表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未来の卵

作者: 愁知 こにこ

 ぼろぼろな紙を持った少女は、とある石像の前で立ち止まり、自分よりも大きい像を見上げていました。

「んっとね。これを、どうするんだろう?」

 首を傾げながら、紙を見つめる姿は真剣そのものです。紙には『たからのちず』と平仮名で書いてあり、石像の辺りに×印がありました。

「うーん、うーん?」

 しばらく考えていた少女は突然。

「あ! わかったぁ」

 と、声を上げると。ぴょこぴょこと弾むような足取りで石像に近づき、土台をぺちぺちと叩き始めました。

「よくわかんないけど、たたけばいいって書いてあるもんねー」

 少女がぺちぺちと手当たり次第に叩き続けると、ガゴン! と土台の一部が引っ込みました。そしてゴゴゴ……。と言う音とともに、ゆっくりと箱が現れました。

「わーい! 出てきたぁ! 何かな何かなぁ?」

 少女は箱を満面の笑みで見つめ、中に入っている物を想像します。

「あまくておいしい『おかし』かなぁ? それとも、すてきな『おようふく』? ううん、昔の人の『たからもの』かもしれない……」

 目の前にある箱の中身に期待を膨らませる少女は、箱に手を伸ばします。

「はこのなっかみーはなんだろなー♪」

 箱は手をかざしただけでゆっくりと開き、中から現れたものは……。

「……?」

 毛布のような暖かな布に包まれ、ふかふかのクッションの上に鎮座している卵型の何かでした。

「たまご?」

 不思議に思った少女が布をめくると、中には真っ白な大きな卵がありました。

「たまごだ、うん」

 少女は予期せぬ卵の登場に一周回って冷静になってしまいます。そして腕組みをし「たまご……、たまご……」と呟いていると何かを思いついたようで、手をポンッと打ちました。

「ん? たまご! たまごかえすの!」

 決めたことはすぐに実行する性格なのか、勢いよく箱を閉めます。そしてその小さな両手で箱を大事そうに抱え、てくてくと家まで持って帰りました。

「るーんたったー、るーんたったー。るーんったったー♪」

 その日、その町には、少女の楽しげな歌が響いていたことでしょう。

 

 

 

 そしてあくる日、少女は卵を見つめていました。

「はやくうまれないかなぁ……?」

 卵は暖かな布の中で、静かに生まれる様子もありません。微動だにしない卵を見つめ続けることに飽きてしまった少女は、床の上を右へゴロゴロ、左へゴロゴロ。そして天井を見つめボーっとしていると、あることに気が付きました。

「あぁー、お名前をつけてあげないと……」

 寝ころんだ状態をやめ、卵の前にちょこんと座ると、少女は卵に手を伸ばします。そして卵の表面を優しく撫でながらゆっくりと声をかけました。

「ねぇ、あなたはどんなお名前がいい?」

 卵は何も言いません。

「そうだなぁー。みくるちゃんがいいかなぁ?」

 にこにことする少女はご機嫌なようで、おもむろにマジックペンを取り出しました。

「るーらるーらるーん♪」

 そしてキュキュッと卵の殻に『未来』と書き、満足げに頷きます。

 

 その日の夜遅く、卵の側で寝ていた少女は柔らかい光によって起こされました。

「んん……? ふわぁ……。あれぇ、なんであかるいのぉ……?」

 眠たげな眼を擦りながら辺りを見回してみると、どうやら卵が光っているようです。

「たまごぉー。ひかってるぅー?」

 寝起きのためか、ゆっくりとした動作で卵から布を取ると、卵にピシッと小さなヒビが入りました。ヒビは少しずつ大きくなり、光も同じように強くなっていきました。

「たまごぉー、うまれるのぉー? がんばれぇー」

 さすがに少しは目が覚めたのか、少女は卵誕生の応援をしています。

 そしてパァーッと少女が光に包まれたかと思うと、卵の上には小さな手のひらサイズの妖精らしき生き物がいました。

「あなたは、みくるちゃん?」

「そうだよ、名前を付けてくれてありがとう。君のおかげで生まれることが出来たよ」

 生まれたばかりの妖精、みくるは少女の周りを嬉しそうに飛び回ります。そんなみくるに少女は元気に話しかけました

「みくるちゃん、おともだちになって!」

「もちろん! あ、君の名前は何て言うの?」

 みくるも元気よく返します。

「みらいだよー。みくるちゃんと同じ字なんだー」

 みらいは卵を指さして、字を教えます。

「そうなの? じゃあ、卵に書いたのは私の名前じゃなかったのかー」

「んー。あのね、『みらい』も『みくるちゃん』も同じ字を書くから、どっちでもいいのー」

 みらいは少し考える素振りを見せると、拙いながらもゆっくりと懸命にみくるへの思いを紡ぎます。

「このたまごは、『みらいのたまご』だけど、うまれてくる子のお名前は『みくる』にしようと思ったからー」

 

 

 

 

 そうして同じ字を書く人間の少女と妖精は、仲良くいつまでも幸せに暮らしたそうです。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ