2ー13。
流血表現あります。ご注意ください。
よろしくお願いします。
『ゔーーっ!んーー!!』
両手足を縛られ身動きを封じられたマイラ。口に猿轡をかまされ唸っても外へは届かない。
助けを求めても袋の中ではどうすることも出来ないのだ。
そもそも自分が原因だ。反省しても今更遅いなら、打破する手段を模索するしかない。
後ろ手に縛られ袋に入れられたマイラに出来ることはない。
声を出して体力を無駄に削るのも不利だと諦めた。耳を傾け微かでも音を拾おうとマイラは目を閉じ集中した。
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今日も治療の手伝いで治療にあたっていた。
傷を綺麗にしたり薬を塗りなおしたり。忙しく動き回りマイラは色々と考えないようにしていた。
していた、のに。
やはりふと、頭に浮かぶのが止まらない。
ーーバーグ副隊長にバレていたなんて……。
自分の性別に気がついた者は今までいなかった。
女性では高すぎる背。
男性では低い背。
顔つきも普通でちょっと童顔寄りの顔で済んだ。
もとより、この世界は男性社会。
女一人で出歩くのも憚られるのは、前世持ちのマイラには息苦しく感じる。
それに女性の仕事は限られている。
医師や薬師の女性などあり得ない。
治療として男性に触れなければならないからだ。
淑女たれば男性の裸体に触るなどあり得ない、というこの世界。
男の裸を平気で治療できる自分は規格外なのは分かっている。
海パンで男性の裸を見慣れた世界を知っている自分に淑女は向かない。
何より、バーンズ侯爵に拾われた自分。
使える知識を使い、やれることはやる。
そう自分で決めたこと。
あの時、あの村でーー。
ーーマイラは住んでいた村が魔物に襲われた。
両親から家の中にある地下の倉庫に隠れるように言われ、泣くのを押し殺しただ震えて身を縮ませて恐怖が過ぎるのを待った。
物音が聞こえなくなり、恐怖に耐え兼ね地下から出た。
地上に出れば咽せ返る生臭い匂いに胃がせり上がり、嘔吐く口元を押さえた。
村人を襲い喰らった魔物は腹を満たし去ったようで姿が見えなかった。
食い散らかされた残骸が村の広場に血溜まりとなっていた。
両親を探しにフラフラと歩き回ると呻く声が聞こえた。
吸い寄せられるように足を運んで向かうと、人が横たわっている。
怪我をして村外れまで逃げ力尽きたのか木の陰で息も絶え絶えな人物。
近所のおばさんだ。
クッキー作りが上手で作り方を教えてくれる優しいおばさん。
腕を怪我して出血が酷い。
おばさんの腰に巻いたエプロンを使い動脈を押さえ止血した。
他にも怪我人を見つけると止血をした。
ーーそれしかできなかった。
止血し終わり両親を探しにフラフラと歩くわたしを雑貨屋のお婆ちゃんが抱きしめた。
泣くお婆ちゃんの体温に温められ、わたしは正気に戻ったのだろう。
嗚咽しながら泣き叫び両親を呼んだ。
お婆ちゃんはただわたしを抱きしめて共に泣き崩れ、わたしは意識が遠くなった。
魔物襲撃に遅まきながら自警団がきて、事後処理をしていた。偶然近くを通りかかった騎士達も来ていたらしい。
滅茶苦茶になった村を見て、わたしは茫然と立ち尽くした。
魔物が来た時、父は魔物に立ち向かい、母は山に行っていた兄を探しに行った。
そして誰もここに戻ることなく、わたしはひとり生き残ってしまった。
孤児となったわたし。
六歳のわたしはなにもできず孤児院へ引き取られることになっていた。
だが、それをバーンズ侯爵が引き取った。
わたしが治療した止血を見て引き取ることにしたらしい。
辺境伯爵の治療をした帰りだったらしく偶然近くを通っていたバーンズ侯爵。
そのため騎士が駆け付けてくれたそうだ。
侯爵に聞かれた、“ 止血の知識はどこから? ”
そう聞かれ、幼い自分の言えることは、
ーー知らないのに覚えてた……、と。
止血の知識は前世の記憶。
“前の私”は、叔父が病院理事長、親戚の伯母も姉も従姉妹も看護士。従兄弟は薬剤師。
医療従事者に囲まれ門前の小僧な私の医療知識は一般人よりあった。私は医療関係に進まなかったが救命救急は習わされていた。
それが魔物の襲撃のショックで記憶を呼び醒まされ出たようだ。
無意識に止血処置し治療をした。
その止血処理を見たバーンズ侯爵が私を引き取る要因となった。
宮廷医師のバーンズ先生に付き医療を学び、医術を身に付けた。が、色々あり薬術になった。
今では騎士団医務室勤務となり、ムサイむくつけき筋肉相手に調薬をする毎日だ。
それでいい。
変わらな毎日で。
イザコザに巻き込まれるのは困るから今のままがいいねぇ。
と、思っていたのにーーー!!
バレたし!
どうする!?
仕事場替えるか!??
街の薬師になるか???
師匠に怒られるーー!!!
悶々と取り留めなく脳裏に流れる過去に心が萎れていくようだった。
ーー
替えた包帯を洗っていると騎士が話し掛けてきた。
足を痛めた同僚がいるから診て欲しい、と言われ付いて行った。
砦の屋敷を過ぎ防護柵をいくつか越え、砦の外れ近くに近づき、マイラも流石に心細くなり騎士に話し掛けた。
「怪我人はどこにいますか?」
「……その先だ。巡回中に足を滑らせた」
もっともな言い方をする騎士だが、彼はマイラと目を合わせなかった。
なんか怪しい……。
虫の知らせではないが、なんだか勘が働いた。
マイラはふと、自分に“許さない”と言った騎士を思い出した。
もしかして腹いせの呼び出し?報復?お礼参りか?
規律の厳しい騎士がそんなことするか?
とは思うが、感情に負けることもあるかもしれない。
マイラはなんとなく身の危険を感じ歩を止めた。
「怪我が酷いと治療出来ないので治療鞄を持ってきます!」
騎士が振り向く前にマイラは言い捨てると来た道を走り出した。
ーーゾワリとする背中。
振り向いたらダメだ。
背後から迫る恐怖に負けないように足を動かした。
来た道を戻り、柵が見えた。
必死に走り、門に手をかけた。
その時、腕に痛みが走った。
ーー掴まれた!!
そう思った瞬間、腹を殴られたのだけは分かった。
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ズキズキと鈍痛がする腹部。
せり上がる胃液に口の中が酸っぱくなってくる。
ボソボソと聞こえる会話。
担がれているらしく揺れるのが気持ち悪い。
フラつく頭に腹部の鈍痛が気持ち悪さを増してマイラは意識が遠くなっていった。
お読みくださりありがとうございました。




