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永遠に続く学校の廊下を、俺は必死になって走っていた。


 西日が差し込む廊下は懐かしさと切なさが入り混じっているようで、けれど感傷に浸ることはなく、俺はただ目の前を悠然と歩く名も知れない誰かを追いかけていた。


 その誰かは女性だった。丸みは柔らかそうで、それなのに体の輪郭はスラッとしていて華奢な曲線美。男性にはない女性特有の美しい体つき、なにより俺が通う高校の女子制服を身にまとっているから間違いない。


 ――追いかけねーとッ!


 俺はありったけの脚力を駆使して両足に無理を強いた。しかし距離は一向に埋まらず、何故か広がりもしなかった。

 女性の落ち着き払った後ろ姿は、全力で駆ける俺を嘲笑っているように見える。


 けれど俺は足を止めなかった。止めちゃいけない気がしたから。追いかけなくては、振り向かせなくてはと、強い衝動にかられたから。俺の人生でこんな気持ちになったのは初めてかもしれない。


 ――待って、待てって、待ってくれッ!


 呼び止めようという想いは燃え盛る炎のように内側を延焼する。だが伝えられない。声が出せない。まるで火の手を食い止めようと遮閉する防火扉が、喉元を塞いでいるかのように。


 そんなもどかしさを味わいながら廊下をひた走る俺の頭に突然、軽い衝撃が走った。

 大したことない痛み。なのに視界が眩み、世界が歪む。意識が朦朧としてくる。


 いいや違う、これは覚醒を強いられてるだけだ。だってこれは……夢なのだから。


 気付けば俺は足を止めたていた。夢と分かってしまえばこの摩訶不思議な世界も容易に納得いく。納得するたびに夢はかすみを増していく。

 そうして夢の世界が終わる……その間近、不意に目の前の女性が立ち止まった。


 今ではもう朧気になりつつある女性がその場でおもむろに振り返える。

 あれほど必死になって追いかけた女性の顔は振り返っているこの瞬間でもわからない。


 女性はデザインの施されていない白い仮面をつけていたのだ。目や口の部分にすら穴は開いておらず、まるでのっぺらぼう。


 制服に仮面という奇抜な格好をする女性は何かを探すように手を前に突き出しそして、



「――私を教えて」


 

 唖然とする俺に仮面の女性はそう言って……そこで世界は白一色で覆われた。

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