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人間Aがあらわれた!  作者: 双さん
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人間種に常識外れの化け物がいたら悪夢だよね。

この世界は魔法の力を内包して全ての生き物がその命を謳歌している。

そしてその魔法の力とはすなわち現実に作用する力であり、魔法力が高いというのはそれだけで世界の支配者に近いという事を指し示している。

とはいえ個の力には限界があり、例えその人物が百人力を誇る勇猛果敢な強者だったとしても、101人が力を合わせればその者に太刀打ちできる力が発生するようになっている。

ただ現実として101人が全く同じ思考状況を同時に再現できるかというと不可能なため、百人力を謳う相手を倒すためにはもっと多くの個の力が必要となるわけだが、理論上はそういうことになっている。

そしてエルフの森に捕縛されている人間の青年は、数値で示すなら億人力を軽く凌駕するほどの魔法力を有する化け物であった。

しかし彼が彼自身を“ちょっと特別なただの人間”と認識しているが故に筋力や知性、思考速度といった基本的パフォーマンスは平常時であれば人間と大差ないものに収まっている。


「本来、体力というのはあんたの魔法力に依存するの。自分の体に作用する魔法力を隠力、周囲に火種を浮かべたり水を出したりする魔法力を晰力と呼ぶわ。それで、その隠力の方があんたは桁違いに高い。生き物じゃありえないほどに。だからあんたを傷つけても傷つかないわけ。どうやら痛みは感じられるみたいだけどね。」


金髪のエルフ種である少女体型の娘がこの結論に達したのは、森の中立地帯すぐそばに倒れていた人間を見つけ、通例に則って血液による魔力補給を行おうとして失敗したためであった。

理由を考える中で驚異的な体力を保有した可能性を考えた金髪の少女は、起きている相手の魔法力の分配状況を見ることができる特別な力を持った銀髪のエルフに頼み、確認したのだった。


「それじゃあなんで僕に死ぬか魔力提供かなんて持ちかけたんですか?」


傷がつけられない相手を瞬時に殺すことは通常不可能であるが、それはあくまで普通ならという話。

驚異的な魔法力を持った存在を殺すために何をすればいいかと言えば、相手を勘違いさせることだ。

青年の前世ではプラシーボ効果と言われている現象が、この世界では馬鹿にできないほどの効果を示す場合がある。

つまり、自分はこれから死ぬのだと認識したうえで他人からも死んだと認識されれば、その人物は物理的に致死性があったかどうかに関わらず死ぬ可能性が極めて高くなる。なお、逆も然りである。


「どっちを答えようとやることは一緒だったわ。」


勿論そんな“ハッタリで生き物が殺せる”という事実を丁寧に教えてあげるほど、金髪のエルフも優しくはない。


「生憎とこの村には強制即死の魔道具なんて無いもの。」


そして世間知らずな人間の化け物男に対して偽りの知識を植え付けることで殺害の可能性を少しでも上げようとする余裕もあった。

それはこの化け物に対して極めて有効に作用し、二つの魔法力の分類をHPとMPとして認識した彼は、いわゆる即死魔法に相当するものがこの世界に存在するのだと信じた。


「魔力が僕の体液から摂れるってさっき言ってましたけど、魔力を採って何するつもりだったんですか?」


体内に存在する魔力は体液に潜み、その濃度は体液の種類に依る。と全世界で信じられている。

精液が最も多く、次いで血液、次に汗、その次に唾液とされており、本来体液に魔力など内包されていなかったが、死亡事例による迷信が広がるにつれて、それは魔法の力によって現実のものとなった。


「あんたが知る必要はないわ。」


一部の種族を除いて、魔法力は多少の差こそあれ自己生成が可能だ。

完全に魔法力生成ができない種族もあれば魔法力の生成機能不全に陥る個体が発生しやすい種族も存在する。

その機能不全が発生しやすい個体が多い種族というのが、ほかならぬエルフの一部種族であった。

この世界でのエルフ種は人間のように体表の大部分で毛が生えず、目立つ大きな耳が生えていることが目印である。

そのため、背が高く色白のピュアエルフ、褐色肌のナイトエルフ、背が低いローエルフ、動物性タンパク質が分解可能なブリードエルフに加え、それらを混ぜた性質のエルフを雑多にまとめた5種族が存在する。

この中で魔力生成機能不全に陥りやすいのは、ブリードエルフとピュアエルフである。

もしこのエルフの里に住まうブリードエルフたちに機能不全の者がいることが人間に知られれば、淫猥な人間種がどのような態度に出るかは目に見えている。

魔力を入手することが急務でないことを示すため、ローエルフである金髪の娘は集まっていたブリードエルフたちを解散させると自らも銀髪の娘とその場を後にした。


「ちょっ!待ってください!もう少し話を!」


男の言葉は届いていたが、その場に残ろうとする者は無かった。

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