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十二話

ドアをノックする音。菊池さんが私を呼ぶ声がする。寝ぼけまなこでドアを開ける。


「おはよう。時間になっても来ないから心配で来てみたの」


菊池さんが寝癖ついてるわよと笑いながら髪を撫でてる。

姉がいたらこんな感じなのかもしれない。


「みんな庭で待ってるから準備ができたらいきましょうか。」


その言葉を聞いてハッとする。勢いよく振り返り時計を見ると10時を過ぎている。


「すみません! すぐ用意してきます!」


菊池さんの返事を待たずにドアをバン!と閉め大急ぎで支度をする。

紫苑を見ると準備万端だった。近くにあったジャージに着替え、寝癖を直しドアを開ける。


「すみません! おまたせしました!」

「大丈夫よ。それじゃ行きましょうか」


庭に向かう途中、ひたすら寝坊について謝罪していると


「それじゃあ罰を与えます! 蓮さんは今日から私の事を名前で呼ぶこと、いい?」

「…はい」


 庭には春華さんと藤原君がいてヨウセイたちと遊んでいた。


「蓮ちゃん寝坊だよ~」

「近衛、おせーよ」

「すみません」


私たちもこの前寝過ごしちゃったからお相子だね。とお許しをもらえた。

 早速遊ぼうということになり、紫苑の持ってきたボールを使ってヨウセイたちが遊んでいる。

藤原君と春華さんは仲よさそうにヨウセイたちを見ながら話している。

いい感じの二人の間に飛び込む勇気はない、同年代のはずなのになんだか遠い。

ぼっちへの道を一歩進んでしまった気がする。

二人を遠くから見ていると


「蓮さん朝ごはん食べてないでしょ。良かったらどうぞ」


そういって菊池さんがおにぎりを一つくれた。


「ありがとうございます」

「キッチンの人にちゃんとご飯食べてるか見張ってくれって頼まれのよ。蓮さんは要注意人物らしいわ」


見張っておきますと言っておいたわと上品に笑った。

おにぎりの中身は梅干だった。絶妙な塩加減と握り加減でとてもおいしい。

 おにぎりを食べ終えこれから何をしようか考える。ヨウセイたちに混じって遊ぼうと思ったが春華さんたちがワイワイと楽しそうに遊んでいるので少し混ざりにくい。


「皆と遊んできてもいいのよ?」

「二人の邪魔をするのもどうかとおもって」


突然菊池さんがサチリの名前を呼ぶ。

サチリは嬉しそうに駆け寄ってくる。紫苑もサチリを追いかけるように走ってくる。


「これで寂しくないわね」


どうやら私に気を使い呼び寄せてくれたようだ。紫苑とサチリに飴玉をあげる。二匹とも嬉しそうに食べてくれた。春華さんたちは休憩しているようだ。

 そろそろ戻りましょうか、と言われ春華さんたちに先に戻りますと伝え寮に戻る。途中、今日は寝坊したから課題がやばいことを思いだす。


「菊池さん、課題やろうと思うんで部屋に戻ります。今日はありがとうございました」


しかし菊池さんは返事はない。こちらを振り返りもしない。


「菊池さん?」


するとこちらを向いてくれたが不満そうにしている。気まずくなり下に視線を逸らす。丁度紫苑と目が合ったがプイッそらされてしまった。なぜ紫苑まで?と考えていると


「私の名前は由乃です」


私は朝のことを思い出す。私が思い出したことに気付いたのかやり直し!と言われてしまった。


「由乃さん、課題をやるために部屋に戻ります。今日はありがとうございました」

「午後からみんなでやる予定でしょ?」


不思議そうに由乃さんが聞いてくる。

さすがに藤原君がすこし苦手だからとは言えないのでどうごまかそうか考えていると。


「藤原君がいるから?」


考えていた言い訳が頭からすっ飛んでいった。


「なにかされたの?」

「なにもされてませんよ」

「何もないなら避けたりしないでしょう?」

「少し威嚇されただけですよ。私はビビりなので近寄りにくいだけです。」


私は隠すことをあきらめていう。ただ気まずいだけだから大丈夫だといって、逃げるように部屋に戻る。

思わずため息が漏れる。気持ちを切り替えて課題をやろうとするがいまいち集中できない。

自分の心の弱さが嫌になる。

 温室で課題をやろう。あそこは落ち着くし誰もこないだろう。

そう思い鞄に課題を入れて準備をする。お昼の時間は過ぎていたので鞄に栄養バーも詰めておく。


「紫苑も一緒に温室にいく?」


紫苑は短く鳴きドアの前に座った。どうやら一緒に来てくれるようだ。

紫苑と一緒に部屋をでて鍵を閉めていると


「蓮さん?どこかへ行くの?」


サンドイッチを持った由乃さんに声を掛けられる。


「課題をしようかと思って」

「ご一緒してもいいかしら?」

「…いいですよ」


一瞬温室のことを教えようか迷ったが由乃さんならいいだろうと思い了承した。

由乃さんはちょっと待っててといって部屋に戻っていた。そういえば春華さんたちとの勉強会はいいのだろうか?由乃さんが鞄をもって部屋から出てくる。サチリも一緒のようだ。


「お待たせしました」

「春華さんたちとの勉強会は良かったんですか?」

「ええ、あっちは千歳先輩がみてくれるっていったの。それよりどこで課題をやるの? 図書館?」

「秘密の場所ですかね。内緒ですよ」


そういって私は温室に案内をする。庭に出て小道進んでいき温室に入る。やっぱりここは落ち着く。


「こんなところがあるなんて知らなかったわ」

「今まで学生が来たことはなかったって言ってました」

「私に教えてよかったの?」

「由乃さんだから教えたんですよ。他の人には内緒です」

「りょうかいです」


由乃さんがはにかむように笑った。

椅子に座り課題をテーブルに広げていると


「お昼まだでしょ?」


そういってサンドイッチをくれる。


「すみません、夕食はちゃんと行きます」


少しあきれた様子で由乃さんが首を振った。

サンドイッチを急いで食べ課題を始める。徐々に課題の量が増えてだんだんきつくなってきた。

由乃さんだって課題があるのだから頼ってばかりではいられない。

頭がいいわけではないので時間をかけるしかない、単位が取れた分課題も減っていくので今は耐えるしかない。早く解放されるためには今出されている課題を全力でやろう。

春華さんたちもこの量をこなしているのだから私も負けてられない。

黙々と課題を進めていく。由乃さんは今日の分を終えたようで、タブレットで何かを読んでいる。


「先に戻ってもいいですよ?」

「蓮さんがちゃんと夕食を食べるまで見張っていないと。それにもう少しで課題終わるでしょ?」


見張ってなかった罰で私のおかず減っちゃうかもと悲しそうな顔をする。そういわれると何も言い返せないのでせめて待たせないようにと急いで課題を終わらせる。

 幸いにも課題はすぐに終わった。課題も終えたので寮に戻る。

夕食まで時間もあるのでトレーニングをしようとしたら由乃さんに休むのもトレーニングですと止められてしまった。

仕方ないので二人で談話室に向かう。

 談話室に春華さんと藤原君がいた。


「菊池さんいいところに! ここ教えてください!」

「私もお願いします!」


由乃さんが教えに行こうか迷っているようだ。


「ここで待ってるんで行ってあげてください」


由乃さんはすぐも戻ってくるわといって春華さんたちのもとへ向かった。

やることもないので[これで今日からマジシャン!]を手に取りマジックの練習を始める。魔法の使える現代ではほとんど使われなくなった手法だろうが、錯覚や意識誘導などを利用するのは面白いと思う。この本が発行されたのは今から30年ほど前、通りで魔法を使った手法がないわけだ。

練習をしていると教え終わったのか由乃さんが夕食にしましょうといって勉強会を解散させるようだ。


「それじゃあ夕食にいきましょうか」

「春華さんたちはいいんですか?」

「二人の邪魔をしても悪いし」


由乃さんが二人を見る。つられるように私も二人のほうを見ると仲良く雑談しているようだ。心なしか距離が近い。

由乃さんがこちらに視線を戻し苦笑いをしていた。

 食堂に向かうと笹井さんが食堂から出てくる。

明日の朝練について聞かれたのでいつも通りで大丈夫ですと伝え、由乃さんと一緒に食堂に入る。

いつものようにメニューを決めようとしていると


「近衛様は本日からこちらでメニューを決めさせていただきます。これからは私、佐々木にお申し付けください」


私はおびえるようにはいと答えた。笑顔のはずなのに怖い。いっそ怒られるほうが何倍もましだと思った。

とぼとぼと由乃さんがいるテーブルに向かう。

食事はすぐに運ばれてきた。由乃さんは煮魚のようだ。私の前に置かれたのは大盛りのカツカレーだった。


「すごい量」


由乃さんがつぶやくように言った。

佐々木さんは一礼をしてキッチンのほうに戻っていく。私は目の前に置かれたカレーをがむしゃらに食べる。ぎりぎり食べれる量に調節されているようで、何とか食べきることができた。


「御馳走様でした」

「よくあの量が入るわね」

「正直、苦しいです」


しばらくカレーは食べたくない。間違いなくこの寮で一番怖いのは食堂のスタッフだ。

これからは怒らせないようにしよう。

 食堂を由乃さんと一緒に出て一緒に談話室に行かないかと誘われたがお腹が苦しいので大人しく部屋に戻る。

 部屋に戻り紫苑に飴玉をあげる、飴玉も残り少ないので明日は校内にあるコンビニに行こう。

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