1一4。
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朝の忙しない時間。騎士や文官が時間に追われるように歩いている。
マイラも少し筋肉痛の身体に顔を顰めながら医務室に向かった。
そこで珍しい人物が歩いて来るのを視界に捉えた。
皆、壁に寄り頭を下げその人物が通り過ぎるのを待っている。
自分も皆と同じように壁に寄り頭を下げた。
守護騎士団団長ガルフ・ストリーム。
守護騎士団副団長ラティス・ネール。
朝稽古時間であろうこの時間に二人連れだっているのは珍しい。
守護騎士団団長ガルフ・ストリーム。
長身でリーチが長い筋肉達磨。
年は三十代後半の中年で、指導は鬼の猛者。
黒い髪を撫で上げるその顔は、しっかりした黒い眉に、厳しい眉間の皺、彫りが深く、切れ長の鋭いつり目は深い青色。
厚みのある鼻梁に、少し肉厚の形の整った唇。日焼けした肌に傷痕が薄く白く浮き上がり、右頰、右額、左顎、の傷痕が目立つ。
黒い鎧に包まれた姿から、〈黒い旋風〉と言われている。長身で長剣を振り回せば、誰も近く事の出来ない絶対領域。味方も近づかない、いや、近づけない。
背中に背負う長剣が、ガチャガチャと鎧に当たる音が聞こえる。
後ろに控えるのは、
守護騎士団副団長ラティス・ネール。
団長に比べれば細く見えるが、所詮は筋骨隆々の長身。団長が剛の者なら、副団長は柔の者。流れるような剣さばきで瞬殺していく猛者だ。年は三十代前半で、長髪のプラチナブロンドを後ろに一括りにし、孔雀石のような緑青色の瞳。細い眉は眉尻が上がりキツイ印象になる。大きな目をいつも半目にし三白眼気味にさせ、さらに眼光が鋭くなる。細い鼻筋に、薄い唇を真一文字に結んだ顔は、元がいいだけに凄みがある。
貴族出身の整った容姿が勿体無いと言われるが、それを言った人間は彼の眼光で撃沈するだろう。
うん。触らぬ神に祟りなし、だ。
マイラは頭を下げたまま息を殺し、早く通り過ぎるのを待った。
ーー………待ったのに。
下を向く自分の眼下で足が止まるのを捉え、マイラは血の気が下がった。
うげっ。
最悪…………。
「お?お前、頭を上げろ」
頭上から響く低い声が聞こえ、渋々頭を上げた。
ストリーム団長が自分を見下ろしており内心焦ったが平静を装ったがマイラは嫌な予感しかしなかった。
「お前、バーンズ侯爵の者だろ?」
「……はい。一番末に身を置かせて頂いて居ります、マイラと申します」
「よくバーンズ師付きで師事しているのを見かけたが、医師にならず薬師になったのだな」
「はい。医術より薬術の方が性に合ったもので」
「勿体無いな。医師の数は多いに越したことはない。部隊編成に足りない時は臨時で頼みたいものだな」
「畏れ多い事です。過分な期待に応えられるか身の引き締まる思いです」
「精進しろよ」
「はっ」
会話を頭を下げて終わらせると、彼等は去っていった。
深い溜め息をつき、朝から意気消沈で職場に向かった。
今日の気力全部持っていかれた気分だ……。
帰って寝たい。
ーー宮廷医術師バーンズ。
彼に師事し行動を共にしていたため、顔を覚えられているのも仕方がない。
幼い頃にバーンズ公爵に拾われ医術を学んだ。
実地と称して外科手術や処置を手伝わされ、今では切った張ったの流血は慣れたものだ。
最初は血を見て何度も気絶して、気分悪くして吐いて散々だった。血のトラウマを克服する方が自分には過酷な試練だった。
十年以上医術に携わったがマイラは薬師に転向した。
今ではそれで正解だったと思っている。が、こうも声をかけられては困ったもんだ。
バーンズ師匠に相談するか悩むところだ。
まぁ、まずは出来るだけ上官クラスと顔を合わせない様にしよう、とマイラは心に留めた。
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