1一7。
ブクマありがとうございます。
のんびりペースですがよろしくお願いします。
仕事が落ち着いた頃にマイラはザザと酒場に寄った。
仕事後夕飯を食べお互い仕事の愚痴を零す。
ふとマイラは二年前初めて職場に来た時にもザザと酒場に飲みに行ったことを思い出した。
「マイラ・バーンズです。よろしくお願いします」
老齢で職を辞めた前任者から引き継ぎ、マイラは同僚となる男性にお辞儀をした。
「ザザ・クエーカーズです。分からないことがあったら早めに聞いて下さい」
早め、と言ったこのザザと言う男はミスする前に聞け、と言っいているわけだ。
完璧主義か?と思いミスのないように気をつけよう、とマイラは心に留めた。
ザザを同じ歳かと思っていたマイラ。
二十代前半に見えたが半ばだと聞いて驚けば嫌な顔をされた。
童顔を気にしているようで、彼の逆鱗に触れないように年齢と顔はタブーとした。
ただ並んだ時、ザザは自分より小さいマイラに片眉を上げ口元が微妙に緩んだのをマイラは見逃さなかった。
男性平均身長よりだいぶ低いマイラの身長。それより少し高いザザ。
身長もタブーだ、とマイラは心の中に仕舞った。
師匠の研究室と違い勝手の違う医務室に何度かミスをし、チクリと説教するザザに、ミスはすまい、と心の中で誓ったマイラだった。
初日からザザ取り扱い注意メモが増えていくマイラだった。
ザザに人の良い顔でチクリと一言多い忠告を受けながら仕事を終えると夕飯に誘われた。
「少しの失敗が命取りになるから。気を引き締めて仕事をしてね」
「すみません」
「失敗は誰でもするから。次失敗しないように気をつければいいよ」
にこり、と笑う彼の表情は童顔のせいで柔らかく人懐こい。
表情だけで判断するなら『えへ、ごめーん』で許して貰えそうな雰囲気がある。
だが違う。このザザと言う男は。
穏やかな柔和の笑みの向こうに『二度目の失敗は容赦しない』と黒い微笑が浮かんでいるのが視える。
なぜ分かるか。
師匠と同じタイプだからだ。
だから感じる腹黒オーラ。
童顔な分、師匠より悪質かもしれない、とマイラは念頭に置いた。
うん。
メモメモ。
仕事をしていくうち、ザザの人となりが分かってきた。
名門故のプレッシャーと立場。
跡目にならない三男の立ち位置は微妙だ。
自立しかないのだ。
薬師として侯爵家の名を辱めず確実に地位を確立する彼の努力は並大抵ではない。その努力を童顔ゆえに軽視する勘違いな身分の者は彼の毒舌で退散して行った。
仕事にプライドを持ち、真面目で完璧主義。童顔で人懐こく穏やかそうで無礼者には毒舌。
マイラの仕事振りを見てザザの態度は軟化したが、失敗には厳しいザザに扱かれながら医務室勤務を続けた。
そう言えば陰険……じゃなく、スパルタだったザザが軟化したのはいつの頃だったか……。
少しした頃か、ザザの嫌味……じゃなく、指導が少し穏やかになったのは……。
ああ。
風邪をひいた後、か?
マイラは首を傾げながら記憶を探った。
仕事に慣れた頃にマイラは風邪をひいた。
だが、仕事がおしていたため無理をして残業をした。
そして案の定、無理がたたり仕事終了後に気が抜けフラつきザザに体調不良がバレた。
「体調が悪いなら言って下さい!病人に無理させるつもりはありません。なんで言わないんですか!」
「う、ぅん。ごめ……」
ザザもマイラも官舎に住んでいる。
ザザは熱でフラつくマイラに肩を貸し宿舎に向かう。
熱で意識が朧げなマイラは、童顔も怒ると怖いなぁ、と思っていた。
口の出してたらザザに放置されていただろう。確実に。口にしてなくて良かった。
部屋に送ってもらい薬まで用意してくれるザザは本当は面倒見がいい。
ふらふらしながら薬を飲み後は寝た、と思う。
マイラは朝起きてまだフラつく頭で服を確認した。
ブーツは脱いでいた。
黒衣と上着も脱いでいた。
シャツは着たままだからそのまま寝たのだろう。
ザザに迷惑かけたなぁという罪悪感と、ちょっとの疑心暗鬼が胸中にチラついた。
寝台の上でもぞもぞ服の確認をしているとドアをノックする音とマイラを伺う声が聞こえた。
「起きた?大丈夫?入って平気?」
ザザの気遣う柔らかいテノールの声は朝から聞いている分には心地よい。
だが、昨日の醜態を思い出し迂闊な態度ではザザに怒られそうでマイラは慌てて身繕いをした。
「大丈夫。入って」
「体調は?」
開口一番に心配してくれるなら大丈夫かな?とマイラは思った。
ザザはマイラに近寄り額に手を当て熱を計る。
まだフラつく頭で起きたマイラは自分の熱を把握していなかった。
「熱、まだある。なんで寝てないの!」
「や、昨日迷惑かけたし.…」
「病人に無理させるつもりはないって僕は言ったよ?」
口籠もるマイラを他所にザザは、薬を持ってくるから寝間着に着替えて寝ているように、と厳しい表情で言い残し部屋を出た。
マイラはザザの気遣いに感謝して寝間着に着替えて寝台に横になった。
暫くしてザザは薬湯をマイラに飲ませ、仕事は気にせず休むように言って立ち去った。
昨日と変わらぬザザの態度。
ザザに対し疑心暗鬼だった自分に自嘲しマイラは目を閉じた。
完治後ザザに扱き使われたのは忘れられない。
「何思い出し笑いしてるの?マイラ変だよ?」
「変とはひどいなぁ。会った頃のこと思い出してた」
「会った頃?」
「仕事してから初めて風邪ひいた時のこと。ザザに迷惑かけただろ?」
「……うん。そうだね」
ザザの身体が一瞬ピクリと揺れた気がしたが、仕事が溜まって迷惑した、とザザに言われマイラは慌ててザザに取り繕った。
「ごめんよ。仕事疲れが溜まって風邪ひいたんだよ。不可抗力だよー」
「無理して仕事したことを言ってるの。早く言わないマイラが悪い」
「悪かったって」
つまらないことを思い出して、また謝罪させられたマイラは薮蛇だった、とゴチるとすかさずザザからツッコミが入る。
「また倒れるほど仕事したら襲うよ」
「っ!?へっ?…………ザザ?」
驚きで目を見開くマイラを意地悪そうに目を細め眺めるザザはニヤリと笑う。
「襲って椅子に括り付けて仕事させる」
「…………倒れる前に申告します」
「よろしい」
「……………………」
ザザに揶揄われ憮然としながらお酒を飲むマイラをザザはこっそりと見つめていた。
マイラに見られないようにザザは妖艶に微笑した。
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