地獄行き電車
すっかり木々の葉も落ちきった季節のことでございます。
街ゆく人々はみなコートを羽織り、手袋をつけて街を歩いております。
そこに一人まるで寝巻きのような軽装のまま裸足で小さな無人駅へ向かう少女がおりました。
こんな季節といえど、もう日も登りきろうかという時刻にも関わらず、少女は学校に行く気配もなく歩いております。
そろそろ電車が来てもいい時刻になっても、駅へ向かう踏み切りは降りて来ません。
しかし誰一人不満がらずに不審がらずにおりました。
ぺたぺたとコンクリートの道を踏んでいた少女の足が、踏み切りのレールを越えた時のことでした。
かんかんかんとゆっくり遮断機が降りてくるではありませんか。
まるでまだ行くなと言っているようでございます。
先ほどまではおいでおいでと手招いていたのに、見事な手のひらの返しようではございませんか。
それを一瞥しながらも、少女は駅に向かって歩みを止めることはごさいません。
そのまま駅の中へ入ってゆきますと、無人のはずなのに切符も持っていない少女のために改札ががたりとひらいたではございませんか。
このときわたくしは激しい怒りと憤りを感じましたが、どうすることもできません。
やがて右手のほうから電車がやってまいります。
なにやら行き先も乗客もおりませぬ奇妙な電車ではございましたが、少女はなんの迷いもなく乗り込みます。
最後の猶予だと言わんばかりに十秒ほど電車のドアは閉まりませんが、乗るものも降りるものも現れません。
そのうちドアは閉じ、電車は走り去ってゆきました。
暗い闇のほうへと、地の底のほうへと、走り去ってゆきました。
彼女の乗った電車は、どこに向かっているのでしょうか。
がたんごとんと。
いつまでもここにとどまり続けている私には、それは皆目見当もつきません。
まだ残暑も残るこの季節に、なぜ自分はこんな寒々しい小説を書いているのかという気分です。
さてこの「地獄行き電車」ですが、物語の背景としては、街中を薄着で歩いている少女は、その日の朝自殺した少女の魂です。
なぜ薄着なのかといいますと、家の中で首吊り自殺をしたそのままの格好で幽体になったということです。
次に少女の乗って行った電車ですが、これはタイトル通り地獄行き電車です。
地獄へ行く魂を目的地まで運んでいきます。
親より早く死んだので少女は問答無用で地獄行きなのですね。他にもなにか悪さをしていたのかもしれませんが。
ちなみにその少女をフカンで眺めていたこの小説の語り手「私」ですが、彼はいつかに死んでこの町の浮遊霊となったものです。
いつもああやって地獄行きの電車に乗り込む者達を眺めています。
作者としてはそんなふうに登場人物たちを見ています。
謝辞
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改めてここまで読んでいただきありがとうございました。