愛嬌のあるドジっ子
ストック皆無ですが、頑張ります。
「ーー以上が我とこの辺り一帯についての説明になります。お分かりいただけましたか?」
「うん、大体分かったよ。ありがとう」
じゃぶじゃぶと血塗れになった服を洗いながら答える。ここはシコクに案内してもらった水場だ。
小さな滝の下の浅い滝壺で、透明度がとても高く、底の方には石や落ち葉なんかも見える。周りには青々と茂った樹木や、角ばった岩やその表面に付いている苔から根の浅い植物も多く生えていた。そのせいか青臭い匂いがするが、せせらぎのおかげなのか不思議と不快感は無い。
この洗っても洗っても落ちない血が無ければ、だが。
「全然落ちない」
「私が代わりに洗いましょうか?」
シコクが頼んで欲しそうにしながら提案してくる。
このドラゴン、俺が召喚したからなのかやたらと世話を焼きたがる。さっきここに来る時も「背中に乗りますか?」や、「お背中流しましょうか?」とか聞いてくるのだ。
背中に乗ったら痛いし、背中を流してもらった日には俺がドザエモンになって川を流れていってしまうだろうから断ったが。もちろん今回も断った。シコクにやらせたら服がズタズタになりそうだ。
「それで、ここは名前も知らない小さな森で、ここら一帯は名前も知らない国があると。要約するとそういう事ね」
「はい、その通りです。我は人の事など知りませんが、人は寄り集まって生きるものなのでしょう?この辺りには人が数多くいる場所があります。ならば国があるはずです。」
そういうのは何も知らないって言うんだけどなあ。ため息をこぼしながら俺はようやく洗い終わった服を見る。うん、綺麗になった。本当に綺麗だ。傷一つ無い。
スライムに血塗れになるまでボコボコにされても、シコクが周りの木々を燃やし尽くすほどの炎を吐いても、だ。
まあ、スライム自体は液体っぽい体だし炎は俺の体に当たってないから当然なのかもしれないが。
「そして私はこの世界最強の存在。黒竜です」
シコクは鼻息荒くそう言った。黒竜⋯⋯よくゲームなんかではラスボスや邪神とかで出てくるあれだ。しかし目の前のシコクはそうは見えない。
何と言えばいいのか、愛嬌があるのだ。表情も豊かだし(ドラゴンだから俺が感じているのと合っているのか分からないが)、世話を焼こうとするのも善意からだろう。
信頼しても大丈夫。そう思えたのは多分そういう理由だ。
「それで、これからどうされるのですか」
そう、それをさっきから考えていた。流石にこのまま森に住むわけにもいかないし、やはり人間らしい生活がしたい。それに俺はまだこの世界のことを何も知らない。
そういった情報を集めるためにもまずはさっきシエルが言っていた近くの国に向かうのが良いだろう。もし国ではなかったとしてもその時はその時だ。また別の方法を考えよう。
考えをまとめて俺は水場から出る。真っ黒な短く切りそろえられた髪の毛が顔に張り付く。水はとても温かいので体はあまり冷えていないが、かといってこのままでいると風邪を引いてしまうだろう。
「服も洗ったことですし、乾かしましょうか?」
「そんなこと言って、任せたらまた全てが灰燼に帰すだろ?」
するとシコクは自信満々に言う。火力の調整は出来るのか?
「服を直接焼くのでは無く、我の魔法で火を焚いてその火で温めればいいのです」
このドラゴン今焼くとか言ったか!?
シコクをジロッと睨むも、当の本人は頼まれたと思ったのか、嬉しそうに近くの岩に魔法を撃つ。
とてつもない熱気が突風のように広がり、その勢いに思わず目を瞑る。肌が少し痛くなるほどの火力だが、スライムを倒した時の炎よりはだいぶ弱いので手加減したのだろう。
「この炎で体と服を温めれば焼けることはありません。完璧です」
シコクがドヤ顔で言う。
「うん、そうだね」
炎が強すぎて岩が溶岩みたいになってなければ完璧だった。
シコクがすごく嬉しそうだから言わないけどね。