2一12。
よろしくお願いします。
「君は治療の補佐としての仕事の他に、砦の医務体制の視察と薬草の貯蔵確認などがあるのだろ?」
クバーノ医務室長に呼ばれ室長室に向かった。
先程の醜態を思い出すと羞恥に身悶えしそうだが平静を装いクバーノ室長と対峙した。
クバーノ室長も何事もなかったように話を進め、これに関しては感謝した。
実はいい人?なんて思わないが。
話を聞けば、普通に仕事の話で拍子抜けした。
てっきり魔物除けを聞かれるのかと身構えていたマイラは内心安堵の息が漏れた。
「はい。新米の私が視察確認など烏滸がましいかと思いますが」
言葉を濁し語尾を誤魔化した。
実際、在職二年の自分に過分な仕事だ。
遠征など慣れない仕事を押し付けた上司への不満と罵詈雑言を今吐き出せと言われたらバケツ一杯じゃ収まらないだろう。
そもそもストリーム団長に目を付けられたのが運のツキだったのは今は忘れておこう。
「それで、どうかな?砦は」
「はい。医療体制はスムーズに回り患者の対応も適切だと思います。薬草の貯蔵はそれなりにありますが、保存状態に難ありです。立地の問題もありますが、やはり鮮度が落ちると効能が低下しますし。不測の事態の時の備蓄の保存も心配です」
半分森に囲まれた砦。
小高い丘の上にあるため日当たりは良い。
そのせいで乾燥しやすく温度管理が難しい。
地下では湿度が高くなり品質がさらに落ちる。
まめに採取できればいいが背後に広がる森は魔物の森だ。騎士が護衛するとはいえ簡単に薬草を採りに行けない。
ーー魔物除けさえあれば……。
それを口にするわけにもいかないマイラは沈黙で返しクバーノ室長を見つめた。
「君の魔物除けについてだが」
やはり聞かれるのか。とマイラは気を引き締めた。
「魔物除けは同僚と開発を?申請は君の名前で出すのかな?」
「申し訳ありませんが詳しく話すなと言われています」
クバーノ室長のねめるような視線におぞけが走る。
砦に所属しているクバーノ室長もそれなりに鍛えられた体躯だ。角張った顔付きで太い眉に細い双眸。幅の広い鼻梁。
その細い双眸が鈍く光りマイラを射すくめた。
「ソレで戦略が変わる。分かっているかな?魔物の被害を抑えるだけで終わらないソレの威力が」
「………………」
「ふむ。ソレは国の外交の切り札になるほど凄いことだと覚えておいた方がいい」
「!?」
外交にまで?
ただ魔物が除ける、としか思わなかった。
これがあれば安心して薬草を採りに行ける、くらいしか考えてなかった。
ーーザザに言われたことを今更反省する。
『分かっているのか?ソレがどれだけ凄いか!完成して申請するまで非公開だよ!!』
分かってなかった……。
所詮虫除けの延長だと思っていたから。
「君はバーンズ侯爵の者だ。無闇に干渉する輩は居ないだろう。だが無体な手段を使う者が居ないとは言えない。身辺に気をつけた方がいい」
暗に先程の事態を指しているとは思わないが、含まれていそうで変な羞恥に汗が吹き出る。
クバーノ室長の視線が意味ありげに細められているのも気のせいにしておこう。うん。
「君さえ良ければいい警護を付けよう。下手な相手では後々困るだろう?それとも私付きになれば安全を確保するが?」
どうだろう?と安全じゃなさそうな瞳でのたまうクバーノ室長が一番危険そうだ。
「私では君のお眼鏡に叶わないかな?」
艶のある声色でじっとりと見つめるクバーノ室長に背筋をゾゾゾと怖気が走り、ウゲッと口に出しそうなところを慌てて飲み込んだ。
クバーノ室長の申し出を丁重にお断りを申し入れ、護衛も辞退した。
これ以上自分に関わる人間を増やすのは避けたかったからだ。
それからというもの何故かマイラに絡む輩が激減した。
深く追求するべきか悩んだが。
(深入りしたくないなぁ……………)
自分が渦中の中心であることをマイラは忘れることにした。
お読みくださりありがとうございました。




