【短編詩】牙
【ジャンル】現代童話
人を傷つけるための牙 生まれつきの鋭い牙
大声あげて泣く僕を、産婆さんは誰も抱えなかった
記憶の無い時の悲しい記憶
でも僕の牙は人を傷つける牙 恐ろしい牙
周りから避けられる牙 見せなければ怖がられない牙
僕は笑わなくなった
口を開かなくなった
誰とも、お母さん以外とは話さなくなった
逃げるように去った町、新しく来た町
だから僕は牙を誰にも見せない この恐ろしい牙
見つかった牙 逃げられない牙
話せないことになっていた僕でも、友達ができた
可愛い女の子、手を繋ぐのも緊張する
一緒に並んだ帰り道
転びそうになったのを助けた時に見られた
驚いていたけど女の子は怖がらずに笑ってくれた
やっと牙を見せてもいい人 本当は恐ろしくない牙
噛みついた牙 血まみれの牙
通いなれた道、女の子の家に向かう道
雨が降ってるから笑える 傘差し日和は人が下を向く
嬉しくて弾むノック 中から物音がする
誰もいない 誰も出てこない
でもする物音 雷に混ざる悲鳴
入って見たのは女の子を抑え込む男
やめてという女の子
きっとこの時は何も考えてなかった 初めて使った恐ろしい牙
見せたくない牙 見られる牙
「小学生の男の子が同級生の女の子の部屋に押し込み、あろうことか襲おうとしているところに父親が来て、止めに入られて父親を噛み殺した恐ろしい事件をお伝えしました。では次のニュースです」
薄暗い部屋の中 僕は一人
凶器は口の中 誰も一緒に入らない
食事中 僕の部屋の前は人だかり
僕のいうことは誰も信じてくれない 女の子さえも
でも僕は助けようとしたのに、この牙が邪魔をする
だって僕はオオカミ少年 真実が嘘になる恐ろしい牙