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一話

 目の前にはスーツを着た大人が二人。

一人は女性でもう一人は体格の良い眼鏡の男性だ。女性が慣れた手つきで名刺を差し出してくる。

高校生の私は名刺など受け取ったことはなく、おそるおそる名刺を受け取る。

名刺には防衛省の文字と女性の名前が書かれていて、私にはとてもじゃないが縁があるとは思えない。混乱する頭で何から聞けばよいのかと考える。

女性がニコニコと


「おめでとうございます。あなたは今回の適性検査で適性アリと判断され国立魔導教導学校に入学することが決定しました」


さらに混乱させることを言ってくる。

 目の前に大量のパンフレットと書類が置かれ私の頭は考えることを放棄したのか現状が全く理解できない。

女性が書類の説明をしてくれているのは分かるが、それどころではない。

担任が今にも踊りだしそうなくらい喜んでいるが不思議なことに担任の髪の毛が徐々に左に移動している事だったり校長がニコニコとほほ笑んでていた。

何よりも一番気になったのは両親は知っているのかということ。


「両親はこの事を知っているんですか?」

「後日、ご両親も同席していただいて再度入学までの手続きや疑問について説明させていただきます」


そういってから説明を再開する。とりあえず分かった事は両親と説明を受け教導学校に入学すること、大量のパンフレットと書類は持ち帰らなければならないこと、そして担任が実はかつらだったことだった。


 放心状態の私に説明を終わらせて役人は帰っていった。

もう教室に戻っていいぞと担任に言われ、いつの間にかに紙袋に入れられたパンフレットと書類を受け取り、授業中の寒い校内を早めの速度で歩く。


「なんて言い訳しようかな」


 今日はこのまま早退して両親と話をしよう。私のクラスは今体育のはずだから鞄をとって帰ろう。

電車の時間も走ればちょうどいい、分からないことばかりだから家で両親が帰ってくるまで調べておこう。

足音が響いてしまうが駆け足で自分の教室で戻り荷物を取る。

部活の先輩に早退するので部活に出れませんとメールを送り、電車に間に合うよう通学路を走る。


 家に帰り自分の部屋に飛び込むとやっと落ち着くことができた。

パンフレットやネットの情報を見る限り、私はいわゆるエリート校に強制入学らしい。

学校の方針は魔力制御を学び事故を未然に防ぐことと数年前に設立された世界魔導士協会の認定者を輩出することと書かれている。

魔力制御についてはさっぱりわからないが現代社会の教科書に魔力暴走による死亡事件が書かれていたのを思い出した。

 たしか普段問題なくつかっていたデバイスが突然爆発して使用者が死亡した。

政府が原因を調べたところデバイスに想定以上の魔力が流れ、デバイスが耐えられず爆発。この事件の後から適性検査が世界中で行われるようになり、デバイスにもリミッターを掛けることが義務付けられた。

 私たちが普段使う魔法は知識がなくても触れれば発動するものばかりだ。

デバイスも所有者が触れてさえいれば通話もできるし、ネットにもつながる。

車だってキーに登録されている人間が乗ればすぐに操縦できる。昔のデバイスは学者かたくさん訓練した人くらいしか使えなかったと幼い頃に祖母から聞いたことはあるが今は魔法も自動化が進んでいる。

 魔導士については災害時など有事の際に活躍するくらいしか知らない。

そもそもメディアに出ることもないし、近年は大災害も起こっていないので魔導士がどんな仕事を普段しているのか知らない。

 教導学校には強制入学だが卒業後の進路は自由、一応軍学校なので給与が払われる。3年間で単位が足りていれば卒業テストを受け卒業。

卒業できなくても基礎教養の単位をすべて取得していれば国立大学への編入が可能。全寮制で個室、まさに至れり尽くせり。

私には関係ないと思ってた場所に行くことになるらしい。

 制服はかっちりとしていてかっこいいが、面倒くさそう。軍学校なので上下関係が厳しいのかと思えば卒業生と在校生が肩を組んでいる画像があったり、庭?で寝ている生徒やサッカーをしている画像など比較的緩い学校ということが分かった。25歳以上は強制ではなく任意らしい。


 リビングのソファでくつろいでいると両親が一緒に帰ってきた。父の残業はなかったのだろう、母もうれしそうだ。


「おかえり。今日はなんだかご機嫌だね、なにかあったの?」

「ただいま。今日は素晴らしいわ! お父さんの残業はないし、お気に入りのケーキも買えたわ。家に帰ったら蓮が出迎えてくれるのよ。なんて素晴らしいのかしら!」

「じゃあ、私が国立魔導教導学校への入学が決まったって言ったら?」

「…ジョークよね?」


「私にジョークのセンスがないのはお母さんがよく知ってると思うんだけど」と言いながら入学案内のパンフレットを渡す。


「お母さん?」


混乱しているのか反応がない。やっぱり親子なんだなぁと少しうれしく思う。

そんなことを考えていると、再起動した母がお父さーん!と大声をあげながら父のもとへ走っていく。ドアを開ける音、母のうれしそうな声と父の珍しく大きな声。両親が喜んでくれているのは分かる。

今日はお祝いだと言って父は走ってどこかに行ってしまった。母が戻ってきて


「今お父さんがごちそう買いに行ったから夕食は少し待ってね。」とニコニコと笑いながら言う。

「説明会の日は入学案内に書いてあるから」


喜んでくれるのはうれしいが、恥ずかしいので自分の部屋に逃げる。


しばらくして、父が寿司とちょっと高さそうな肉それからホールケーキを買ってきた。

母はケーキは一緒に買ったじゃないと笑っている。食事が並べられ、久しぶりにみんなで食事をとる。

高校に入学してからは陸上部の練習が遅くまであるし、父も残業が多く家族そろっての食事はひさしぶりだ。

母と父は有給をとって説明会に一緒に来てくれるらしい。どちらかが来てくれればいいと言っても、たまっている有休を使うチャンスだから、説明会の後はお父さんとデートをするのよと本当かどうかわからない事を言ってくる。

ケーキをお腹いっぱい食べ、半分以上残ったケーキは俺が責任をもって食べると父が冷蔵庫にしまった。

リビングでのんびり過ごしていると後ろでお酒を飲んでいる両親が


「蓮はお父さん似できれいな黒髪だし、背も高いからきっと教導学校の制服が似合うわ」

「そうだな、蓮はお前によく似てきれいな目だし、顔も整っている。あの制服は似合うだろう」

「違うわ、お父さんに似たのよ」

「そうか?」

「そうよ」


私の顔は今真っ赤だろう、私をダシにイチャイチャするのは勘弁してほしい。

このままリビングにいたら追撃が来そうなのでこっそり部屋に戻る。

こんな生活もあと少し、3年間長期休暇以外は寮で過ごすことになると思うと少し寂しい。学校の友人たちにも別れを告げなければいけない。

初めての寮暮らし、エリート校でやっていけるのかと不安も多いがあんなに喜んでくれた両親のため頑張らなければ。

明日も学校だしもう寝よう。

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