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12話「妹たちと誕生日」 後編その3

 いつもより重い足取りで俺は帰り道を歩いていた。

 そういえば、と我に返る。

 手ぶらで何も持たずに帰っていいのだろうか。

 何を誤ればいいのか未だにわからないが俺はこれからいもうとたちに謝罪をするのだ。

 謝罪をするというのなら何か菓子折り的なものを持っていったほうがいいだろう。

 と、いうわけで和菓子屋に来てみたはいいものの……


「何が何だかわかんねえ」


 考えてみれば和菓子屋なんて年に一回お年賀を買いに行くくらいで普段はまったく行かないんだよな。

 店内には数多くの和菓子が陳列されている。


「何かお探しですか?」


 和菓子屋の店員さんらしき女性に声をかけられた。

 顔を上げて店員さんの顔を見ると思わず息を飲んでしまう。

 おそらく同い年くらいの人だろう。

 愛嬌のあるタレ目、形の整った鼻、口。

 いわゆるたぬき顔というやつだろう。

 一瞬でドキッとさせられてしまった。


「妹たちに菓子折りを……じゃなくてお土産? ……プレゼント的な」

「へえ、いいお兄さんなんですね」


 ああ、この人笑うと目がなくなるタイプの人なんだな。

 最高じゃねえか。


「そんなことないですよ。 愛する妹たちを思うが故、当たり前のことです」


 なんて冗談交じりで答えてもちゃんと笑ってくれるこの子、女神に見えるな。


「本当にいいお兄さんですね。 私でよかったらプレゼント探しお手伝いしますよ」

「それは頼もしいです。 是非お願いします」


 和菓子について何も知らない俺にとっては願っても無いことだ。

 それに店員の彼女のセンスなら間違いないだろう。


「妹さんたちの好みって分かりますか?」

「うーん、そうですね。 智咲も茜も甘いものが好きですね」

「それなら安心です。 ここにあるものは大抵甘いものですから」


 店員さんは営業スマイルなんてもんじゃない満面の笑みを浮かべる。


「これなんてどうですか? 人気なんですよ」

「饅頭……ですか?」

「はい、一見普通の饅頭に見えますけど中身にこだわってるんです。 その名も「ずみまん」です」

「ずみまん。 もしかして今泉製菓のずみから取ってたり?」

「すごい! 正解です! あ、挨拶遅くなってごめんなさい。 私、ここの店主の娘で今泉美沙って言います」

「俺は高崎陽太です。 高2で河西高に行ってます」

「え、なら同い年だ! 私、西校なんだー」


 同い年と分かって少しテンションが上がる彼女。

 途端に敬語が外れ一気に距離が縮まったな。


「あ、饅頭一個試食してみて! 絶対美味しいから」


 そう言われて「ずみまん」を口に入れると途端に口の中が甘さで溶け出した。

 なるほど、これは確かに普通の饅頭じゃない。


「本当だ。 美味いな」

「これで妹さんたちのハートはゲットできると思うよ」


 美沙は満面の笑みでガッツポーズを取る。

 なんだコイツ。 可愛いかよ。


「ああ、きっと喜ぶな。 5箱くらい買っとくぜ」

「毎度あり!」


 美沙に見送られ俺は今泉製菓を後にした。

 手提げ袋に入れられた饅頭を見ると足取りが軽くなった。

 そしてこの後、めちゃくちゃ祝われて号泣した。

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