十八ノ二話
アラームが耳元で鳴り飛び起きる。
時間を確認すると予定通りの時間、作業服に着替え装備をつけてドアを開けると何かにぶつかる。
確認してみると部屋の前に段ボールがおいてあった。
時間がないのでとりあえず部屋に入れて庭に向かう。
庭に行くとまだ誰も来ていない、どうやら一番乗りのようだ。ストレッチをしながらみんなを待っているとみんながやってくる。
「近衛、体は大丈夫か?」
笹井さんが保冷バッグを私に投げてくるので慌てて保冷バッグをキャッチする。
「さっきまで寝てたんでなんとか。これがあるってことは今日もきついんですね」
「……だろうな」
課題を後にしたのは失敗だったかもしれない。
笹井さんと無言でストレッチをしていると千歳先輩が寮から出てきた。
「みんないるね。今日のメニューは近衛ちゃんと笹井君はずっと組み手、他の人は魔法の練習をやってもらうね」
怪我をしないようにちゃんと準備体操をするんだよと言いながら3人をつれて少し離れた場所に行ってしまった。
「始めるか」
笹井さんはナイフをホルスターから抜き構える。
私もナイフを抜いて構え、笹井さんの動きに警戒する。
先に動いたのは笹井さん、ナイフで切りかかってきたので手をつかみ受け流すと死角から回し蹴りをしてくる。
慌ててナイフを持っている右手でガードするが受けきれず体勢を崩してしまう。なんとか反撃しようとナイフを落とし笹井さんの足をつかんで投げ、マウントを取ったと思ったら首元に笹井さんのナイフが当てられる。私の負けだ。
「今のは惜しかった。敗因はわかるか?」
「回し蹴りを受けたことです」
「そうだ。【身体強化】を発動させていない時のお前は筋力的に俺に負ける。後は武器をすぐに捨てたことだ」
笹井さんは私が落としたナイフを拾い渡してくれる。
「このナイフは刃がついてないから出来ないがあのときはナイフを持ち替えて足に刺すのがベストだったと俺は思う」
確かに笹井さんの言うとおりだ。簡単に武器を手放せばもしかしたら拾われてしまうかもしれないし、何よりあのときならほぼ確実に攻撃が成功しただろう。
「もう一回お願いします」
「今と同じパターンでやるか?」
「とりあえず経験を増やしたいんでランダムでお願いします」
笹井さんのほうが圧倒的に経験値が高く、一つのことを対策すると攻撃の組み合わせや緩急を変えてくるので全然勝てない。まだ始めたばかりだからしょうがないが負けっぱなしは心が折れそうになる。
何度も組み手をしていると練習を終えたのか千歳先輩たちがこちらにやってくる。
「最後に【身体強化】ありで組み手してみようか。ルールは何でもありで相手が降参するまで」
「わかりました」
「ナイフと拳銃は構える段階で持っていていいんですか?」
「開始の合図までは持たないことにしようか」
それじゃあ構えてといわれ笹井さんと向かい合い【身体強化】を使ってから構える。他の3人も見学するようで先輩の後ろに座っている。
「始め!」
合図と同時に笹井さんがナイフを抜き攻撃を仕掛けてくる。ナイフをよけ私も笹井さんにナイフで牽制攻撃を仕掛ける。【身体強化】のおかげで笹井さんの動きにもついていける、笹井さんの攻撃をよけながら隙をうかがう。
「よけてばっかりじゃ面白くないよ~」
千歳先輩がヤジを飛ばしてくる。こっちだって攻められるならとっくに攻撃している。
一瞬視線がそれてしまい笹井さんのナイフが頬をかする。一瞬ひやっとしたがチャンスだと思い笹井さんの腕をつかみ足を払うと笹井さんの体勢が崩れる。
マウントを取って胸にナイフを突き刺す動作をする。笹井さんは反射的に両手でナイフを持っている手をつかむ、私は笹井さんがナイフに気を取られている隙に拳銃を抜き素早く笹井さんの額に当てた。
「降参だ」
「勝負あり! 近衛ちゃんの勝ち!」
荒い息を整えながら笹井さんのうえから降りる。初勝利のせいで興奮しているのかなかなか息が整わない。座って休んでいると離れて見ていた紫苑が駆け寄ってきたので膝にのせる。
紫苑が頬をなめてくるので自分の頬を触ってみると手に血がついていた、どうやらさっきの攻撃で切れてしまったようだ。汚いので紫苑に舐められないように注意していると笹井さんと話していた千歳先輩がこっちに来る。
「近衛ちゃんおつかれ~。いやぁすごかったよ」
「ありがとうございます」
「さっき魔力が乱れかけてたけど大丈夫?」
そう言って千歳先輩は私の手を握り目を閉じる。何をしているのだろうと見ているとと体がぽかぽかしてきて寝てしまいそうになる。
「大丈夫そうだね。小笠原ちゃんこっちおいで」
先輩に呼ばれた春華さんは緊張した顔でこっちにやってきて私の頬に手をあてて目をとじる。
すると頬あてられていた春華さんの手が熱くなったので驚く。
「もういいよ。手をどかしてみて?」
千歳先輩に言われたとおりに春華さんは手をどかして私の頬を見つめてくる。
「よかったぁ、ちゃんとふさがってる」
頬を触って傷の状態を確認すると少し痛みはあるが血は止まっていた。
「すごい」
「大丈夫そうだね。それじゃあ次は笹井さんにやってみようか」
千歳先輩は春華さんをつれて笹井さんのところに行ってしまった。
組み手の時は夢中で疲れを感じなかったが、終わると一気に疲れを感じる。この後課題をしなければならないと思うと後回しにした自分が憎い。
訓練はこれで終了のようで各自ストレッチをしている。
私もストレッチをしているとストレッチを終えた笹井さんがこちらに向かってくる。
「さっきのは見事だった」
「あ、ありがとうございます。でも夢中だったんであんまり覚えてないです」
「いや~あれは本能だろうね。ほっぺにかすったときに目が変わったもん」
笹井さんの後ろからぴょこっと千歳先輩が出てきて笑いながら言う。笹井さんに隠れていて全くわからなかった。
そろそろ寮に戻ろうと言われ寮に戻ってシャワーを浴びる。打ち身に薬を塗り、後回しにしていた課題をやる。
ここでの生活がハードすぎてホームシックになる暇すらない。
きりのいいところで課題をやめて食堂でご飯を食べる。佐々木さんに今日は大変でしたねと言われ内緒ですよとデザートにアイスクリームをもらった。紫苑と一緒にアイスクリームを食べながらのんびりと過ごす。
時間を見るとそろそろ課題の続きをやらないと間に合わないと思い部屋に戻る。
部屋に戻り課題を広げるが眠気がおそってくる。このままでは寝てしまうと思い談話室にむかう。
談話室で寝てしまっても誰かしらが起こしてくれると希望をもってむかうと由乃さんと春華さんが課題をしていた。
「あれ? 蓮ちゃんも課題?」
「はい、部屋でやると寝てしまいそうなので」
「あとどれくらいなの?」
由乃さんに聞かれたので課題を見せるともうちょっとねといって隣においでと椅子を引いてくれる。椅子に座って課題を進めていく。特につまずくポイントはなかったがうとうとしてしまう。
「蓮さん? ここ間違っているわ」
「はい!」
由乃さんの声でうとうとしていた私は反射で返事をする。由乃さんはクスッと笑い、間違っている問題を解説してくれる。正面に座っていた春華さんもクスクスと笑っていた。
課題を眠気と戦いながらなんとか終える。春華さんはもう少し!といって自分の頬をたたいて気合いを入れ
ていた。
ヨウセイたちはソファーで丸まって寝ている。広げていた課題を片付けヨウセイたちが寝ているソファーに近づく。ヨウセイたちは1人掛けのソファーにくっつきながら寝ていてとても和む。紫苑が起きるまで少し休もうと思い2人掛けのソファーに寝転がり目を閉じる。教科書をめくる音と時計の秒針の音だけが談話室に響いていた。
体が揺すられている。重いまぶたを開けると春華さんと由乃さんがのぞき込むように私を見ていた。
「おはよう、よく寝ていたわね。」
「起こすのもどうかと思ったんだけど、ベッドでちゃんと寝た方がいいかなぁとおもって」
ソファーで寝ると体が痛くなっちゃうよと春華さんに注意されてしまった。紫苑たちも起きたようであくびや毛繕いをしている。
ぼーっとヨウセイたちを見ていると
「蓮ちゃんぼーとしてるけど大丈夫? お部屋帰れる?」
「お姉さんたちが送ってあげましょうか?」
「送るもなにも隣のへやじゃないですか」
お姉さんたちに任せなさいと話を無視して春華さんが私の手を引っ張って部屋にむかって行く。
「か、課題!」
「由乃さんが持ってくるから大丈夫!」
そう言ってどんどん廊下を進んでいく。ヨウセイたちは楽しそうに春華さんの前を走っていた。
私の部屋の前に着くと後ろから着いてきていた由乃さんが私の勉強道具を渡してくれる。
「明日も朝練でしょ? ちゃんとやすむのよ?」
「はい。お休みなさい」
「むー! なんで蓮ちゃんは菊池さんには素直なの? お姉さん悲しい!」
「由乃さんの方がお姉さんぽいからですかね?」
「お姉さんって呼んでもいいのよ?」
「それは遠慮しておきます。」
春華さんは私たちをみてぐぬぬとうらやましそうにしている。
「春華さんも私のことはお姉さんでもいいのよ?」
由乃さんがからかうように春華さんに言う。
「お姉さんじゃなくて由乃さんって呼びます!」
予想外の反応だったのか由乃さんは一瞬驚き、その後にうれしそうに笑った。
「由乃さんかわいい」
春華さんはうっとりと由乃さんを見ながらこぼれるように言う。
由乃さんはいつもはクールで美人だがたまに見せる笑顔がとてもかわいい。
私は春華さんの言葉に無言でうなずく。
「もう寝る時間よ。お休み」
由乃さんは私たちの反応をみて恥ずかしそうに言った。
お休みなさいといってそれぞれの部屋に戻る。
談話室で少し寝たとはいえ体は疲れ切っている。
紫苑に金平糖を2、3粒あげてベッドにはいり目を閉じる.




