人間種は畜生なので絶滅しても構わない。
足の震えが収まってしばらく、街道を進めば先ほどと同じような目に遭うことは一目瞭然なので、僕は草原を街道沿いに走って森に突入した。
街道沿いを意識しつつ進んでいたものの、森の中に入ると急に時間の進みが早くなり、気が付けば周辺はかなり暗くなっていた。
火を起こそうにも火種になりそうなものはないし、そもそも草の生えた場所で焚火なんかしたら大火災待ったなしだろう。
しかし何の頼りもなく森で眠るわけにもいかず、せめて誰か火を焚いている所に一時的にでも合流させてもらえれば……
そんなことを考えながら森の中を進んでいると、明かりのない背後からカサリと音がした。
振り返りますか?
はい。
しかしそこには何もなかった。
と思ったのも束の間、顔面に飛来する弓矢を捕捉して顔を逸らすことができたのは、転生女神さまさまといったところだろう。
風切り音の後に響いた樹に矢の当たる音をもって、僕はまた逃げ出した。
張り出した木の根に足を取られながら、飛来する矢が当たらないことを祈りつつ進むと、前方に橙色の光が現れた。焚火だ。
森の中で樹を避けるように作られた街道の続きで焚火をしている誰かの場所に転がり出ると、そこに居たのは見覚えのある赤鬼と狼男とその他の男女様々な亜人達であった。
さながらわんにゃん時空伝のような景色に人間らしき姿はなく、全員が毛むくじゃらの二足歩行だった。
「助けて下さい!誰かに追われてるんです!」
恥も外聞もない懇願をしてなお昼間のように襲ってくるならまた逃げるしかないが、それならそれで弓を撃ってくる謎の原住民と戦ってくれるかもしれない。
「へえ、エルフでも怒らせたのか?俺たちは構わねえから逃げていいぞ。」
狼男が手に持った肉を呑気に齧りながらニヤニヤと追い払うジェスチャーをしている。
「弓を撃ってきたんだ!あなた達も襲われるかもしれないんですよ!?なんでそんなにゆっくり構えてられるんで…す…」
そこで気付く。
エルフが森の番人だとしたら、街道を例外地域として森に侵入した者だけを追ってくる可能性もある。
だとすれば正規の街道ルートでここまで来たのであろうこの亜人たちは攻撃対象とはならない。
逆にここで僕を捕縛してエルフに引き渡せば利益があるかもしれない所を無視してくれているのだとしたら?
妙にニヤニヤした狼男と赤鬼、汚物を見るようなその他の面子は現在の状態で十分に譲歩している可能性があると思えば、庇護下に入れてもらおうなどという気は起きない。
「見逃してくれてありがとう!」
それから脱兎の如く街道を走り続けた僕を追いかけるものは無かった。