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番外編。《グランド・バーグ》

バーグ副隊長の話です。長いです。

本編の裏視点も含んでます。


よろしくお願いします。



温室でくつろぐのはいつものこと。


仕事の合間に温室で寝転び転寝をする。

それが日課だった。




俺の父は近衛騎士団副隊長を勤めながら伯爵の領地を統治していた。


伯爵次男の俺は嫡男の補佐役として、将来役立つように嫡男と同じく厳しく育てられた。

性格的に文官となり兄の右腕になるのも性に合わない。身体を鍛え剣を磨くのが性分だと納得して自治領内で騎士の道を選んだ。


だが責任の重さの違いは如実だ。

夜会に出ても伯爵夫人の座を狙う妙齢な淑女に囲まれる兄。自分の男臭い顔より母に似た兄の甘いマスクは目を惹きつける。


俺の父似で武骨な骨張った顔付きは、それを男らしく頼もしく思う女性には受けがいい。

だが所詮嫡男とは違う。

兄は夜会で伴侶を探し、俺は夜の蝶との駆け引きが目的となった。

後腐れのない一夜の夢を謳歌しフラフラと身軽に遊び過ぎ、父から国の騎士団に放り込まれた。


騎士の仕事は自分にあっている。だが強制された騎士団に対し不貞腐る気分は否めなかった。

仕事を抜け出し温室で居眠りをし、仕事サボりの常習犯となった。


剣の腕を磨き副隊長まできたが、これ以上肩書きがあがると書類仕事が増える。

適度にサボるのが丁度いい、と温室へ逃げ込んだ。



過ごしやすい温室は昼寝に丁度よく、担当者から鍵を借り出入りしている。薬草の温室は医務の薬師の担当だが、鍵は“借りて“いるだけだ。




だが担当が変わったらしく俺の転寝時間と水遣りが重なる。


温室は薬草の温室だから薬師が管轄し水遣りをするのは当然。水遣りに文句を言うのはお門違いなのは分かっているが。


その新しい担当者に文句を言うと薬草に適した時間に水遣りしているから転寝をずらせ、と言われた。


男にしては小さい背。二十半ばか?長い前髪で顔が隠れがちだ。整っているが普通の顔付き。秘色の長髪を後ろに束ね、少しつり目の金眼。

鍛えていないヒョロい優男に昼寝を邪魔するなと威嚇の視線を送った。大概それで退いてきた。



だがその男は俺の威嚇にも引かず水遣りをする。



威嚇と水遣り。

変わらない毎日の攻防。

そいつは小言を言うのを諦めたのか無言で水遣りをする。

通路に寝転べば、邪魔と言われるが。


そんな日々が二年も続いた。



今ではヤツは小言を言い、俺に構わず水遣りをする。

いわゆる黙認。


毎度、邪魔だ。服汚れる。制服大事にしないとダメだ。と母親のように口煩いが。

それも慣れれば習慣になってくる。

どちらかと言うと俺の威嚇に臆することなく向かうヤツを気に入ったと言うのもあるかもしれない。




そんなことを思っていた、そんなころ。

部下達の会話が俺を驚かせた。



「バーグ副隊長〜。またサボりですか?」

「仕事してください!」

「隊長に怒られますよ」

「書類の山をどうにかしてください!」


「チョットだ!チョット」


「えー。チョットじゃ済まないじゃないですか」

「こっちの仕事増えるから困りますよ!」

「“ 白の薬師 ”に会いに行くんですか?」


「は?白の薬師?」



部下達が言うにはどうやらあの優男は“ 白の薬師 ”と言われているらしい。

確かに白っぽい髪だが。

白衣じゃなくて黒衣だし。

白っぽいのは髪だけだと思うが。


宮廷医術師バーンズ侯爵の身内だと今知った。

それより、俺との仲が良いという噂はどうしてだ?!!!



「わざわざ時間合わせて温室行くからじゃないですか」

「もっぱらの噂です」

「彼、ソッチ系に人気あるらしいですよ。優しく治療して癒してくれる、と」

「女性の告白を全て拒否してますからね」

「付き合った女性はいないらしいですよ」

「宮廷薬師資格の勉強のためって言ってるらしいですが、ね」

「彼は婿の優良株だからなぁ」



部下達の話を聞いて自分がソウ見られていたのが衝撃だ。


ありえん!!

魅惑的な滑らかな肉体に芳しい香りの女性達を差し置いて何故男に走る必要がある!!?


俺の不機嫌な雰囲気を感じとった部下達は、用事を思い出した。仕事が。と口々にし去って行った。







ある日、スターリー隊長からアクダクトの様子を聞いた。

アクダクトの誕生日が近いからだ。


父は近衛第一副隊長時代に犯罪に巻き込まれたアクダクトを助けた。

その日は奇しくもアクダクトの誕生日。



とある貴族が犯した愚行からアクダクトを助け出したが心の傷は深い。

父はアクダクトと同僚となる俺にアクダクトを気にかけるようにと言われた。男を気にかけるのは好みじゃないが、騎士が助けた人間を気にかけるのは当然だ。父の憂いを帯びた命に俺はアクダクトの誕生日を気にすることになった。


毎年その時期にアクダクトは荒れる。

周りも理由は知らずともアクダクトが荒れるため誰も近寄らない。

氷が吹雪く時は近寄らないのが一番だ、と。


だが今年はスターリー隊長がアクダクトの機嫌直しに動いたが、なぜかあの白の薬師が絡まれた。

ヒョロいヤツと騎士では体格が違い過ぎる。

壁に追い詰められ怯えるさまは捕食者と獲物だ。ビビッて動けないヤツを見て仕方なく助け船を出した。





だがアクダクトに思わぬことを言われた。



「意外ですね。バーグ副隊長は夜の蝶より薬草がお好きなようで?」

「あ?」


「もっぱらの噂ですよ?薬草を愛でている、と。両方の趣味をお持ちとは高尚な趣味ですね」



部下が言ってたことかと、うんざりしたがアクダクトの仄暗い瞳を見れば腹を立てている場合では無いか、と内心溜め息をついた。

過去の心の傷に囚われたままのアクダクトを哀れんだ。のと同時に嘲笑うと肩を落とし、ヘラリと笑った。



「で?言って満足したか?」

「!!」


「誰にそれを言いたい?俺じゃないだろ。目が死んでるぞ」

「っ!!!」



心の傷を隠すために剣と力に縋るアクダクト。

隠すのではなく打ち克たなければ進歩はないだろう。

一瞥し呆れ顔をアクダクトに向けた。



「八つ当たりもいい加減にしろよ」



それすら分かっていないアクダクトに今は何を言っても無理だろう。溜め息をつきアクダクトを睨みつけた。



「小ちゃいヤツに当たるなんざ騎士の名を汚すぞ。同じに落ちるな」

「なっ!!?」



驚愕に顔を歪ませるアクダクトだが、俺の言葉など届くとは思えない。そんな簡単に拭えるならアクダクトもとっくの昔に過去を断ち切っているだろう。



「私に関わるな!」



アクダクトの拒絶は治らないだろう。

本人が囚われすぎている。

父に言われ気にかけてみたがアクダクトは変わらない。


男なんぞに時間を取られコッチが迷惑だ、と俺は何度目かの溜め息を吐いた。





白の薬師のせいで俺に変な噂がつくとは憤慨だが、だからと言って快適な温室の昼寝をしないのもヤツに負けた気分になる。


ヤツを揶揄うのは八つ当たりでも業腹でもないだろう。ヤツのせいで誤解を受けるなど!当然の権利だ。






そんなヤツが遠征に同行するらしい。

優男のヤツに野営が耐えられるか見ものだ。


道中たまにヤツを見かけたが、だいぶ疲労が感じられる顔だ。

ま、俺には関係ないと気にも留めなかった。






遠征の移動も後少しで終わる、そんなある日。



ーー大挙して押し寄せた魔物。



遠征とはいえ、捌ける量ではなく魔物に押し切られないようにギリギリの均衡を保つのが精一杯だった。



だが、一頭の馬が駆け抜け状況を覆した。



それがヤツだった……。



白煙とともに現れ魔物を退かせたヤツの後ろ姿を俺はただ見送っていた。



ーー煙に魔物は退いた。



事後処理をし、砦から来た者に現場を任せ我々は砦に向かった。

怪我人を運んだり仕事をこなし疲労の溜まった部下達を叱咤し残務処理をした。



その最中、ヤツがいた。

案の定ヘロヘロでフラつきながら歩いている。

周りの騎士達は魔物を退かせたヤツを称賛の目で見ているようだ。

だが俺にはのんびり水遣りをするヤツが当たり前だった。

だから今更認識も態度も変えるつもりはなかった。



「よう!お疲れ!ヘロヘロだな」

「お…疲れ、様です……バーグ副隊長は元気ですね……」

「徹夜の二、三余裕だ。ヘコタレてたら仕事にならんだろ?」

「寝不足は…仕事効率の敵、です……」

「コッチは寝てたら殺られるからな」

「…………」



長い前髪の間から金色に瞳が半眼で呆れた表情が伺えた。

騎士の体力に驚いているのが顔で分かる。

感情がよく読める単純さにコイツの性格がよく分かる。

単純で仕事熱心。



仕事に集中して宿泊する部屋もまだ分からないと言うなら代わりに聞いてきてやるか。

ヘロヘロになるまで治療していたコイツの根性は褒めてやってもいいか、と自分でも珍しく思った。






担当者に部屋を聞きヤツのところへ戻ると見るからに疲労困憊のヤツに騎士二人が詰め寄っていた。



「おい!何してる!?」


思わず威嚇を乗せ二人に鋭い視線を向けた。

ヤツに感謝をしている。と言っているが。


二人を追い払い振り向けばヤツは壁に寄りかかりなんとか体制を維持している。

思わず苦笑いしながら眺めた。



「体力無ぇなぁ」

「薬術師に、騎士並みの体力は……無くて当たり前、…です」



それもそうか。と苦笑しながらヤツに肩をかした。



軽い体躯。


華奢な身体に呆れた。



「もう少し食って筋肉付けろ。部屋に篭って薬相手じゃモテないぜ!」

「お、大きなお世話…です……」



ヤツの慌てぶりに思わず喉が鳴った。


ゆっくり歩くうち、ヤツの反応が鈍くなってきた。

話しかけても返事が緩慢になり、とうとう落ちた。



「落ちたか……。ったく。少し鍛えろ……」





ヤツを寝台に寝かせ靴を脱がせた。



「俺が女以外に甲斐甲斐しくするなんざ貴重だぜ?感謝しろよ」



文句を言うも、相手はとうに落ちている。

ここで見捨てるのも気が引けるのもあり、悪態をつきながらヤツの着込んでいた黒衣を脱がせた。上着も寝づらいだろうと脱がせ、首元の釦を外しシャツをくつろがせた。


釦を外しくつろげた時、ふと違和感を感じた。



シャツの上から分かる微かな胸筋の盛り上がり。



そこまで鍛えていそうに見えないヤツの体型なのに。


ーーその胸筋が違和感を感じたのだ。



(体型より胸板があり過ぎる、か?)



ーーだからこれは興味本位だった……。



釦を胸元の下まで外しゆっくりとシャツを拡げれば、サラシが眼に入った。



(む、胸!??)



双丘が押しつぶされ緩やかな曲線を描いているのを間近で視界に捉え慌てて顔ごと視線を逸らした。




荒削りな男らしい顔付きはご婦人方に人気があり、夜を麗しい蝶と過ごすのは良くあることで。女性の裸体や色事に慣れている自分。

慣れている、はずの自分。



……だが。

口元に手をあて自分の顔が熱くなっているのが分かり困惑する自分に狼狽した。



(あー。ヤバいな……)




今までの価値観を総崩れさせられた気分だ。




ゆっくりと釦を掛け直して俯くと息を静かに吐いた。




淡い秘色の髪が絹のように寝台に流れ白い肌を際立たさせた。

ヤツの顔にかかる前髪を指でくしけずり頬を撫でた。





(………俺を騙した分、覚えとけよ)






愉しげに歪む口元と艶を乗せた瞳が黎明に照らされた。





マイラの秘密を出さないため別視点を抑えるのが面倒でした。

読者のみ秘密を知る形式ではなく、秘密をギリギリまであまり出さずに話を進めたかったので、なんだか自分でも疲れました。

番外編後の三章からは主人公以外の視点混入になります。


お読みくださりありがとうございました。


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