2一8。
よろしくお願いします。
物資の供給を兼ねた遠征のはずが、思わぬ魔物の襲来で計算が狂った。
今は供給分で賄えるが、補充が出来ない。
補充分の何割かを今回の騒動で使ってしまったからだ。
ストリーム団長から魔物除けを作れ。と言われたがこの砦の薬草の貯蔵内容が分からなければ難しい。それに特殊な素材を使用しているため簡単には作れない。
材料がなければ魔物除けは作れないが、それより今は砦の薬の在庫事情だ。
確認するのも仕事なマイラは薬草の確認のため、砦の医務室へ向かった。
道すがら人から奇異の目で見られたり、あからさまな視線を向けられマイラは身のやり場のない思いに駆られ人目を避けた。
やり過ぎたかもしれないが、やらずにはいられなかった、あの状況。
下手すれば魔物の大群に巻き込まれて自分も危うかった、と今更ながらに恐怖に駆られマイラはブルリと身を縮ませた。
視線の中から色々な表情と感情が嫌でも伝わってくる。
食堂でも快く思わない騎士もいるのをまざまざと知り溜め息が出る。
視線を避けるように裏の通路に脚を進めると影が過った。
そして案の定、マイラは嫌な目付きの騎士三人に囲まれた。
「おい。お前、どういうつもりだ?」
「……どう、とは?」
言い掛かりをつけられマイラも目付き悪く視線を向ければ鋭い眼光と交わり内心冷や汗が出る思いだ。
「もっと早く煙を出していれば魔物に襲われなかった」
「なぜ出さなかった!出し惜しみでもしていたのか?!」
騎士達は口々にマイラに詰問する。
見栄と虚栄心の次は、出し惜しみと疑われるのか、とマイラはげんなりして溜め息をついた。
その態度が騎士達の勘に触ったらしく一人の騎士が詰め寄ってきた。
デカイ騎士に接近され、威圧に後ずさるもマイラは近距離に近づける男の顔からは殺気が含み身動きを妨げた。
「何人死んだと思っているんだ!?」
その言葉にマイラは顔色を無くした。
王都周辺の魔物の激減ーーー。
それが脳裏に蘇り、今回の魔物の行動に自分の浅はかな行動を思い表情を無くした。
だがその態度は騎士達にとっては出し惜しみの図星と捉えられ男の怒りに触れた。
気がつくと男が襟ぐりをガッ!と掴みマイラは爪先立ちにされていた。
「手柄が目当てか!?」
「ぅぐっ……、っち、がうっ……」
苦しさに掴まれた手にマイラは爪を立てたがビクともしない。
「お前がもっと早く出していればアイツは死ななかった!!」
「ぁ……っ、が………」
責め立てられる意味が分かりマイラは苦悶の表情を浮かべた。襟ぐりを掴む騎士の手は震え男の怒りが伝わってくる。
「なぜ最初から出さなかった!!」
慟哭を吐露する男に抗うこともできずマイラは口をはくはくと開閉を繰り返した。呼吸のままならないマイラに返答などできるはずもなく酸素不足に頭がグラグラしてくるのが分かった。
恐怖か苦しさにか涙が溢れ手先に力が入らない。
男はクソッ!!と吐き捨てると、振り払うように手を離した。
マイラは崩れ落ちるように座り込むと咳き込み呼吸を荒げた。
「ゲホゲホゲホッ!!」
蹲り咳き込むマイラに男は言った。
「俺はお前を許さない」
マイラは乱れた呼吸と流れる脈がどくどくと煩い頭にガツンと殴られたような言葉の重さに息の苦しさより、胸の苦しさに打ちひしがれた。
男達の立ち去る足音が聞こえなくなるまでマイラは動けなかった。
それからというものマイラは尊敬の目と軽蔑の眼差しの二種類の感情に振り回されることになった。
お読みくださりありがとうございました。
2017.07.26誤字修正