極論男・5
ある女優はおかんむりだ、テレビのバラエティー番組でこう言い放った。
「首都高を改造車でレースごっこしてる奴等は皆プロレーサーになればいいのよ!」
俺はいわゆるドリフト族をやってた時期があり、他人事だと思えなかった。それにしても乱暴な理論だ。
こういう奴に限って車の改造イコール見た目だけ、というナードだ。
国産の各メーカーは主力スポーツカーの馬力を自主規制していた期間があり、280馬力に抑えていた。三菱GTOは吸排気系をイジるだけで120馬力もアップするそうだ。俺がドリフトに使ってた、R32スカイラインGTR(BNR32)は中古で400馬力、リアのキャンバーを2度付けてもらい、フロントは“飛ばして”ドリフトをやってた。ローダウンにも意味がある。殆ど場合は見た目だけだが、レーシングドライバーにとっては重心を下げてコントロールしやすくする為だ。
BNR32だけは四駆システムのアテーサETSのヒューズを抜くとFRになってくれて、多板クラッチ式リミテッド・スリップ・デフ、いわゆる機械式LSDに交換するだけで簡単にドリフトが楽しめる。
四駆とFRを使い分けられるということは雪ドリも楽しめる。雪ドリは基本、セカンドカーの軽自動車でやるのが一般的だが俺はオールシーズン、BNR32だった。FRで滑り、雪にはまったら四駆に戻して脱出する。パワードリフト、慣性ドリフト、卍、S字と色々やった。ドリフトの基本はクラッチ蹴りだ。間違ってもサイドブレーキでやらないように。サイドブレーキを引く時はスピンターンと停車する時だけ。
春になり、雪が溶け、ドライ路面でやる時が一番怖い。
ちなみに“溝落とし”はタイヤを傷めます。引っ掛けたフロントタイヤのヤマがごっそり削られて廃棄、トホホ。漫画のようにはいきません。
――この女優の理論なら打ちっぱなしでボールを打ってるアマチュアゴルファーにプロにならないんですか? と言わなきゃ不公平だ。
映画やドラマでキャスト皆が主役をやらないと不公平だ。演技は三流のこの女優にメインキャストは無理だろうな、アハハ。
公道で“走る”ドライバーの中にはプロもいるという事を知らないのだろう。
危ないからモータースポーツをやめろと言う奴はナード中のナードだ。日本津々浦々には危険な祭りがたくさんある。7年に1度ある諏訪の御柱祭なんて死人が出てる。これもやめろと言わないと不公平だ。
登山はどうだ? 毎年、大勢の人が遭難してるし、死人だってたくさん出てる。高尾山を登ってる人を強制的にエベレストに連れていかなきゃ不公平だ。
マイノリティだからって叩いていいわけじゃない。首都高だって取り締まりが厳しくなってる。なぜ、公道レーサーがなくならないと言うと夜の峠などには独特の“魅力”があるからだ。サーキットの数が少なくて需要と供給のバランスが悪いというのもある。走行会は手続きが面倒で1万円前後の支払いが必要だ。日時は選べても天候は選べない。フロントヘビーのBNR32はウェット路面ではフロントタイヤがビビってガタガタするから出来ない。
ここ数年で中部のサーキット場が2ヶ所も閉鎖された! 再開しろ! もっとサーキット場を造れ! 採算度外視でも! 車業界の一角を担っているのは間違いなくモータースポーツを楽しむアマチュアドライバーだ。
税金を上げるならレーサーに優しい国造りをしろ!
今日も平和な1日が過ぎていく。