小さくなる
昔見ていたヒーロー物では毎回必ずと言って良いほど変身してました。その変身シーンは大人になった今でも心が踊ります。
包み込まれるように柔らかい朝の日差しを受け、少しだけ眉をひそめる。朝の微睡みを楽しもうとするも、野宿している事を思い出し目を覚ます。
後ろ髪を引かれる思いで立ち上がり、伸びをすると後ろから服が引っ張られた。引っ張られた方を見るとシコクの鱗と鱗の間に服の裾が挟まっていた。
「おはよう、シコク」
服を鱗から外しながら声をかける。シコクは服が挟まっていたところを少しだけ見つめ、起き上がった。
「おはようございます、主人様」
ドラゴンであるシコクが立ち上がると、地平線から顔を覗かせたばかりの低い太陽がシコクの体で遮られる。爽やかな朝ではあるが、日陰になると思い出したように鳥肌が立った。
体を温めるために昨日と同じ要領で火を焚く。まず、空に向けてシコクに弱く火を吐いてもらう。直接かまどに吐くと確実に溶かしてしまうからだ。
口元に大きな木の枝をもっていけば種火の完成だ。あとは火が途切れないように薪をくべていく。数本くべたところで火が安定してきた。
シコクが昨日狩った蛇の肉を出してくれる。朝から肉か。食べれなくはないが中々きついものがある。
文句を言っても他に食べるものもないので、蛇肉を適当な大きさに切り、たった今作った木串に刺していく。それを火の側に刺すと赤身肉と脂が焼ける良い匂いがしてきた。
体とは正直なもので、先程まではきついと思っていた肉も今では食べたくてウズウズしている。それはシコクも同じようで、視線が肉串に釘付けになっていた。
焦げ目が少し付き、ちょうど良い焼き色になった肉串を葉っぱの上にバラして置く。シコクに渡すとすぐに食べ始めた。
それを見て俺も食べ始める。昨日と同じものなのに、今日は余裕があるからかゆっくりと食べられる。数本食べたところでシコクが欲しそうにこっちを見ていたので、最後の一本は半分こにした。
「今まで食べたものの中で一番美味しかったです」
「そりゃ一流のシェフですから」
軽く冗談を言いながらかまどの火を消し、軽く体をほぐして出発の準備をする。
「そういえば、街道⋯⋯人がよく通ってる道はこの近くにある?」
シコクによればこの辺りに国があるとの事だから街道もあるんじゃないかな。それを肯定するようにシコクは太陽とは反対の方角を指差した。あっちね。
「ここをずっと行くとこの森から出ます。そしてすぐ人がよく使っている道に出ます。その道をずっと行くと人が数多くいる場所に着きます」
おそらくその人が数多くいる場所というのが国だろう。街道を通れば人とも会うだろうし、あわよくばそこで何らかの情報が手に入るかもしれない。
今の俺はこの世界の事を何も知らない。とにかく何でも良いから情報が欲しい。
そう考え、歩き出すと
「私の背中に乗って行きますか?」
シコクが提案してくる。なるほど、確かにシコクに乗って行ければ歩くよりも遥かに早く着くだろう。しかし、ドラゴンに乗って行くのはまずいんじゃないかと思う。
スライムやゴブリンなんかのモンスターでも俺は死にかけたのに、そいつらを瞬殺するシコクに乗って行ったらとんでもない騒ぎになりそうだ。というか、このままのシコクを連れて行ったらそれだけで騒ぎになるだろう。
「シコク、ちょっと小さくなれない?」
「小さくですか?」
「うん、今のままだと騒ぎになっちゃうと思うから姿を変えて欲しいんだ。出来るだけ小さくて危害を加えなさそうな姿に変身って出来ないかな」
駄目元で聞いてみたが、シコクは承知と言ってなにやら集中し始めた。何でもありだなドラゴンは。不意にシコクに光が集まり始めると、その光が突然閃光のように輝いた。
突然の事に思わず目を背けるも、間に合わずに目がやられてしまった。何かやるなら事前に言っておいて欲しい。
しばらく経ち、ようやく目が見えるようになってくると
そこには小さな女の子がいた。