一章「世界樹の恩恵」③~『ユグドラシル』始まりの世界~
「す、すみませんっ余りにも怪我が酷かったのでもうダメかと思ったんですが扉を開けたら動いていたので嬉しくてつい飛び付きましたごめんなさい」
早口で捲し立てられさすがに悠里もその事については別に怒ってはいない。まぁさすがに飛び付かれた衝撃で窓の外にダイブしかけたときは本気で死ぬかと思ったが。
「いや、大丈夫だからゆっくりと話してもらえる? 俺何が何だか意味不明でーーーーーーーーーーーーーー」
悠里は今も空を悠々と飛んでいる大きな爬虫類が気になってしまうのだ。
ドラゴンとか獣耳の少女とかドラゴンとか獣耳の少女とかドラゴンとか!
すると悠里の言葉の意味が余り伝わらないのか首を傾げ頭に?マークが浮かんでいる。
「え、えっえっえ? も、もしかして記憶喪失ですか!? 大変です! 記憶を復活させる技術はまだ有りませんがもっともっと頑張って力付けていきますから自分を責めないでお願いだから死なないで下さいぃぃぃぃ!」
もうさすがの悠里も大分と分かって来た。
この子は人の話を最後まで聞かずに自己完結するから何か疲れるのだ。
「いや、あのね話聞いてもらえる? おーい、帰ってこーい」
自分の世界にどっぷりと嵌まった少女は暫く帰って来る様子ではなかった。
さて今この現状を説明してくれる心優しい人はいるのだろうか?
「少しは落ち着いたらどうなの? ラフィ」
気付くと部屋の扉にもたれ掛かっている少女が一人いた。
「ごめんね、彼女治療班だから助かった人がいて嬉しいだけなの。だから気を悪くーーーーーーーーーーーーーー」
「いん、ちょ………………」
悠里は夢の続きを見ているようだった。
色々と抜け落ちていた記憶のピースが幾つか嵌まっていくのを感じる。
「いんちょ! 無事だったのか!? 教えてくれ! 一体ここは何なんだ!?」
今度は悠里が捲し立てる番だったが少女の方はやけに冷静だった。
そして、彼女が冷静な分その言葉も意図はなくともどこか冷たく、
「あー、多分なんだけど“貴方が知っている私と今ここにいる私は多分違うわよ”?」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ?」
ただただ何処までも辛い現実を突き付けられるだけだった。
「な、ん」
「私は菊理水面。多分貴方が知っている女も同じ名前でしょう?」
確かに悠里の目の前にいる少女、菊理水面は自分が知る限り外見と名前が一致している。
どうにも混乱しているとゆっくり、そして信じられない事実を突き付けられる。
「まず色々と質問があるみたいだけど、貴方の最初の疑問。ここがどこかって所から話すとねーーーーーーーーーーーーーーここは『世界樹』と呼ばれる世界。全ての始まりの世界とも云われている所よ」
それは、上梨悠里の心を混乱させるのに十分過ぎる一言だった。
ーーーねぇ、平行世界って知ってる?
例えばだけど『もし、あの時、ああしていれば』そんなifの世界。
そう言った概念が発生した時点で世界は枝分かれしていくの。
それはどういった仕組みかは分からない。でも枝分かれは無限に続いていって最終的には無数に産まれた世界が独自に発達していく事によってそれは“完全なる個”になるってこと。
その中には私や貴方が思い描いている異世界なんて言葉もあるようだけど元を正せばそれは私たちが住んでいた世界の枝分かれをした結果独自に出来上がっている世界と言うことにもなる。
この『世界樹』は“その始まりの世界”と言うことね。
「これが貴方の最初の疑問ーーー分からないところはあるかしら?」
菊理水面が一度区切ると悠里は頭を抱える。
「なんですかそのRPGみたいなノリは……………………今流行りの“異世界モノ”ですか? ここは小説の中かっての。じゃあ何か? あの今も空を悠々と飛び続けてる羽根付きトカゲは今言ったようにーーーーーーーーー」
「んー、アレは少し違うかな? 一応元々この世界の生き物って説もあるが分からないわね………………“何せあのドラゴンは余裕で四桁の年齢って聞いたこともあるわよ”」
今度こそ悠里の頭の中は真っ白になった。
もう燃え尽きて灰になるほどだった。だが疑問が残る。
「ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーーここがその世界の根元だってことは、何で俺はここに居るんだ?」
すると水面の表情が少し曇る。
まるで何か思い出したくない過去を抉られたような表情だった。
「貴方は、“自分の世界での最後の記憶を覚えているかしら”?」
「最後ーーーーーーーーーーーーーーだと?」
悠里の脳裏にあの惨劇がフラッシュバックしていく。
悠里の家族を、仲間を、日常を、粉々に崩した災厄とーーーーーーーーー思い出したくもない紅い空を割って出てきた“何か”がーーーーーーーーーーーーーー。
「ッッッッッッ!!」
背筋がゾッとする。
初めて『絶望』に見舞われたあの光景。
「“やっぱりね”……………………………………………………貴方もそうだったのね」
水面は窓際に立ち遠い目で空を見上げる。
彼女の視線は何処を写しているか分からないが悠里が彼女に話し掛けるのを躊躇わせる。
「多分、貴方と同じで“私もある日突然世界が滅んだの”」
それは、悠里が密かに思った答えと一致してしまった。
けして嬉しくない非情な解答だった。




