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第4話

 ここがターンイングポイント、人生の岐路だ。恐らく誤解してるであろうこの女に俺の無実を証明して愛する平和を取り戻す。その為にも一切の容赦はしない。



「じゃあ早速、黒金君が白昼堂々と田宮さんに公然猥褻を犯した件なのだけれど――」

「――異議あり」



 俺は力強く手を挙げ申し立てた。話の腰を折られた花ケ崎は、しかし不満の一つも表に出すことなくすまし顔で拝聴する姿勢だ。



「あれは俺も田宮も予測していなかった不慮な事故、断じて卑猥な行為なんかじゃない。俺と田宮はたまたま出合い頭にぶつかってたまたまあんな形で倒れてしまったんだ。けど、後から来たお前が誤解するのも仕方がない事だと思う。誰だってあの状況を目撃すればそう勘違いする……でもそうじゃない。これは自己弁護でも虚言でもなくありのままの事実だ。田宮だってきっと証人になってくれるはずだ。だから俺を犯罪者呼ばわりするのをやめていただきたい!」



 俺は腕を伸ばし人差し指を突き付けるような勢いで花ケ崎に言い放った。

 ……勝ったな。いち早く話の主導権を握り、嘘偽りのない真実をぶつける。それに加え被害者だと決めつけていた田宮を証人としてたてられたらもう反論の余地がない。



「だからあの写真も消してくれ。ほかの人に見られたら誤解されるから」

 


 勝利を確信した俺はあらぬ証拠の抹消にかかる。しかし、敗者である花ケ崎はただ笑っていた。その笑みは敗北を誤魔化そうとするぎこちないものではなく自然な笑み、その余裕さは俺の中ですでに出来上がっていた勝利の土台を容易くぐらつかせた。



「話は最後まで聞くものよ、黒金君」



 静かで優しくて、それでいて冷たすぎる花ケ崎の声音。そんな彼女が見せる透明感あふれる澄んだ笑顔に悪魔が憑依した。



「黒金君がさっき話した全てが事実であることを私は知っているわ」

「……は?」



 予想外の発言に俺は完全に虚を衝かれた。



「意味が分からないって顔してるわね。でもこれも事実なの。私はこの目ではっきり見ていたのよ、事の顛末を」

「なッ、じゃあどうして写真を」



 すっかり主導権を奪われてしまった俺は花ケ崎の謎すぎる行動の理由について言及した。



「あの状況は絶好だったからよ。弱みを握るのには」

「弱み?」

「ええ。あの写真は黒金君の弱みとして機能すると思ったから撮ったの。でも安心して、悪用したり陥れたりするつもりはないから。あくまで道具、黒金君に素直に応じてもらう為の。だから……」



 不敵な笑みで俺を見つめる花ケ崎の瞳には揺るぎなき自信が宿されているように見えた。



「――取引しましょう」



 その言葉を受けた俺は理解した。花ケ崎の不可解な行動の根本はこの瞬間の為にあったのだ。でも、だとしてもわからない事がある。



「どうして俺なんだ?」



 そう、何故俺なのか、接点どころか今まで会話した覚えすらない花ケ崎にどうして俺が弱みを握られなくてはいけないのか、それがわからなかった。



「別に黒金君を狙い撃ちしたわけではないわ。学内なら誰でもよかったの。首を横に振ることが許されないくらいの弱みを見せてくれたら誰でもね」



 花ケ崎は用意されていたかのようにスラスラと答えを述べる。



「つまりたまたまだったと。なるほど、でもまあそれなら納得はできるな」

「なら良かった。全ては円滑に取引を進める為……取引と言うより今回のケースの場合は示談の方がしっくりくるわね。黒金君は加害者なわけだし」

「いやだから犯罪者じゃないから。あれが事故だと知っているってお前も言ってただろ」

「知っているわ。でもそれは一部始終を目撃していたから。事故の一部を切り取ったあの写真を何も知らない人達が見たらどうなるか……黒金君も言ってたように間違いなく誤解するわ。ネットに拡散されたら数の力で黒金君は加害者の烙印を押されてしまう。多数決とは残酷なものね」

「だからこその証人だろ。被害者であるはずの田宮が否定すれば納得せざるを得ない」

「その証人が軟弱すぎるのよね」

「どういう意味だよ」



 真顔でそう言った花ケ崎に俺は問い詰める。しかし彼女は意味深な発言の意図を明かそうとはせず、脱線した話を元に戻す。



「そもそも証人をたてる必要なんてないのよ。示談に応じればね」

「結局はそこに辿り着くのかよ」

「そうよ。で、どうする?」



 あくまで選ぶ権利は俺にあると主張する花ケ崎。しかしそんな権利あってないようなもの、拒めば死、応じれば生、もはや脅迫以外のなにものでもない。けどそれを指摘したところで状況が好転するとも思えない。


 素直に従うのが定石か……にしてもこいつの要求は一体……。

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