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6/8

焼肉

焼肉って楽しいですよね。なんで友達と話しながら肉を焼くだけであんなにテンションが上がるんでしょう。

 シコクが頬を赤く染めている。石を囲うように置いて作った簡易なかまどの中に、大きめの薪をくべて炎を安定させる。

 木の枝から作った串に蛇の肉を通し、炎の側に刺しておく。新しい薪をくべながらシコクを見るとこちらを興味深そうに見ていた。


「肉を焼くとは、驚きました」


 驚く?何に驚いているのだろう。


「我は今までそのままで食べておりましたので、こういった処理をして食べるのは初めてです」


 そうか、ライオンや猫が肉を焼かないように、動物は焼いたり煮たり料理をしないのか。シコクは炎を出せるし、今まで焼こうと思ったことはないのかな。


「肉を生で食べて当たったりしないの?モンスターを食べるなら生は危なそうだけど」


俺の偏見かもしれないけどね。


「あたる⋯⋯というのがどういう事なのか分かりませんが、我に毒は効きません。食事もそれほど取らなくても問題ないので気にしたことはありませんでした」


 なるほど、そもそも食事にそれほど興味が無かったのね。ならそういうものか。

 そう納得しシコクとの会話を終わらせて肉の方を見ると、良い感じにジュージューと美味しそうな音を立てていた。

 僅かに乗っている脂が焼ける良い匂いが辺り一面に広がる。背中の肉を切って焼いただけなのに、今すぐにかぶりつきたくなる程だ。


 串を取ると丸一日ぶりの食事に、腹の中の虫が早くよこせとがなり立てる。それに抵抗する事もなく、そのままスムーズに口の中に運ぶ。


 口に入れる直前からもう鼻腔をくすぐる脂の匂い。噛んだ瞬間に溢れ出す肉汁と想像を裏切らない旨味。歯ごたえを残しつつも柔らかく、臭みの全く無い上質な赤身肉を、それほど噛む事もなくすぐに飲み込んでしまう。


 そこからは止まらなかった。


 口に入れて一口二口噛んだら飲み込んでしまう。肉の旨味を味わう暇もなく次から次へと肉を胃の中に押し込む。

 気付くと焼いていた串は全て無くなってしまっていた。


 ようやく少し落ち着くとシコクが悲しそうな、気まずそうな顔をしていた。


「ごめん、美味しすぎて。すぐ次のを焼くからちょっと待ってて」


 俺はシコクの蛇のような視線を受けながらいそいそと串を準備する。先程肉は刺しておいたので、あとは焼くだけだ。

 肉を返しながら焼けるのを待つ。しばらく経つと先程と同じように本能を刺激する美味しそうな匂いがしてくる。先程食べたばかりなのにもう我慢が出来そうにないが、今度は俺より先にシコクに食べてもらう。


 串から肉を外して器がわりの大きめの葉っぱの上に乗せると、シコクはとても嬉しそうにしながら食べ始める。それを横目で見ながら俺も第2ラウンドに向かう。


 用意していた串が全て無くなる頃、ようやく腹がいっぱいになった。シコクも満足そうにしている。


「それだけじゃ足りないでしょ」

「いえ、我は本来なら食事を取る必要はありませんので十分です」


 え、何も食べなくても大丈夫なのか。なんという不思議生物。さすがはこんなんでもドラゴンだ。


「しかし、この食事は我が生きてきた中でも一番美味しかったかもしれません」

「こんなので良かったらこれから毎日肉を焼いてあげるよ」


 段々小さくなってきた火を見ながら水場から汲んできた水を飲む。自然の水は煮沸しないと危ないと聞いたが、ここの水は問題なく飲めるようだ。味は無いし少し臭いのであまり飲みたくは無いが、飲まないわけにもいかない。

 歯磨きをしたいが、道具がないので我慢する。明日起きたら水でゆすごう。


 串や包丁がわりに使ったナイフを片付ける。このナイフはシコクがアイテムボックスから出してくれた物だ。大したものではないと言っていたが、さっき一度落としてしまった時に下にあった石を貫いていたので切れ味は相当良い。


 片付けを終えて焚き火を消す。寝る時は火を焚いたままの方が良いのかもしれないが、今はシコクが守ってくれているので問題ない。


「おやすみ、シコク」

「はい、お眠りください。主人様は我が守ります」


 俺はシコクに寄り添いながら目を閉じた。普段はドジばかりするがシコクの強さは本物だ、安心して眠れる。そう思ったら疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。


「我が守ります」


 シコクは小さくそう呟き、堪え切れない笑みを浮かべた。

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