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十七ノ二話

 みんなが揃い訓練が始まる。千歳先輩が2つのアタッシュケースを開ける。


「今から拳銃とナイフを配ります。もちろん刃はついてないし、拳銃もモデルガンだけどね」


そう言うと拳銃とナイフを配っていく。受け取った拳銃とナイフをホルスターに入れる。


「それじゃあ訓練を開始します。回復、通信、護衛は魔力は最低限必要な魔法をマスターしてもらいます。遊撃はこれをもって私がいいと言うまで走り続けてね」


ハイどうぞとアサルトライフルを渡される。アサルトライフルはずっしりと重い。

笹井さんに持ち方を教わりMグラスに送られてきたコースを走る。一時間ほど走らされやっと休めると思ったら今度は格闘術。

訓練が終わる頃には私も笹井さんもぼろぼろだった。格闘術で笹井さんに投げられまくったので体のあちこちが痛い。


「近衛ちゃんはこっちに来て。笹井君は3人が走るのサボらないように見てて」


私は千歳先輩のところに向かう。


「今から【通信】【感知】【身体強化】を覚えてもらいます。まずは【通信】と【感知】」

「はい」

「手を握って? 【通信】は魔力をヨウセイに送った時のイメージで言葉を魔力に乗せるの。

やってみて?」


千歳先輩の手を握って魔力を送る。千歳先輩のては女の子らしく華奢であたたかい。すべすべしていて気持ちいい。


「近衛ちゃん、考えていることがそのまま魔力に乗ってるよ」

「え! す、すみません」

「今度は手を離してやってみよう。私の名前を送信してね」


目を閉じて集中する。千歳先輩をしっかりと意識して魔力を飛ばす。


「合格! 通信記録を残したいときは寮章やMグラスを経由するイメージで通信をすれば残るから覚えておいて」

次行ってみようと言って先輩は庭の中心近くに私を引っ張っていく。


「【感知】のイメージは自分を中心に半球のドームを作ってその中を自分の魔力でいっぱいにするの。最初は円の距離がイメージしにくいからヨウセイと自分の距離を半径にして円を描くといいよ。やってみて」


紫苑から少し離れ半球のドームをイメージする。

ドームの中に雷雲をこれでもかと詰め込むイメージをして魔力を詰め込む。


「いい感じ。今度はどんどん魔力を薄くしていこう。」

「薄くですか?」

「うん。今はどんなイメージをして魔力を流したの?」

「雷雲をぱんぱんになるまで詰め込む感じです」

「雷雲? う~ん、私は空気にちょっとだけ魔力を混ぜるイメージで薄めてるけど参考になるかな?」

「やってみます」


そういったものの全くイメージがわかない。とりあえず雷雲を小さくしてドームにふわふわと漂わせるイメージで魔力を流す。


「もっと薄くしないとダメだね。それと均等に魔力を流さないと安定しないよ」


どうやったら薄く均等になるのだろう。

千歳先輩は空気に混ぜるといっていたが元気が空気に混ざっているイメージができない。試しにビー玉くらいの電気の球を私の足下に置くイメージで魔力を流す。

 千歳先輩は私に目を閉じるように指示をする。指示通り目を閉じるとなんとなく紫苑の位置はわかるが先輩がどこに居るか全くわからない。

いつまで目をつぶっていればいいのだろうとぼんやり考えていると突然自分の魔力が後ろに流れる。何事かとおもって目を開けて振り返ると後ろに千歳先輩がたっていた。


「すごいね! 感知範囲に入った瞬間にばれちゃったよ。もう少し魔力が薄くできれば完璧だね」

「頑張ります」


先輩の言っていたイメージとはだいぶ違うが合格がもらえのでこのままでいいだろう。魔力も電気の球をもっと小さくすればもっと薄くできるかもしれない。


「疲れているみたいだし【身体強化】は明日やろうか?」

「いえ、大丈夫です。教えてください」

「無理はダメだよ? 【身体強化】は体中に魔力を張り巡らせるの。少しずつ魔力を巡らせてみて。」


目をつぶり慎重に魔力を巡らせていく。代謝がよくなったのか汗で冷えていた体がどんどん暖まっていくのがわかる。


「できてるみたいだね。魔力の制御が完璧に出来るようになるまではそれ以上魔力を流さないこと。【身体強化】は名前の通り身体能力をあげる魔法だけど諸刃の剣でもあるの」

「なぜですか?」

「体のリミッターが効かないの。魔力量を増やせば素手で岩だって砕けるけど防衛魔法を拳にかけないと岩と一緒に拳も砕ける。だから絶対ダメ」


千歳先輩は真剣な顔をして忠告してくる。


「わかりました」

「それじゃあ【身体強化】を維持しててね」


そう言うと千歳先輩は私の手を握る。

 突然激しいめまいに襲われ、たまらず膝をつく。立とうとしても体は重く視界も揺れて千歳先輩の顔をしっかりと見ることも出来ない。


「今戻すから動かないで」


千歳先輩は私のおでこに手を当てる。少しするとめまいは収まり、体も普通に動かせるようになった。


「今のはなんだったんですか?」

「今のが対魔道士戦で気をつけなきゃいけないこと。相手に魔力を流し込んで魔力を乱して意識を奪うの。直接触らないと意味はないけどやられたら打つ手なしでしょ?」

「そうですね。出来れば二度とされたくないです」

「私もいやだなぁ。装備もあるから戦闘中にやられることは滅多にないよ、潜入の時はよく使われる手法だから覚えておいてね。今日はここまでにしよう」


千歳先輩は頑張ったねといって私の背中をたたき休んでいるみんなの方に向かっていく。私も千歳先輩の後をついて行きみんなと合流する。


「みんなおつかれ! 今日の訓練はこれでおしまい。各自ストレッチを忘れないように」


ストレッチをしてからアタッシュケースに拳銃とナイフを戻す。


「蓮ちゃん! 一緒にお風呂行こう?」

「そうですね。着替え取りにいきましょうか。由乃さんも行きますか?」

「ええ、私も行くわ」


3人で寮に向かおうとすると笹井さんに呼び止められる。


「近衛! 忘れ物だ。」


そう言ってちいさな保冷バッグを渡してくれる。


「ありがとうございます。忘れてました」

「ちゃんと食っとけよ」


笹井さんはおにぎりを食べながら寮に戻っていく。


「先に行ってください。これ食べてから私も行きます」

「それくらいなら待つわよ」

「うん! 待ってるよ」


待たせてもいけないので大急ぎでおにぎりを食べる。おにぎりの具は梅だったがあまり酸っぱくないので蜂蜜漬けだろう。ミカンも甘くておいしかった。


「お待たせしました」

「それじゃあ戻りましょう?」

「はーい!」


寮の玄関を抜け階段を上り、自分の部屋に戻って装備を外す。着替えを持って紫苑と一緒に浴場に向かおうと廊下を歩いていると前に由乃さんが居たので一緒に向かう。

脱衣所で服を脱いでいると


「蓮さん、アザだらけになってるわ」


そう言って由乃さんが背中のアザを触る。


「いっ! 痛いです!」

「ご、ごめんなさい。」


あまりにも申し訳なさそうに由乃さんがいうので怒れない。


「大丈夫ですよ。後で薬を塗っておきます」

「手伝いましょうか?」

「じ、自分で出来ます!」


由乃さんは私の反応をみて楽しそうに笑っている。どうやら私はからかわれたようだ。


「先に入ってます!」


まだ脱いでいる途中の由乃さんを待たず、私は逃げるように浴場に向かった。浴場では千歳先輩が湯船につかっていて、こちらに気づき声をかけてくる。


「近衛ちゃんやっほー。今日は湯船につかっちゃダメだよ」

「ダメなんですか?」

「怪我の治りが悪くなるからね。お風呂上がったら薬あげるね」

「ありがとうございます」


話をしていると由乃さんと春華さんが一緒に浴場に入ってきた。


「うわぁ、蓮ちゃんの背中アザだらけ。痛くない?」

「見た目ほど痛くはないですよ」


本当はあちこち痛いがたいしたことのないように振る舞いシャワーを浴びる。体をなんとか洗って湯船には入らずに浴場を出る。体を拭きのそのそと着替えていると


「薬塗ってあげるよ!」


千歳先輩が首にタオルを掛け全裸のまま塗り薬を持って言う。


「まずは服を着てください」


自分の格好を忘れていたのか少し恥ずかしそうに先輩は服を着る。千歳先輩は着替え終わると椅子に座るように言われおとなしく椅子に座る。


「それじゃあ腕を出して?」

「腕は自分でぬれますよ?」


いいから出してと言われ仕方なく腕を出す。先輩は優しく薬を塗ってくれるが痛い。

痛いのが顔に出ていたのか先輩は優しい声で我慢してねと声をかけてくれたが子供扱いをされて少し恥ずかしい。

 気を紛らすように紫苑の頭をなでていると、ガラガラと浴場の戸を引く音が聞こえ、由乃さんたちがやってくる。ここは由乃さんたちからは見えない位置だ。子供扱いされているところを見られなくてよかったとおもっていると


「いたっ!」


腕に痛みが走り声を上げてしまう。千歳先輩を睨みつけるように見るが平気な顔をして薬を塗り続ける。


「大丈夫?」


春華さんと由乃さんがこちらを覗き混んできた。


「大丈夫です」

「いや~相当痛いでしょこれ。笹井君にあれだけ地面に叩きつけられてたんだから」


それを聞いて2人は慌てて私に近寄ってくる。


「そうだ! まだ私やることがあるから背中とおなかに塗ってあげて」

「まかせてください」


由乃さんに薬を渡して千歳先輩は帰ってしまった。


「塗るからTシャツを脱いで」

「私お腹塗りまーす」

「お腹は自分で塗れますよ!」


結局痛みでうまく動けない私はTシャツを脱がされてしまう。恥ずかしくて死にそうだ。


「蓮ちゃん腹筋割れてるね。痛くない?」


春華さんがそーっと薬を塗るので痛いと言うよりはくすぐったい。笑いそうになるのをこらえていると背中に激痛が走り背筋が反射的に伸びてしまう。


「大丈夫?」


由乃さんが後ろから私の耳元でささやく。


「だ、大丈夫です」


私の返事をきいて由乃さんは薬を塗るのを再開する。目をぎゅっととじて痛みに耐える。春華さんは薬を塗りおえたようだ。

頭をなでられたので目を開けて春華さんを見ると


「普段はクールでかっこいいのに今は小さい子みたいでかわいいね」


なんと答えていいのかわからず黙る。


「塗り終わったわよ」


そういって由乃さんがTシャツを着せてくれる。


「ありがとうございます」

「いいのよ。でもこれからは痛いならちゃんと痛いって言うこと。いい?」

「はい」


夕食まで時間があるので談話室で時間をつぶすことになった。ヨウセイたちは訓練で疲れたのか固まってソファーで寝ている。

私もあそこに混ざって寝たいなぁとぼんやり考えていると春華さんが私のほうをじっと見てくる。


「蓮ちゃんって菊池さんと仲いいよね」

「そうですか?」

「そうかしら?」

「だって菊池さんのこと名前で呼んでるし、この前も一緒に行動してたから」

「仲良くしたいとは思ってます」

「今は仲良くないのかしら?」

「そんなことはないです」

「やっぱり仲いいよ。菊池さんも蓮ちゃんも楽しそう」


少しさみしそうに春華さんがいう。


「でも蓮さんは春華さんを藤原君に取られたって拗ねてたわよ」

「拗ねてないです!」


拗ねていたわけではなく近づきにくかっただけだ。


「きゃー!蓮ちゃんかわいい。おねえさんうれしいよ」


春華さんが抱きつこうとしてくるので逃げる。


「拗ねてなんかいないですって」


元凶の由乃さんは楽しそうに私たちの追いかけっこを見ている。


――いま大丈夫か?――


笹井さんから通信が入る。2人は反応していないので個人通信だろう、足を止めてしまったので春華さんに捕まってしまった。仕方ないので捕まったままソファーに座りされるがままに返信する。


――どうかしましたか?――

――明日の朝練は軽めにしようと思ってな。体は大丈夫か?――

――千歳先輩に薬をもらったのでだいぶ楽です――


また明日と挨拶をして通信を終えると2人がこちらを見ていた。


「どうかしたの?」

「何でもありませんよ。それよりそろそろ夕食にいきませんか?」

「そうだね。食堂行こっか」


2人には先に行っててくださいといって部屋に戻り保冷バッグをもってから食堂に向かう。

 佐々木さんに保冷バッグを渡してから春華さんたちが座る席に座り一緒に食事を食べる。

今日のメニューは鶏肉のソテーと焼きたてのパンとサラダだった。春華さんたちの食事はいつもより量が多いようで食べるのに苦戦していた。

 食事を食べ終え談話室に行かないかと誘われたが断り部屋に向かう。

タブレットで紫苑のためにこんぺいとうを注文して明日の準備をする。


「明後日にはこんぺいとう届くってよ」


紫苑を撫でながら伝えるとうれしそうにしっぽを揺らしていた。

紫苑がうれしそうにしているのを見るとそれだけで心が満たされていく。

そろそろ寝る時間になのでベッドに入り目を閉じるとすぐに私の意識は夢の中に旅立っていった。


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