三話
珍しいことにアラームが鳴る前に目が覚めた。
説明会は普段着でお越しくださいと書いてあったが、ジャージで行くわけにもいかないので、シンプルなYシャツ、ジャケット、スラックスで行くことにしたが慣れない恰好なので窮屈だ。朝食をみんなで食べ、車で説明会に行く。会場までは30分ほどでついた。山に囲まれ、通っていた高校の何倍も大きい。誘導に従い駐車場に車が止まる。車を降りるとすぐに会場まで案内され受付を済ませてデバイスを預ける。
会場内に入ると、外観からある程度予想はできていたが、歴史を感じる大きな講堂だった。
受付から渡された番号の座席に座り、あたりを見渡す。私と同年代は少ないようで中には軍服を着ている人もいた。
席も埋まり始まる時間になると壇上にスーツを着た男性が立ち説明を始める。説明会はパンフレットに書いてあったことのほかに、入学式一週間前に入寮すること、校則について、指導学生と呼ばれる生徒がこの後に行う校内案内と採寸の流れについて説明された。
説明会が終わると扉が開き在校生と思われる生徒が集まるようにと声を張り上げる。みんなが集まったところで優しそうな女性と背の高い青年が自己紹介をする。
「案内役を務めます。指導学生長佐藤千歳です」
「指導学生副長高野五郎だ」
女性は優しく笑い、青年は少し威圧的な物言いだった。
学生長がついてきてくださいと言いゾロゾロと皆がついていく。学生副長は最後尾にいた。最初に案内されたのは校舎で外観は古いが中は新しい。
驚いたのは一階にはコンビニ、書店、レストランが入っていたことだ。コンビニは24時間営業で書店はノートなどの文房具のほかにデータ版のコミックや雑誌も売っていた。皆はじめは驚くのよねと学生長はいたずらに成功した子供のように笑っていた。
次に案内されたのは第二図書館。第一は寮から遠く普段あまり利用されないとのこと。図書館は大きく、紙媒体が減ってきた現代でも電子書籍などをわざわざ製本しているらしく、蔵書数も第一と第二を合わせると国内で10番以内に入るらしい。データ版も一週間借りることができるので、ほとんどの人はデータ版を使っているようだ。これからなくなっていくものの一つに挙げられる事が多い本がこんなにたくさんあるロマンがあふれる図書館だった。
最後に案内されたのは寮。寮生以外は中に入れないため入寮式の後に改めて案内をすると言っていた。
校内案内が終わり採寸のために体育館へ向かう。途中ランニングや筋トレをしている生徒を見かけ、最近はしってないなぁ、明日から自分もトレーニングしようと考えていたら体育館に着いた。
女性と男性に分かれるようで女性の列に並ぶ。周りがなんだかそわそわしている。理由は分かりたくないがわかってししまう。女性の平均身長よりかなり高い背、部活動のせいか筋肉質な体と短い髪、何より胸というのもおこがましいくらい残念は胸。
案の定「すみません。こっちは女性ですよ」と数少ない同年代であろう少女に小声で声をかけられる。
「ここであってます。勘違いさせてすみません」
「す、すみません! 失礼なことを、本当にごめんなさい」
勇気を出して指摘してくれた少女は私の声を聞きと泣きそうになりながら謝ってくる。正直慣れているのでそこまで傷つくこともない。
「こちらこそ勘違いさせて申し訳ないです。私は近衛蓮です。名前をうかがっても?」
「わ、私は小笠原 春華です。高校2年生です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。2年生ということは私の一つ上なので敬語はいりませんよ」
「そうなんだぁ。じゃあ蓮ちゃんて呼んでもいい?」
首をかしげながら聞いてくる。この人は小動物的なかわいさがある。
「いいですよ。春華さんと呼んでもいいですか?」
「もちろん! なんだったら呼び捨てでもいいし、敬語もいらないよ?同期になるんだし」
「あー……検討しておきます」
困っているのが顔に出ていたのかクスクスと笑われた。
採寸を待つ間お互いのことを話して待っていた。春華さんは有名なお嬢様学校に2年生。家族にこの学校の制服は似合わないだろうと大笑いされたらしい。確かに小柄だし、顔もかわいいので軍服のような制服はイメージに合わないだろう。本人は似合うと思っているので黙っておくことにした。
名前が呼ばれたので採寸を受ける。身長はまだ伸びてますか?ときかれたので伸びてますと答えると、サイズが合わなくなっても申請すればサイズの合ったものに交換で来ますので覚えておいてくださいと言われる。もう成長期終わるはずなんだけどなぁと思うが覚えておく。
まだ伸びるぞと言われてるようなものなので少し気分が沈む。採寸を終えると先に採寸を終えた春華さんが待っていた。
「待っていてくれたんですか?」
「うん。連絡先交換しようと思って。ダメかな?」
「すみません。自分のアドレス覚えてないんで帰りでもいいですか?」
「もちろんいいよ。実は私も覚えてないの」
一緒だねと笑い合いこの後は解散かなと話していると、最後に講堂で話があるらしく講堂へ誘導される。
最初に座った席に着くと番号が書かれた紙が置いてあり、何だろうと思っていると
「今から呼ばれる番号の方は残ってください」
スーツを着た男性が数字を読み上げていく。軍服をきていた人と小春さんは以外は呼ばれた。小春さんは外で待ってるねといって講堂から出て行った。
「次に呼ばれた方から順に箱を受け取り、席に戻ってください」
指示通りにみんなが箱を受け取り席に着く。席に着きすぐに箱を開けようとした人もいたが止められていた。全員が箱を受け取ったのを確認した男性がうなずく。
「では箱について説明します。箱の中身はヨウセイの卵が入っています、あなたたちのパートナーとなるヨウセイたちですので大切に育ててください。
卵が孵化した場合は速やかにパートナー申請書の提出をお願いします」
皆が言葉を失う。当然だ。ヨウセイの卵は買うことなんてできない。国の許可がないと卵の譲渡は違法である。ほとんどの人はある日突然現れるヨウセイを保護という形でパートナー申請をする。あたり前のように公園でヨウセイが遊んでいたりもするが野生のヨウセイを捕まえてパートナー申請をしてもヨウセイの態度によってばれるし、ばれた場合重罪になる。要するに簡単にヨウセイとパートナーになれることはまずない。
「では解散してください」
説明を済ませた男性はすぐに講堂から出て行った。周りはすぐに中身を確かめる人やあまりのことに固まっている人までいた。私も固まっていた一人だが春華さんを待たせているのを思い出す。急がなくてはと箱を抱え受付から預けていたデバイスと、ゼロからわかるヨウセイと書かれている冊子を受け取り外に向かった。
外に出るですぐ春華さんを見つけることができた。春華さんも手を振りながらおいでと呼んでいる。箱の中身に気を配りつつ速足で春華さんの所に向かう。
「お疲れ様。意外と早く終わってんだね」
「すみません。待たせてしまいました」
「全然待ってないよ。校内を自由に見ていいよって指導学生の人が言ってくれたからみて回ってたの」
楽しそうに校内の話をしてくれるのでよかった。
「そういえばその箱どうしたの?」
「ヨウセイの卵が入ってるらしいです。まだ見てませんけど」
なんで春華さんはもらえなかったのだろう?
「なるほど、だから私は呼ばれなかったのかぁ」と一人で納得していた。
「私もうパートナーがいるの。だから呼ばれなかったんだと思う」
なるほど、パートナーは一匹と決まっている。春華さんに詳しく聞くと両親にもパートナーがいてある日卵を渡してきたらしい。それで国に申請して譲渡の許可が下り、春華さんのパートナーになった。
ヨウセイは白ウサギだと言っていて何となく春華さんぽいなぁ思った。
約束通りアドレスを交換する。ヨウセイの事なら相談に乗れるからいつでも連絡してね。と頼りになる言葉を残し、春華さんは両親を探しに行った。
私も探しにかなければと歩き出してすぐ名前を呼ばれる。両親と合流しヨウセイのことを話ながら車に向かう。家にはヨウセイがいなかったので両親も孵化が楽しみのようだった。
車に乗ると疲れていたのかすぐ眠ってしまい、起きた時には家にはマンションについていた。
部屋に荷物を置き、リビングに箱を持っていく。卵はどうしようと考えているととりあえず開けてみてはどうかと父に言われる。
それもそうだと思い箱を開ける。箱を開けると不思議な模様が描かれたラグビーボールくらいの卵が入っていた。箱のなかはクッションのようになっているのでそのまま卵のベッドとして使えそうだ。
両親も興味津々で卵を見ている。両親に触らないように言い、とりあえず冊子をもって来ようと部屋に戻る。冊子をとって戻ると、母は夕食の準備をはじめ、父はさっきと全く同じ姿勢で卵を見ていた。
「見ててもすぐには生まれないよ」
「この子が蓮のパートナーになると思うとなんだかうれしくてな」
父は放っておいて冊子を読む事にする。
最初に書かれていたのはパートナ申請の仕方。役所で申請して当日に証明書が発行される。ヨウセイ側からも契約が破棄できるため、破棄された場合も申請すること。
次にヨウセイの餌について。餌はいらないが、食べることはできるので時間をかけて好物を一緒に探してあげましょうと書いてある。例としてリンゴやチョコなど想像がつくものからコンクリートや電気といった想像のつかないものまで上げられていた。できればお金のかからないものでありますようにと願うことしかできない。
最後にヨウセイの成長について。はじめは小さいが歳を重ねて成体になる。成体になると老化することはなく、パートナーが死ぬときまで契約が続いていると共に死ぬことになる。と書かれていた。
卵の孵化に関してはなにも書かれていなかった。冊子を読み終え父と無言で卵を見つめる。
「見つめていても生まれてこないわよ」と言いながら母が夕食を食卓に並べている。
父が慌てて並べるのを手伝いに行った。
夕食ではみんなで卵について話をした。どんな子が生まれてくるのだろう。母はきっとドラゴンが生まれてくるわ。と目を輝かせて言った。父は猫だといいなぁと言った。
蓮はどんな子だと思う?と聞かれたので無難に犬と答えた。どんな姿だろうと生涯のパートナーが生まれてくるのが楽しみだ。食事の片づけを手伝いをしてから卵と一緒に部屋に戻る。
春華さんに卵の時は何をしてあげたらいいのかと質問のメールを送ると返事はすぐに帰ってきた。
話しかけてあげること、触ってあげること。私は一緒にお風呂にも入ってたよ。と冗談なのか分からない内容だった。
お礼とまた入寮式の時に会いましょうとメールを送り卵のほうを見る。
「早く君に会いたいよ。」
卵を撫でてつぶやいた。