少女
今回は少し短めです。でも描写頑張りました。
夜の闇よりも黒い髪。まるで雪のように輝く白い肌。薄紅色の唇の間から僅かに見える白玉の歯。クリクリとしたその大きな目は自信たっぷりにこちらを見ている。
全く見覚えの無い少女がそこにいた。赤の他人のはずなのだが、どこか見覚えがある気がする。具体的にはあのドヤ顔とか。
そのドヤ顔をさらに深め、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。動く度に体から零れ落ちそうになるその黒髪は、太陽の日差しを吸い込んで薄紫色の妖艶な光さえ見せる。正体に薄々気付いていなければ一目惚れしていたかもしれない。
「シコクか」
俺のその呟きに驚くも気付いてもらえたのが嬉しかったのだろう、幼さの残った顔から向日葵のような笑顔が溢れる。
「はい、主人様。小さくなれとのご命令でしたので、せっかくですから人間になってみました。どうでしょう、上手く出来ておりますか?」
「うん、ぱっと見人間と変わらないよ」
本当に変わらない。いや、人間の中では美少女の部類だろう。顔だけでなくスタイルもとても細い。あんなに大きかったドラゴンの姿が嘘みたいだ。
「まだなりたてで上手く動けませんので戦闘には向きませんが、生活する分には問題ありません。ああ、戦闘には向かないと言っても、この辺りの雑魚には流石に遅れをとりませんのでそこはご安心ください」
「大丈夫、そこは心配してないよ」
シコクが今更俺をわざわざ危険な状況にするとは思えないしね。でもまた一人で行って迷ったら困るから近くにいてもらおう。そう、主に俺が困る。生命の危機という意味で。
シコクにとってはこの辺りの魔物は雑魚でも、俺にとっては会ったら即死が見えるのだ。怖すぎてシコクの側から離れたくない。
「それでは参りましょう、こちらです」
そう言ってシコクは先ほど話していた街道の方にスタスタと歩き出してしまう。
「いや、ちょっと待って。それはまずい」
「何故ですか?こちらが一番の近道です」
俺に止められたシコクは何故止められたのか全く分からないという顔で俺を見る。
「うん、それは分かってる。でもその前に服を着ようか」
少女を裸で歩かせているところを誰かに見られたら間違いなく捕まるだろう。