1一2。
一話だいたい二千文字前後か、三千文字弱です。
軽く読んで頂けたら嬉しいです。
「書類をこちらにお願いします」
「ああ、…………コレだ」
捻挫をした騎士から症状を記した書類を受け取り薬を用意し渡す。
ここはムーンバ国、王宮内の騎士団医務室。
マイラ・バーンズは湿布薬を騎士に渡し見送ると次の患者に目を向けた。
薬を煎じ調薬するのは体力もいる仕事で地味に重労働だ。
治療に魔力を使う治療医術師もいるが、適正者は少なく王族専属の王宮医術師になるか、遠征する守護騎士に随行するくらいだ。
元々医師が少ないため薬師が処方するのが一般的だ。
魔力には地、水、火、風、雷の属性の他に治癒の光など一人一つの属性を持つ。
ただ、治癒の光属性は数が少なく、光属性を持つ者は優先的に王都の医師に重用される。
教育や身分保障もされるため産まれた赤子は教会で適性を判断する。光属性が出れば手厚い保護が受けらるからだ。
光の魔力を使い回復すると言うのは小さい傷などなら簡単に治すことができる。
だが大怪我などは、力を使えば漠然的に回復するわけではない。理論と知識を駆使したうえで治療しなければならない。そのためには医療知識が無ければ光魔力の無駄使いとなる。
大怪我の場合筋肉構造、神経回路、血管や筋や腱など医療知識を得なければ治療できないのも医術師の少なさの原因だ。
そのために光魔力保持者は保護され生活を保障し身の安全を確保することができる。
光魔力保持者は人身売買で高額商品になるためだ。
家族ごと保障されることから見ても、少なさを表している。
今は医師を増やし光魔力保持者の保護と教育に力を入れている。
魔力は誰でも持っている。
魔力を使い日常生活全般に普及している魔石を使い生活する。
コンロや水回りなど生活用品に魔石が埋め込まれ火をつけたり水を出したりできる。
魔石の魔力が不足したら補充していけば魔石が劣化するまで使える。
魔石の劣化は質によるため値段にも反映され永続的に使える魔石は目が飛び出るほど高い。
一般的には五年から十年使えるのが一般的で価格もリーズナブルになる。
魔石は武器にも使用する。
騎士は剣に嵌め込まれた魔石に魔力を流し発動させて力にする。
魔術攻撃は陣と大きな魔石が必要となり非効率なためあまり普及していない。魔石在りきの魔術に頼るより剣術を磨き上げ実力という底上げした方が強い。したがって剣に属性を乗せて斬るのが一番らしい。
騎士達は剣と魔力の練度を高める訓練をする。
そのため剣の切り傷だけではなく、属性魔力の怪我も多い。
「火傷の化膿止めです。よく冷やしてくださいね」
「ああ」
「打撲場所に塗って下さい。痛みが酷い場合は痛み止めを飲んで下さい」
「ああ。了解した」
「傷口に塗って下さい。化膿しないように清潔を保ってください」
「はい」
「抜糸するまでこれを飲んでください」
「おう」
打撲火傷裂傷など症状に合わせた使用説明して薬を渡す。
王宮の薬は質の良い物を使用しているため治りも早く利用者が絶えない。
「おーい。マイラ昼飯にしていいよ。これで午前最後の患者だ」
「了解ー。食堂行ってくる」
食堂に行けば厳つい騎士達が所狭しと食事を取る。
厳ついマッチョのムサイ中で食事するのも流石に慣れた。が、漢臭い!汗臭い!
できるだけ離れるが、コレには辟易する。
芳しい香りの女性騎士達の近くに座りたいが、ガードが堅い。女性騎士狙いの男性騎士に威嚇され近づきがたく。
いつも通りに、隅っこで静かに食べるのが無難だ。
騎士に比べ、細身の自分は目立たない。
薬師の自分は、紺色のシャツに紺の詰襟、白衣ならぬ黒衣を纏い、見た目も地味だ。
薬草の調合でシミや汚れがつくため、黒衣が制服となっている。
ちなみに医師は白衣だ。薬師との区別のためだが。おかげで地味さに拍車がかかる。
医療職は安定職だが騎士団内に居れば、派手な騎士達と比べられてさらに見劣りする。
いや、目立たなくて結構。
つーか、目立ちたくないし。
断じて負け惜しみでは無い。うん。
マイラは食事を済ませ、いつも通りに図書館へ向かう。
食後はココでノンビリが一番だ。日当たりのいい場所で日向ぼっこしながら本を読んで微睡む。
ああ、ずっとこうしていたい。
ーー
図書館の隅にある長椅子に行儀悪く横になり肘掛けを枕に転寝をするマイラ。
陽の光に照らされ淡い秘色が白く輝いている。
寝顔を隠すように長い前髪で顔を覆い目元を隠す。
読み掛けの本を胸元に起き暫し惰眠を貪る。
ひと気のない図書館の片隅に、もう一人の人影。ゆっくりと自分に近づいて来るのをマイラは気配で感じた。
コツリコツリと小さな靴の音を感じ、またか、と思い目を開けた。
「マイラさん、お慕いしております」
目の前に派手ではないが、清楚で可愛い女性。目は青く澄み瞼パッチリ、少しソバカスのある愛嬌のある顔立ちは好感が持てる容姿だ。
王宮内のメイド服に身を包み、明るい茶髪を結い上げている。
「ごめん。今は宮廷薬師の試験に向けて集中したいから君の想いに応えることは出来ないんだ……」
ーーいつものこのセリフ。
同僚には羨ましいがられるが、言われた自分は困るのだ。無理だから。
誘いを断るためにいつも、“受かるつもりの無い” 試験を受けなきゃならないのが面倒くさい。
騎士ほど派手ではないが、薬師は安定職でそこそこモテる。
良いとこのご令嬢やイイ女は来ないが、安定職目当ての目先のある子か、親からの入れ知恵かが狙ってくることがある。
まあ、目は口ほどに物を言う。
明け透けな娘や下心が透けて見える娘もいれば、ちゃんと自分を好きになってくれる子もいるみたいだけどね?
無理なんだよ。付き合うの。
普通顔。
女性より高いが男性に比べ低い身長。騎士達に比べたら当然チビ。同僚達とは少し低め。
体型もヒョロい。
対人スキルも普通。
モテる要素は無い。
肩書きで告白されているのが判っているからドキドキも無い。
マイラ・バーンズ侯爵。
ただし、養子。
養父はロバート・バーンズ侯爵筆頭。
バーンズ侯爵は養父であり宮廷医術師でありマイラの師匠でもある。
マイラ自身は養子故に、下賤だ庶民の血だと蔑まされるがバーンズ侯爵と縁者になれるなら、と婿に狙われる。
宮廷に食い込める繋がりは貴族には魅力的に写るようだ。ある意味、白い婚姻でもいいわけだから婚姻だけを目的としているのだ。
婿養子と狙い、権力と侯爵との繋がり狙う女豹は怖い。
マイラはブルリと身震いした。
宮廷薬師になんてなるつもりは無い。
体裁だけの試験参加。
面倒くさい。
断る理由に使うため、今年も試験を受ける予定。
ご読了ありがとうございます。
2017.08.05加筆修正。薬師の用語を修正しました。上手く修正できているとよいのですが。