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十三話

翌朝、笹井さんと朝練をして一緒に朝食をとる。

課題を部屋で終わらせて昼食をとるために食堂に向かう。

食堂に入ると


「近衛ちゃんやっほ~。ちょっとこっちおいで」


千歳先輩が手招きをしている。佐々木さんに会釈をして千歳先輩のほうに向かう。千歳先輩は食事を終えているようで食後のコーヒーを飲んでいた。


「近衛ちゃん頑張ってるね~。この前のテストも合格ラインだったよ。」

「ありがとうございます」

「藤原君と小笠原ちゃんはペースが全然上がんないからちょっと頑張ってもらわないと。近衛ちゃんは現状維持で頑張ってね」


無理はしちゃだめだよと言いながら立ちあがり背伸びをして私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

千歳先輩が食堂をでたタイミングで食事が運ばれてくる。

ここの料理はどれもおいしそうだ。佐々木さんにほかの寮も同じなのか聞いてみるとスタッフもほかの寮との交流は少ないらしく分からないと言っていった。

食事を終え、校内にあるコンビニに向かう。

道中学生の姿はほとんどなく、何人かが走っているだけだった。

 コンビニに入っても中には店員しかいない。ミルク味の飴と期間限定と書かれているイチゴ味の飴の二袋を買おうとレジに向かう。


「363円になります」


財布を探すがどこにもない。自分の財布がどこにあるか記憶をたどると入寮時に段ボールに入れて実家に入れたのを思い出す。


「すみません。財布を忘れたので戻します」

「新入生ですね。所属寮と名前を教えていただければ、4月分の給与から引くことができますよ」


話を詳しく聞くと学生証をまだ持っていない学生のための制度らしい。

私は所属寮と名前を伝え無事に飴を買うことができた。

帰りに図書館に寄り道しようと思い図書館へ向かっていると 


「これから2班が使うから1班は早くそこどけよ!」

「こんなに広いんだから別に一緒に使えばいいだろ!」


男子学生たちがが声を荒げながら図書館の入り口で言い争っている。

確か1班と2班は同じ第二寮だったはず。第一寮とはずいぶん雰囲気が違うようだ。入り口で争っているためこっそり図書館へ入ることはできないし、かといって正面から無視をして入っていくには私には出来ない。からまれるのはいやなので見なかったことにして足早に寮に戻る。

 寮に戻り部屋にはいって買ってきた飴をしまう。この後は暇なので何をしようかと紫苑を膝にのせながら考える。


「紫苑はなにかしたいことある?」


紫苑は首を傾げるだけで特に意思表示はなかった。部屋でごろごろする気分でもないのでとりあえず温室に向かうことにした。

 温室の中には入らないですぐ横に流れている小川に靴を脱ぎそっと足を入れる。暖かい陽気とはいえ水はまだ冷たくて近くの岩に座り冷え切った足を日向で温める。思い付きで小川に入ったのでタオルを持ってきてないので自然乾燥だ。

紫苑は小川でバシャバシャと跳ねまわっている。岩の間に顔を突っ込んだり、少し水が深くなっているところを見つけ泳いでいる。

突然キャンッ!と紫苑が悲鳴を上げる。どうやらサワガニに鼻を挟まれてしまったようだ。サワガニから逃れようと川の中で暴れまわっている紫苑を何とか捕まえ、サワガニを取ろうとするがなかなか取れない。


「……紫苑最終手段しかないみたい」


紫苑は覚悟したように私の目を見つめる。

私はサワガニの胴体をつかんでつぶれない程度の力で一気に引っ張る。

キャンキャンと悲痛な鳴き声を紫苑があげるが心を鬼にしてひっぱり続ける。

なんとかサワガニを取り外すことはできたがずぶ濡れだった紫苑を抱きしめていたので服はびちょびちょだ。

羽織っていたパーカーをタオル代わりにして足を拭き靴を履く。

紫苑はブルブルと体を震わせるといつも通りのふわふわな毛並みに戻っている。

 ヨウセイは魔力さえあれば傷さえ一瞬で治ってしまう。紫苑はパートナー契約をして私から魔力供給を受けているので一瞬で元通り。

野生のヨウセイは大気中の魔力を使っているという説が有力だがまだ解明されていないことが多い。一緒に生活をしていると不思議なことが多いと実感する。ごはんは基本食べなくても平気だし怪我も一瞬で治る、しゃべることはないがこちらの言っていることや考えをきちんと理解する知能もある。

そもそも生まれかたも解明されていない。謎だらけの相棒だが金平糖を嬉しそうに食べたり、サワガニにやられている姿を見ているとそんなことはどうでもよくなってくる。

 さすがにびしょ濡れのままは風邪をひいてしまうので部屋に戻りシャワーを浴びる。夕食までまだ時間があるが課題をする気にもなれずベッドでごろごろしていると部屋にノックの音が響く。


「笹井だがいるか?」


慌ててベッドから起き上がりドアを開ける。


「なにかありましたか?」

「いや、一緒にトレーニングでもどうかと思ってな。藤原を誘ったんだが断られてしまった」


笹井さんがしょんぼりとしている。いかにも軍人っぽい人間がしょんぼりする姿は少し面白い。

これが世間でいうギャップなのだろうか。


「すぐ着替えて着ます」

「先にトレーニング室に行ってるから着替えたら来てくれ」


そういって笹井さんはトレーニング室に向かった。私もすぐにジャージに着替えトレーニング室に向かう。

トレーニングルームに入り自分のシューズを履き先に来ていた笹井さんと一緒にストレッチをする。

ケトルベルやベンチプレスを使ったメニューをこなしていく。

メニューを終えてトレーニングルームの冷蔵庫から飲み物を取り出して飲む。寮内に自販機もあるがトレーニングルームの飲み物は無料だ。笹井さんは自前の飲み物を飲んでいる。おそらくプロテインだろう。私も飲んだ事があるがチョコレート味など甘ったるい味が多く、飲み続けられなかった。

笹井さんが私が見ていることに気づいた。


「近衛も一口飲むか?」

「甘いのはちょっと……」

「最近はあんまり甘くないのもあるぞ。これもグレープフルーツ味だ」


そういって笹井さんがプロテインを渡してくる。

おそるおそる一口飲む。程よい甘さでとても飲みやすい。


「おいしいです!」

「そうだろう。よかったらメーカー教えるぞ」


笹井さんからメーカーを聞き学生証が発行されたら買ってみようと思う。

しばらくメニューについて話したり、格闘術や魔法戦闘術でやることについて予想したりした。

笹井さんが基礎なら教えてくれるというのでぜひお願いしますと返事をする。

笹井さんと別れ部屋に戻りシャワーで汗を流す。今昼寝をしてしまうと夜に寝れなくなってしまうので眠気をこらえ課題をすることにした。眠いせいか課題を進めるペースは極端に落ちたが、終わる頃には丁度食堂が開く時間だった。

トレーニングをしたせいかお腹はペコペコ。紫苑に飴をあげてから私は食堂に向かう。

 食堂には見慣れない男性が食事をしていた。男性に会釈をして適当な席に着き食事を待っていると男性が自分の食事をもってこちらのテーブルに移動してくる。


「よう新入生! 俺は高木 重信。この寮の寮長だよろしく」

「近衛蓮です。よろしくお願いします」

「近衛はさっそくぼっち飯か?」

「今日はたまたまです」

「ここの寮生は良くも悪くも個人主義な奴が多いからな。でも頑張ってる奴には助力を惜しまない。なにか困った事があればいつでも相談してくれ」

「ありがとうございます」 


寮長と話していると笹井さんが食事を運んでくる。どうやら今日は焼き魚がメインのようだ。


「あれ? 近衛はもうお試し期間おわったの?」

「はい。近衛様は同じものばかり召し上がったり、軽食ばかりなので我々がメニューを決めさせていただいてます」


佐々木さんはそういってチラッと私を見る。反論の余地はないので沈黙を貫く。


「だはははは! 授業が始まったらそんなんじゃたおれちまうぞ。ほら俺のカツも一切れやるよ」


そういってカツを一切れ私のごはんの上に乗せる。とりあえずお礼をいって食べ始める。うんおいしい。

 先に食べ終えた寮長が仕事があるからまたなといて食堂を後にする。私も食べ終え部屋に戻るがやることがないので誰かいそうな談話室に紫苑と一緒に向かう。談話室には春華さん、藤原君、笹井さんの三人がトランプをして遊んでいた。


「お! 近衛いいところにきた。お前も混ざれよ!」


藤原君が私をトランプに誘う。なんだ嫌われているわけではないのかとほっとした。


「いいですよ。菊池さんも呼んできましょうか?」

「そうだね。蓮ちゃんお願いしてもいい?」

「じゃあ菊池さん呼んできます」


私は談話室を出て由乃さんの部屋に向かう。

ドアをノックする。足音が聞こえてくるのが分かったのでドアから少し離れて待つ。

ドアが開き部屋着姿の由乃さんが出てくる。


「どうしたの?」

「皆でトランプをするんでよかったら由乃さんもと思って」

「少し待っていてもらえるかしら?」                             

「もちろん」

少し待っていると由乃さんとサチリが出てくる。


「お待たせ。いきましょうか?」

私たちはのんびりと談話室に戻る。

談話室に戻ると千歳先輩も交じってトランプをしていた。 


「近衛たちは次から参加な」

「分かりました」


どうやら大富豪をしているようだ。勝負はすぐに決まった。千歳先輩が一番、二番は春華さんで笹井さんと藤原君は激戦の末笹井さんが勝ってビリは藤原君だった。


「また負けた!なんでみんなそんなに強いんだよ」

「藤原君は顔にでやすいからね。いや~楽勝だった」


千歳先輩が勝ち誇るようにほかの人を見みて 


「さぁ次のゲームを始めようじゃないか。ほら最下位は早くカードを配りたまえ」


芝居がかった口調で藤原君に指示をする、藤原君は悔しそうにカードをみんなに配っていく。

カードが配られゲームが始まる。私の手札は可もなく不可もなくといったところ。

藤原君は手札が悪いんだろう千歳先輩の言う通り顔に出やすい。春華さんと千歳先輩はにこにこしていて読めないし、由乃さんや笹井さんはポーカーフェイスで全く分からない。

ゲームは進んでいき由乃さんが一番で次に笹井さん、春華さん、千歳先輩が上がり私と藤原君の一騎打ちになった。残りの手札はともに2枚。


「ここは負けられない! これでどうだ!」


ダイヤのクイーンをたたきつけるように出す。

私は無言でダイヤのエースをだす。


「……出せねぇ」


私は残りの一枚を出して勝利した。なんとか最下位を免れた。藤原君は机に伏せてうなっている。


「勝負も決まったことだし今日はこれで解散かな?」


千歳先輩がそういうので時計を見ると22時を過ぎていた。

トランプを片付け終わると千歳先輩注目!と言って手をたたく。


「分かっている思うけど明日は礼装で9時に玄関ホールに集合。

そのあとに入学式の予行練習を講堂でやって、制服に着替えてから上級生と昼食。

あと明日からは常にヨウセイと一緒に行動してね」

「授業中も一緒にいるんですか?」

「むしろ必須になるかな。授業で聞くと思うけどヨウセイって魔法実行時のサポートや偵察行動をする役割があるの。だから今のうちにヨウセイたちにもいろんなものをみて学んでもらわないと」


じゃないと卵をあげた意味がないでしょ?とからかうように千歳先輩がいう。それもそうかと思い皆に挨拶をして部屋に戻る。

明後日は入学式だ。こんなに長く両親と離れていたのは初めてだ。

話したいことはいっぱいあるが入学式後の予定を考えると精々10分くらいしか話せないだろう。

ここでやっていけると証明するためにもまずは明日の予行練習をしっかりとこなさなければならない。

これからどんどん忙しくなってくるが少しワクワクしている自分がいる。

紫苑を自分のベッドに呼び一緒に寝る。


「紫苑これから大変だけど一緒に頑張ろう。最高のパートナーになれるように精一杯頑張るから」


紫苑と目を合わせて自分の気持ちを伝える。

紫苑は目をぱちぱちさせた後に私にすり寄って眠ってしまった。


私は紫苑を撫でながら眠りについた。


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