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第7話

「一応聞くが、本気で言ってるんだよな?」

「ええ、本気よ」



 花ケ崎の迷いのない一言に俺は何を言っても駄目だと悟った。



「……質問なんだが、そのお前を恋に落とすってのも期限があるのか? もしそうだったとしたら月々返済するみたく何かしらを定期的に示さなければならないなのか?」

「そうね、期限を設けるとしたら同じクラスが確定している今年度中。後者はお金の時同様、毎月『愛』を返してもらうわ。返済ならぬ『返愛』ね」

「いや当然のように仰るけど最後の全然意味わからないからね。『返愛』って何? 十六年間生きてきた中で初めて聞いた単語なんだけど、パワーワードか何か? それに毎月愛を返すって具体的にどうすればいいんだよ」



 俺は花ケ崎の説明の不備を徹底的に追求した。しかし彼女は悪びれる様子もなく寧ろ大きく溜息を吐いて不満を顔に出した。



「脆弱な頭ね。読んで字の如く、愛を返していけばいいのよ。毎月私が課す好感度ノルマをあなたは達していけばいいのよ」

「なにその好感度ノルマって、目に見えるものなの?」

「いいえ、私の心の中でしかわからないわ。そんなこともわからないの?」

「そんなこともわからないの? じゃねーわッ! そんなもんお前のさじ加減一つで生かすも殺すもできるってことじゃねーか。だいたい無形のものを毎月返すってこと自体が抽象的過ぎるんだよ。こっちは人生かかってんだぞ!」

「ならなに? 今月は手を繋ぎましょう、来月はキスしましょうとか行動を示せと? 悪いけど私はそんな作られた道筋に落ちてるような恋愛はごめんだわ。あくまで自然に、ナチュラルに、そして見える世界が色鮮やかに彩られるような純粋な恋がしたいの。わかる?」

「わかるかッ!」

「あら」



 不毛と呼ぶべき言い争いを経て、俺は腹を決めた。金で解決すると。



「決まったようね黒金君。その前にまず示談に応じるか否かをあなたの口から聞かせてもらえるかしら」

「断ったらお前は俺の平穏に終止符を打つんだろ? なら応じる」

「そう、ならどちらを選ぶ? 私を恋に落とすか、それとも……」



 俺は見逃さなかった。この微妙な間の中で、口元に冷笑を浮かばせた彼女を。



「私に五百万を払うか」

「――なッ!」

「どちらも嫌なら断ればいいわ。その場合、黒金君の人生が終わる……あなたの言葉を借りれば平穏に終止符を打つ、かしらね」

「いやだから金額が増えて――」

「――なら断るのね、わかったわ」



 一方的に言い捨てた花ケ崎は矢庭にスマホを操作しだした。



「お、おいッ! わかった、わかったから!」



 しかし彼女は操作する手を緩めない。



「恋に、お前を恋に落とすからッ!」

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