にお座り下さい』


 その日、私達はアクアスへと向かっていた。

 依頼(クエスト)をこなして小金を稼ぐ事一週間。財布が少し重くなってきた頃、私は遂にアクアスを訪れる事を決心したのである。

 勿論、エルーブルーが金で動くとは思っていない。単純に度重なる出費で私の懐が悲鳴を上げていただけである。


 水の都アクアス。

 ヒューロニア大陸より西の大洋、そこに浮かぶ小さな島の事を一般的にそう呼ぶ。

 その名の通り、島全体に大小様々な水路が通っており、主な移動手段はそこを通るゴンドラ、という水と調和した島だ。そこにエルーブルーは住んでいる。


『ヴェネツィアみたいだなあ。いやまあ俺は行った事ないけどさ』


 程良くくたびれた木製の浮き桟橋、立ち込める潮の香り、漁師達が小舟に乗って漁をしている海は日光を乱反射してまるで1つの蒼玉の如く輝いている。

 街は様々な色のレンガが使われ、屋根も一言で青とは言うものの皆同じ青という訳ではなく、深海のように深い青、空のように澄んだ混じり気のない青、はたまた沼のようにがさつな青、そしてこの海のように輝く青……それらが混じり合い、その不規則さが普段とは違う美しさとして目を楽しませる。

 また、その中央付近には一際目立つ青いドーム屋根が見える。あれがエルーブルーの住む神殿だ。この距離でも分かる程に緻密な装飾が施されているそれは見た者に多幸感をもたらし、同時に圧倒されることであろう。

 カイが言うには、彼の世界にもここと似た場所があるらしい。いや、寧ろそこをモデルとしてここが創られた可能性の方が大きいのか。


「うう……肌が痛い……」

『大丈夫か?』


 因みに今は日中である。エルーブルーは夜行性ではない、会おうと思えば昼に行くしかなかったのだ。

 手袋にタイツ、帽子で肌は覆ってはいるもののそれでもなお日光は私を焼いてくる。


「と、兎に角さっさと用事を済ませるぞ。神殿までの道は───」


 ヒュウ、と潮風が吹いた。



「そこのお嬢ちゃん、アクアスは初めて?」


「───え? あ、いや……何度か来た事はある」


 いつの間にそこに立っていたのか、私の眼前に立っていた少女が話しかけてくる。

 つばの長い麦わら帽子を被り、涼し気な白のワンピースを着た歳は10かそこらであろう青の長髪の少女。その青は束ねれば宝石に出来そうな程に美しい青だった。

 私は彼女に謎の既視感を覚え、それが晴れる前に再び話しかけられる。


「そうなの。でも何だか気になってね。だって吸血鬼が昼間に来るなんておかしいじゃない」

「……昼に来なければいけない事情があるんだ」

「ふーん……ねえ、貴女私に案内させられてみない?」


 彼女はそう提案してくる。

 この街には観光客相手にガイドをする商売がある。要するに彼女もそれだという事だ。


「遠慮してお」

「私の見立てだと……貴女、一人で来た事は無いわよね?」


 その言葉に私は声を詰まらせる。

 そうだ。私がここに来た時は必ず母様か父様が一緒だった。それも随分前の事である。


「この街は迷宮よ。一人で歩くなんて自殺行為だわ」

『まー確かに。ゲームでも最初は迷ったし』

「うむ……」

「だから大人しく私を雇いなさい? 今ならお友達価格で大銅貨2枚で良いわ」

「いつお友達になったんだ」

「目と目が合えば友達。アクアスでは常識よ」


 そうだったのか、いやそんな訳あるか。彼女は元の値段を提示していない、そもそも"正規の価格"など無いのだろう。

 だが、彼女の言う事も一理ある。正直地図だけを頼りにするのは心細いとは思っていたのだ。上位存在たるカイですら迷うのだから。

 それに大銅貨2枚というのは中々に良心的な価格である。私は財布から出し、彼女に渡す。


「……なら分かった。ガイドを依頼しよう」

「毎度ありっ! じゃあ早速昼ご飯食べに行くわよ」

「へ? ちょ、ちょっと待ってくれ。私の目的地は」

「私もうお腹ぺこぺこなのよ。あ、料金は貴女持ちね」

「はあ!?」


 やられた。完全に騙された。妙に安いのはこれがあったからなのだ。


『ははは、騙されてやんのウゲェっ!?』


 嘲笑するカイを取り敢えず絞めておき、さっさと歩きだす彼女の後を追う。


「聞いていないぞ、そんなの!」

「だって言ってないもの」

「詐欺だ!」

「別にガイドをキャンセルしてもいいのよ? 貰った物は返さないけど」

「っ……」


 最悪だ。なけなしの銀貨だというのに、渡す前にもっと契約内容を詰めておくべきだった。

 だがもう後の祭り。今、私に与えられた選択肢は諦めて彼女に昼食を奢るか、2枚を勉強代として諦めて他のガイドに頼むかの2つ。大銅貨2枚は惜しいがここで諦めて彼女に頼めばカモ判定されて更に要求がエスカレートしてしまう可能性がある。

 意外とこういう輩のネットワークは広く、事態はこの場のみで終わらない可能性すらあるのだ。今後どんな観光地に行っても同じ様な目に遭う事になるかもしれない。そんな事はごめんだ。


 そんな風に私が思考を巡らせていると、彼女が申し訳なさそうな声を出す。


「あ、あのー……何かごめんね? ちょっとした冗談のつもりだったんだけど……」

「……冗談ならもっと現実離れした事にしてくれ」

「あのね、私がこんな小さな子供に奢ってもらう程クズに見える?」

「少なくとも今は」

「お姉さん怒るわよ。自分の分は自分で払うわ」


 騙されたのはこちらなのに何故かキレられた。理不尽である。


「さあ、行くわよ。お詫びに安くて美味しい店教えてあげる」

「その前に私は神殿に」

「レッツゴー!」


 結局、彼女を言いくるめる事は出来なかった。やはり別のガイドを頼む方がよかったかもしれない。


「あ、そういえば貴女の名前聞いてなかったわね」

「私はグラス・ミキシドロンド。こっちはカイだ」

『よろしくな!』

「グラスにカイ、ね。私はエル。まあ全て任せておきなさい、あなた達をアクアス抜きでは生きていけない体にしてあげるから!」



「知ってるとは思うけど、この島は全体に水路が張り巡らされてるわ。だからゴンドラに乗れば大抵の場所には行けるのよ」


 少し歩くと水路に当たる。

 その水路では特徴的な細長い三角錐の、つばの広い帽子を被る船頭がゴンドラを漕いでいる。そして無数の船着き場があり、今も観光客がゴンドラに乗っている所だった。


「箒では駄目なのか?」

「駄目に決まってるでしょ。アクアスでゴンドラに乗らなくてどうするのよ……っていうか、そもそもアクアスは箒禁止よ。アンタも知ってるでしょ」


 彼女が咎める様に言う。

 そう、アクアスの穏やかな雰囲気を壊しかねないので箒で飛ぶ事はこの街では禁止されている。しかしこれまで来た時は王家特権で箒で直接神殿に乗り付けていた。そういえば、それを見たエルーブルーが口を尖らせていたのを思い出す。


「ウニとゴンドラは高い物から! アンタ達、私をガイドに選んで幸運だったわね」


 謎の格言を言いつつ、彼女はある一角に居た者に話しかける。

 青い帽子を被る髭の濃い大鬼(オーガ)。大鬼の特徴として額に生える角と大きな体躯、そして強靭な肉体があり、彼も例に漏れず服越しにもその筋肉が見て取れた。


「レイヨン! トロートリアまでお願い!」

「おおエルちゃん、いつものかい。精が出るこった」

「よろしく頼む」

「吸血鬼たあ珍しい。まあリラックスしてな、俺の操縦技術はアクアス1さね」


 彼は歯を見せて笑い、船を出した。


 ゴンドラが水路を通っていく。心地よい揺れが心を穏やかにしてくれる。

 壁のように隙間なく建ち並ぶ家々。窓際にはプランターに色鮮やかな花々が咲き誇り、頭上には通された紐に洗濯物が吊り下げられている。あんな所、どうやって回収するのかと思っていたら1つの窓が開き、主婦らしき女性が何かを呟くと小さく風が吹き、吊られていた服を器用に外してその手元へと運ばれていった。

 なるほど、ああやって回収するのかと感心していると、次に隣をゴンドラが通っていく。私達の乗っているものと違う所といえばそれは船頭が漕いでいるのではなく1人の半魚人が泳いで引っ張っているという所だった。

 それは私達の乗っているゴンドラを追い越すとすぐに小さくなってしまった。速い。同じゴンドラとは思えない程だ。


「ふん、なってないわね。観光なんだからもっとゆっくりすればいいのに」


 それを見たエルが鼻で笑う。


 それからそっと目を逸らし、ぼーっと進む先を見ていた時だった。


「〈我が命ずる。宙を舞う精霊共よ、かの者達をその理より解放せよ〉」

「!?」

『この詠唱って……』


 突然詠唱を始めた彼女に私は身構える。

 その間にも彼女の手は淡い光に包まれ───


「〈第二の世界(ブルーウェント)〉! とりゃっ」

「ちょ、うわあっ!?」

『リーフ!?「ほら、アンタも」うひゃあっ!?』


 その光が私達に纏わりついた瞬間、彼女の手が私の背を押す。突然の暴挙に私は対応出来ず、あえなく水中に落とされる。少し遅れてカイも落ちてきた。

 藻掻く。突然の事だったので全く息が吸えておらず、またこの光のせいなのかあまり浮力が生まれない。


『お……リー……安……』


 カイの声が脳に来るが、混乱でよく聞き取れない。


「もう……いきが……」


 そうこうしている内に息を止めているのも限界が来る。何とか水上に出ようと更に藻掻き、それが余計に消耗させる。

 やがて口が開かれ、気泡が水中に放出される。その代わりに大量の水が入り込み、私の意識は遠ざかり───


「……あれ?」

『リーフ、落ち着け! この魔法は適応魔法だ!』


 カイの声が鮮明になる。

 おかしい、何故大量に水を飲み込んだのに私は息が出来ているんだ。


「ああ、私は死んだのか……」

『落ち着けー!! さっきエルが使った魔法は一時的に水中に身体を適応させる魔法だよ!! お前は今、水中でも息が出来るんだ!!』

「適応……?」


 少しずつ混乱から立ち直り、彼の声が脳に深く浸透し始める。

 そんな私の前に同じく生身のエルが降りてくる。


「どう、驚いたかしら?」

「……」

「アクアスに来たなら水中都市も見ていかないとね」


 彼女は少しも悪びれる様子も無くぬけぬけと言い放つ。私は取り敢えず彼女を無言で絞めた。



 水中には幻想的で、尚且つ退廃的な光景が広がっていた。

 水上に出ている建物の基部に更に建物が、その下に更に建物が、という風に積み上がっている。沈んだ家々には珊瑚や水草が生え、そこに魚が群れている。


「アクアスでは本当に少しづつだけど海面上昇が続いていて、家に浸水してくるようになったら床を上げて、もう上げられなくなったら家の上に家を造って、また床を上げて……って、そんな風に暮らしてきたのよ」


 エルが言う。


「成程」

『やっぱ生で見る方が幻想的だア……』

「それで沈んだ家は水中に住む種族が使ったり、あとは大体廃墟ね」


 彼女の言う通り、ヒビが入り完全に使い物にならなさそうな家から補修が施され、仄かな灯が漏れている物などがある。耳を澄ませばあちらこちらから話し声が聞こえてきており、ここにも生活があるのだと実感する。


「お、エルじゃねえか! いつものか?」

「その娘が今回のお客さん、です?」


 と、そんな私達に水潭族(アクアローネ)の2人の男女が話しかけてくる。

 水潭族(アクアローネ)は全身の肌の殆どは藍色、顔から股下にかけての正面のみは白色であり、体のあちこちが水色にまるで海月のように淡く発光している。

 手の指と指の間には薄いヒレがあり、足は人間が泳ぐ時に使う足ヒレのような形をしており、泳ぐスピードはかなり速い。

 毛は水色の淡く発光する睫毛のみであり、髪の代わりに体皮が発達した物が垂れており、また後頭部と臀部のやや上からイルカのような太い尻尾が生えている。

 人間なら耳のある部分には背鰭のような物があり、音はその上部にある小さな穴から拾う為聴覚はあまり優れてはいないが、代わりに額にある水色の紋様がある部分から超音波を放つことができ、他の魚などとコミュニケーションをとることができる。


「ええ、そうよ。今回も頼むわね」

「私はグラス、こっちはカイだ。よろしく頼む」

『よろしく頼む!』


 エルに続けて私が挨拶すると少女の方がその桃紫色の目を緩め、口を開く。鮫のようなギザギザの歯が露わになる。


「私はシャリー、です。で、こっちが兄のシャルク、です」

「シャルクだ。()()()のアクアスの案内は任せてくれ」


 どうやら頼む、というのは案内の事だったらしい。それにしても人脈の広い事だ。


「さあ、ついてきてくれ」


 彼はそう言うとその身を翻して足ひれを動かす。それに続くように私達も泳ぎ始める。エルの魔法のお陰で水中だというのに殆ど抵抗無く動く事が出来た。何の説明も無く突き落としたのは未だに恨んでいるが、この点についてはエル様様である。

 さて、水面の見える水路を離れ、すぐ下にあった横道に向かう。そこは上部が塞がれており、私は暗い空間を想像した。


「綺麗……」

『すげえ……』


 果たして、そこは暗黒の空間などではなく、思わず息を飲んでしまう程の光景が広がっていた。

 そこは、上こそ増築された家々で塞がれているものの、下はかなり深くまで、それこそ渓谷のように続いている。だがこちらはさっき程も深くはなく、底の苔むしたタイルとそれを覆い尽くさん程の珊瑚礁が見てとれた。

 そしてなんと言っても1番目を引くのはあちらこちらにある光源の数々であろう。

 過去には地上であり歩く為に使われていたであろう石畳の歩道には青く淡く発光する半透明のイソギンチャクがユラユラと揺れ動き、それらの間や壁にはピンクや黄色にユラユラと点滅するウミユリが咲いている。

 更にはそこらに居る他の水潭族や海月も発光しており、1つの小宇宙がそこには存在していた。


「はー……」


 ため息が思わず出てしまう。現実離れしたその光景に頭が追い付かなくなってしまったのだろうか。

 古いプランターには花の代わりに色とりどりの珊瑚が植えられ、そうでなくてもあちこちに珊瑚は咲いていた。


「どうよ。これがもう1つのアクアスよ!」


 エルが胸を張って言う。


「シャリー達もここに暮らしてるのか?」


 私は自分を支えているシャリーに尋ねる。


「そう、です。後で行く、ですよ」

「ほう、楽しみだ」

「別に大した所じゃない、ですけど」

『俺達にとっては水中ってだけで大した所だからな!』



「待たせたわね、レイヨン」


 水中から上がり、エルが待っていたレイヨンに言う。


 今でも満足感が心を埋めつくして離れない。どこかで"世界一美しい都市"だと何処かで聞いた事はあったがまさかこれ程とは……

 あの後、シャリー達の家へと行った私達はそこで簡単な水菓子を食べる事となった。

 水中に漂うぷるんとしたカラフルなそれは、私達の渇いていた喉と空っぽの胃を満足させるのには十分だった。


 水中都市に行くのはこれが初めてだった。先述したが、これまでここに来た時は神殿に直接行き、そして帰っていたので観光などしなかったのだ。だからこれ程美しい光景があるなど知らなかった。


「あなた達まさか満腹になんてなってないでしょうね。今からはちゃんとした昼食を食べに行くのよ?」

「あ、ああ。まだ入るぞ」

「アンタ育ち盛りなんだからいっぱい食べなきゃ駄目よ?」

「最初私に奢らせようとしていた者が吐く台詞ではないぞ」

「あれは冗談だって」


 その様子を見ていたレイヨンが笑いながら船を漕ぐ。


「ガハハ! まあ許してやんな嬢ちゃん。コイツのそれはいつもの事なのさ」

「はあ……」


 私はため息をついた。



「さて、これで一通り終わったわね」


 神殿前の船着き場に上がり、エルはそう言った。

 あの後、トロートリアという大衆食堂で私達は昼食をとった。そこで出された食事は彼女がお墨付きを与える通りどれも非常に美味だった。

 例えば宝石魚(ジュエルフィッシュ)の刺身。光の加減で7色に輝く半透明の身が海藻の上に盛り付けられている。それをフォークで刺し、塩を少し付けて食べる。見た目の印象とは正反対で、噛むと心地良い上質な脂で口の中が満たされる。それを2枚食べ、口か脂っこくなれば海藻を食べる。そうすればもう刺身を食べる永久機関の完成だ。気付けば皿の上には何も無くなっていた。

 その後に来た、リボンの様な形のパスタにプリプリの海老、バジル、イカが和えられているそれはレモンと塩胡椒のみでさっぱりとした味付けになっており、濃い刺身を食べた後ではスイスイと食べる事が出来た。

 そして、何といっても値段である。先述した2つの他に魚と芋を揚げた物や何故かニシンの頭が飛び出している狂気的な見た目のパイ、カボチャのスープやマンゴーグレープを使ったワインなども味わって計小銅貨3枚である。1.5エル、このレベルの料理を食べてこれはかなり安い。


 次に行ったのは水上商店街だ。

 それはその名の通り水上に作り出された商店街であり、露店に改造された小舟が広い水路に無数に並んでいるのだ。

 それらに行こうとまた無数のゴンドラが屯している。だが元々の広さも相まって不思議と圧迫感は少なく、その場を支配しているのは心地良い賑やかさだけだった。

 私はそこでペアのペンダントを買った。アクアスの屋根と同じ色の紡錘形の石が付いたペンダント。それをカイの首輪に着けてやる、彼は感動し抱き着こうとしてきたので取り敢えず投げ飛ばしておいた。


 そんなこんなで当初の予定から大幅に外れ随分と観光を楽しんでしまい、いつの間にか空は紅く染まっていた。不思議だ、私がここに着いた時はまだ午前10時だった筈……懐中時計を見れば、短針は5を少し過ぎていた。

 私達は煉瓦造りの神殿へ近付いていく。段差を上がり、その建物の前で多くの人々が手を合わせる。

 一般の者が神殿に入る事は出来ない。神聖だから、とかそういう話ではない。もっと単純に、神のプライバシーの為である。神殿とは神の自宅なのだから当然といえば当然だ。


「そういえば、アンタ達は何で神殿に来たがってたの?」

「……私はここの神に会いたいんだ。ある頼み事があってな」

「ふーん……アポとかはとってる?」

「アポ……? あっ」

「はあ……何の前準備もせずに会えるわけないじゃない。アンタまだ感覚が()()()()()のね」

『も、盲点だった……』

「そ、そういえばそうだ……ん?」


 よく考えてみれば、今の私は一般人である。何故かここに来ればエルーブルーに会えると思い込んでいたが、よく考えてみれば向こうがこちらと会う必要性は何一つ無いのだ。盲点などではない、当然だ。

 それを思い出して恥じ、次にエルの奇妙な口ぶりに眉をひそめる。


「ホントに幸運ね、こうして()()()()()()()()()んだから」


 エルは帽子を脱ぐ。青い美しい髪がたなびき、()()()()()()。身体が全体的に大きくなり、人間でいえば十代後半程度にまで成長する。


 そして、その見た目に私は見覚えがあった。


「あ……へ……?」

『嘘……だろ……』


「全く……ちょっとは気付いてくれてもいいんじゃないかしら?」


 その少女こそ、私が会おうとしていた神───エルーブルーだったのだから。



「久しぶりね、リーフ(・・・)

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