【詩】最後の舞台、最後の芝居・金魚の家の遊び人
【ジャンル】終(しゅうまく・おわり)
その男は一人、佇んでいた
何時から劇団で芝居をしてきたのかなど、興味もなくなっていた
暗く、誰もいない舞台
壇上から見下ろす客のいない空白の座る席
練習とは違う、虚しい対面
けれど男は笑っていた、たった一人で笑っていた
そんな舞台が華やぐのは
今日終えたばかりの演劇が始まったから
男のたった一人の、憶えている限り
いや、全ての役を一人で演じきる芝居が始まったから
空から注ぐ月の光が、いつしか空白の席に影の観客を作り出す頃に
男は息を整え、その客達に向かって、そっと、お辞儀する
まるで頭の上に物が乗っているかのように、そっと
それは演目の終了を、終幕を意味していた
男は下がらない緞帳の代わりに暫く下げていた頭を持ち上げると
先の芝居に負けぬ劣らぬ声を張り上げた
それは今いる客に向けて、今日見に来てくれた客に向けて
そして……
「拍手を、どうか拍手を!!
芝居が今、終幕したのだから!
一つの芝居が今日で終演なのだから!
どうか、どうか拍手を!!」
一人の人生という芝居を見てきた全ての客に向けて
男は拍手を求めた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
透けるガラスの金魚鉢
風が渦巻き毬になる
その中君はワンピース
スカート捲れも気にもせず
風と戯れ毬の中
降って散るは太陽光
反射し中は金剛石
日に焼けるも気にもせず
君は戯れ毬の中
君は戯れ光の中
雲が湧き出て金魚鉢
中に溜まるは雨の水
水に溺れても気にもせず
君は戯れ水の中
君は戯れ闇の中