今日から
寒いです
朝日が瞼を焼く。
私はどうやら眠っていたみたいだ。
焚火の火は消え、ルビアはハコのお腹で毛にくるまって寝ている。
私を差し置いてハコをモフるとは、油断も隙もないヤツだ。
まぁさ?美少女とモフいケモノは相性が良いしさ?
見た目も和むしさ?
そりゃあさ?目玉に触手の私よりは綺麗な絵になるさ。
悔しくなんてないから。
悔しくなんて…
ハコとルビアの寝姿を見てふと思った。
昨日まで化け物枠をシェアし合っていたグランサーペントがラミアに進化した事で、シェア相手がいなくなった。
この中で化け物然とした姿なのは私だけではないか!
こんなのズルイ!
私だってこんな風になる前は中々の美人(自称)だったのに!
そりゃあさ、みんなには獅子顔って揶揄されたりしたけど、旦那だって息子だっていたんだからね?
普段から獅子顔だったわけじゃないしー。
て、私何を言ってるんだ?
なんだか意味不な事を思い出した気がする。
大体獅子顔ってなんだよ。
それこそ化け物じゃないか。
何でこんな事思ったんだろ?
まぁいっか。
なんか変な夢でも見て、その記憶がダブって出てきたんだろう。
さてさて、今日はどんな予定でしょうかね?
アムスさんが疲れてるっぽいから、とりあえずはごはんの調達かな?
それとルビアの上着がいるな。
まだお胸はぺったんこだけど、女の子が全裸ってのはなにかと問題でしょう。
でもなー、上着っていっても、このパーティで人に会うのはヤバそうだしなー。
そもそも服買うお金なんて持ってないし。
どうしたもんか。
そんな事を考えていると、ルビアが目を覚ました。
「おはようございますアイ様!」
寝起きから元気である。
眩しい笑顔で目玉の妖怪に挨拶する美少女。
違和感パない。
目玉なので表情には出せないが、なるべく明るい雰囲気でルビアに挨拶を送る。「おはようルビア!よく眠れた?」
「はい!アイ様!ハコちゃんのおかげでぐっすり眠れました!」
やっぱりハコのモフは素晴らしいらしい。
いいもん!私だってハコに騎乗すればずーっとモフり放題だもん!
触手の数だけモフモフできるんだからね!
おっと、いかんいかん、可愛い美少女に何対抗心を燃やしているんだ。
そんな事より今日の予定を立てなきゃ。
アムスさん?アムスさんやーい?
起きない。
呼びかけに応えられない程疲れたのかな?
アムスの力は私達の主柱だ。
いざという時にアムスさんの助けが無かったら私達はピンチを抜けられないかもしれない。
ここはアムスさんにはゆっくり回復してもらおう。
アムスさんを頼る前に私達は私達で出来ることをしようと決めて、私はルビアとこれからの事を話し始める。
ちなみにハコはまだ夢の中だ。
「まずは先立ってルビアの服を調達したいよね。だってほら、ね?あなた今上半身はね?あれでしょ?」
それとなくルビアに上半身が露わになっている事実を告げてみる。
自分の体を見てルビアは
「私の体何かおかしいですか?私とっても気に入ってるんですけど?」
そっかー、そりゃそうだよね。
今まで服を着るなんて概念ごと無かったんだから、今の上半身事情に違和感なんて無いよねー。
これは困った。
ルビアに裸の羞恥心を教えるにはどう説明したらいいのか。
そんな事を考えていると
「アイ様、服ってなんですか?」
えっ?そこから?
あ、ここは人の踏み入らないユーニアの森。
その更に奥地だった。
ルビアはもしかしたら人間を見たことが無いのかもしれない。
「ルビアは人間を見たことはある?」
「はい、ございます。私がまだ母の側にいたころ、森に入ってきた人間を遠目に見ました。」
良かった。人間を知らないなら説明を全力でアムスさんに投げつけるところだったよ。
しかし人間を遠目に見たとはどういう事だろう?
あの好戦的でイケイケなグランサーペント時のルビアなら狩っていてもおかしくなさそうだが。
「遠目に見たって事は狩ってはいないって事なの?」
その問いにルビアは
「母から聞いた話だと、人間を襲うと後でいっぱいの人間が森に入ってきて復讐されるから、人間には手出ししちゃ駄目って言われました。人間に遭遇しても殺しちゃ駄目なんだって。この森の掟らしいです。」
森の掟?
弱肉強食の自然の中でそんなルールがあるなんて。
てか、そんな掟誰が作ったのか?
森の生き物に掟を強いるような存在がいるのか?
人間が集団で襲ってくるなんて知識を持つ者が森の上位存在としているって事だよね?
人からすれば、その存在の方が怖いよね。
知性がかなり高いって事だもんね。
ルビアからその存在の事を知っているか聞いたが、ルビアは母からの又聞きで、掟を誰が作ったのかは知らなかった。
これは後でアムスさんにも報告しておいた方が良さそうだね。
私は話を戻して
「ルビアが見た人間ってどんな見た目だったか覚えてる?」
「はい、顔は人間なんで似たり寄ったりだったけど、体の色は個体ごとに違ってましたね。皮膚もなんだか無駄に余ってる感じで顔と同じ皮膚の色が少ないので、派手な生き物だなぁと思いました。」
なるほど、服の概念が無いルビアにとって、服は皮膚と認識してるんだな。
制服でも着てないと統一感は無いし、その認識でも仕方ないのか。
「あのねルビア、その余った皮膚に見えた物が服って言うんだよ。人間の皮膚は顔の色と一緒なの。人間の皮膚はとても薄くて弱いから、皮膚の上に服を着てるんだ。」
「そーだったんですか。変な生き物だと思ったけど、皮膚が弱いから服って物で体を保護していたんですね?」
「そうだよ。まぁそれだけじゃないんだけど。人間ってのは長い間服を着てきたので、服を着ていない姿を他の人に見られるのが恥ずかしいと思う生き物なんだ。」
そう、人間は恥を知る生き物なんだよ。
私は恥を忘れて傲慢になった人間を…
て、なんだこれ?
何の感想が出てきてるんだ?
今朝はやたら変な夢の影響が出るね。
それはさておき
「ルビアの上半身も肌が剥き出しだから、私的には服を着てもらいたいんだよ。」
「それなら鱗を引き上げて隠せば良いですか?」
なんて?
「昨夜自分の新しい体を色々試してみたんですけど、全身に鱗を出せるみたいなんです。」
なんとしっかりしたお子さんだ。
ちゃんと自分が出来ることを確認してたなんて、お姉さんは感動してるよ。
それなら
「顔と腕はそのままでいいから、首から下を鱗で覆ってみてくれる?」
すると、ルビアはするすると鱗を生やし、腕と顔以外は鱗で覆ってノースリーブを着た感じになった。
「うん、いい感じだね。これからは基本その姿でいようね。」
こうしてあっさりと朝飯前に問題が一つ片付いた。
後はごはんの調達だな。
ハコが起きたら森に戻ってハント再開と行きますか。
あ、でも少女みたいなルビアには危険じゃないかな?
でも、ルビアをここに置いて行くのも危ない気がするし、どうしたもんかな。
「ルビア、ハコが起きたら森に戻って狩りをしようと思ってるんだけど、どうする?洞窟の中で待ってる?」
私の心配を他所に
「もちろん私もついて行きます。ラミアの力を試して自分の出来ることを知っておきたいので!」
あ、そうか。
ルビアはラミアに進化したんだった。
見た目の美少女感に忘れてたけど、グランサーペントより上位の存在になったんだよね。
あのバカデカいグランサーペントより強くなってる筈なんだよね。
そりゃー自分の新しい力を試したくもなるよね。
うっかりしてたよ。
「それじゃあハコが起きたら一緒に狩りをしよう。その後でまたここに戻ってきて、朝ごはんにしようね!」
「はい!ラミアになってどれだけ力が上がったか確かめるのが楽しみです!」
見た目の圧がグランサーペントと違うから、違和感があるけど、蛇種はやっぱり捕食者側の思考なんだろうな。
赤い瞳を輝かせてルビアは言った。
それにしてもハコは起きない。
ちょっと起こすか。
「ハコー、ハコちゃんやーい、もう朝ですよー。そろそろ起きてくださーい。」
思念送ってもハコは反応しない。
ま、まさか…死んでないよね?
側に寄って触手で触れてみると、ちゃんと温かかった。
胸も上下してる。
生きてる生きてる。
もうちょっといじってみるか。
「ハコちゃーん。早く起きないと、朝ごはん抜きですよー!起きなさーい!」
「ごはん抜き!?それは嫌ですっ!」
ごはん抜きに釣られて起きました。
「うぅー、朝は辛いです…ボクは夜型なんですよー。月狼だけに。」
そんな事を呟きながらハコは前足で器用に目元を擦った。
猫かっ!猫なのか!?
とりあえずハコも起きたから、これから狩りをしに森へ戻る事を伝えて私はハコに跨った。
とりあえずアムスさんが動ける位のエネルギーを確保する。
ハコをお腹いっぱいにして、ルビアの力を確認する。
今朝はこの3つを主題に行動しよう。
胸の中でそう決めた。
「それじゃあハコ、ルビア、行くよ!」
そう言って私達は森へと向かって行った。
厳冬ですね