2一3。
よろしくお願いします。
怖い。
物凄く、怖い。
黒く光る爪、白い牙。
赤く染まる大地。
血溜まりに沈む人影。
脳裏に浮かんでくる残像を頭を振り追い払う。
脚が震え、手綱を握る手は力み過ぎ血が止まったかのように白くなる。
(震えるな!前を見ろ!!)
己を奮い起たせマイラは進んだ。
過去の恐怖と決別する為に。
筒に点火し、煙幕を引きながら魔物の大群へ向かった。
ーー
遠方からでもよくわかる黒山の軍団。
魔物が大挙して来る。
黒い流れを止めようと剣を振るう騎士達。
怪我人搬送で此方に向かう衛生兵。
黒と赤が眼前に広がりマイラは躊躇して馬足を緩めた。
ガクガクと震える全身、はっ、はっ、はっと短く浅い呼吸。
どくどくと煩い心臓にマイラの震えが止まらない。
『テリトリーが変わった?』
再び脳裏に浮かんだその言葉にマイラはギリリ!と奥歯を噛み締め魔石で点火した筒を持ち、煙幕を引きながら魔物の大群へ向かった。
「そこ!出すぎるな!」
「隊列乱さず死角を補え!!」
国境沿いの森から溢れるように押し寄せた魔物を片っ端から屠る騎士達。
「近寄んなよ!一緒にぶった斬るぜーーー!!!」
「近寄りませんよ」
ストリーム団長は魔物の層が厚いところで剣を振るい薙ぎ倒し、ネール副長は横から漏れた魔物を狩り獲っていく。
左は第一、二隊が、右は第三、四部隊が展開した。
第一隊長アーバン・ダスクは剣を振り魔物の爪を躱し部隊を指揮する。
「砦には伝令したか?!」
「した!」
第一隊副隊長グランド・バーグが苦渋の表情で部下の援護に入り隊を整える。
「多過ぎる!」
バーグ副隊長は視線を蠢めく黒山に向け唾棄する。
「援軍が来るまでだ!」
「到達まで持ち堪えられねーよ!」
ダスク隊長は剣を振り魔力を乗せると一気に周りの魔物を斬り裂いた。
バーグ副隊長は部の悪い状況に苦渋の表情を滲ませ魔物の攻撃を躱し返す刀で魔力攻撃で斬り伏せた。
魔物の進行を食い止めなければ村や街に被害がでる。
逃げるわけに行かないのは当然。
守護騎士として護るのが矜持。
それでも魔物の群勢を押し返すことが出来ないでいる。
そもそも今回の遠征はここまでの大群の魔物討伐を想定していない。
守護騎士団全部で遠征には行かない。費用がかかるからだ。他のわけとしては王都周辺の守護のためにも残しているが。
そして、魔物がこんな大挙しているとは誰も知らない。
西の隣国の魔物分布まで調べられるわけが無いのだ。
ましてやテリトリー変化で気が荒れた魔物は手がつけられなくなっていた。
魔物の死体が横たわる中で騎士も傷付き、横たわる姿が見える。
そんな中を馬で駆ける馬鹿を見咎めたラティス副団長は緑青の瞳を鋭く光らせた。
「混戦時に馬など!誰です!!」
どこの馬鹿か!?と剣呑に睨むネール副団長にマイラは構わず近寄れるギリギリまで馬で駆け寄り大声で叫んだ。
「団長!!魔物を止めます!引いて下さい!!」
「お前は何処の部署です!関係ない物が指図をするとは!」
激昂してるネール副団長を他所にマイラはストリーム団長に向け吼えた。
「魔物を退かせます!引いてください!!」
剣を振り回し魔物を屠るストリーム団長は、剣を振りながらもマイラから視線を外さなかった。
マイラはストリーム団長と視線を交え、一瞬の視線の邂逅ののち馬首を返し筒から煙をたなびかせながら征野を駆けた。
煙は線を引き、まるで白線で結界を張った如く。
ーー魔物の進行が止まった。
「引け!怪我人拾え!」
マイラは雄叫びを上げ戦場を駆ける。
「早くしろ!」
マイラは馬を操り戦域をすり抜け、白い線を引く。
頼りなく漂う煙幕は、魔物が退くに充分な効果があるようだ。
魔物は後退り、戻っていくのを団員達が遠巻きに見入っていた。
マイラは魔物が跋扈する戦線を魔物が退くまで煙幕を引き、馬で駆けた。
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