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girl friend  作者: 柚木 ココ
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会いたいの解決法1

私の部屋には、みやとの思い出が詰まったものがたくさんある。

幼稚園に入園した時の写真、小学生の時一緒につくった工作、誕生日にもらったテディベア…

小さい時から一緒だから、当然なのだろうけど、どれも大切な宝物だ。


そこに、ひとつ新しく加わったものがある。

みやとお揃いで買ったピンキーリング。

恋人としての、みやとの初めての思い出の品。

見るだけで胸の奥がきゅんとなってしまう、今までのものとは、また少し違った宝物。


本当はいつだって身につけていたいけど、校則ではアクセサリーは禁止。

そこで私は、指につける代わりに、チェーンを通して、ストラップをつくってみた。


「…これでよしっ」


できたストラップを通学カバンに付けると、ゆらゆらと揺れるたびにキラキラとして綺麗。

なかなかの仕上がりに、私は満足していた。

いろんな角度から眺めて…眺めても眺めても、飽きない。

だっていろんな気持ちを思い出すもの。



「おーい、お姉ちゃーん?そろそろ行かないと、電車行っちゃうんじゃないのー?」


階段下から渚の声がして。


「え」


時計をみて私はぎょっとした。

ご、五分前…!

そう、実は今は、1日の中で一番忙しいという、朝の時間だったりする。


「い、いってきます!!」


慌ててカバンを持つと、私は階段を駆け下り、家を飛び出した。


「いってらー」


食卓からのんびりと渚が声をかける。

中学校は家から近いから、渚の登校時間はかなりゆっくりだ。

自分も中学生の時はそうだったけど、すごく羨ましい…


電車には、走ればギリギリ間に合う時間。

渚のやつ、もっと早く声をかけてくれればよかったのに…

そんな恨み言は喉に押し込んで、私は駅までの道のりを、とにかく全力で走ることにした。



***



「超ギリギリだったねー」


なんとか電車に乗り込み、肩を上下させている私に、みやは笑ってそう言った。


「…も、朝の、ぜ、全力、疾走は、きつい…」


私は息も絶え絶えで、言葉を紡ぐのもやっとの状態である。

体力には自信がないものの、必死の全力疾走が功をそうして、私はなんとかみやと一緒の電車に乗り込むことができた。

本当は一本後の電車だって間に合うけど、みやと一緒に通学したいから。

体力に自信のない私がここまで頑張れたのは奇跡だと思う。


「はは…落ち着いてから喋ればいいよー」


みやは私の頭をぽんぽんと叩く。


電車内はクーラーが効いていて涼しい。

みやの手の感触にあいまって、ひんやりとした空気が熱くなった身体を冷ましていくのが心地よく、私は目を細めた。

天井の風鈴がちりんと揺れるのも涼感を誘っていい感じだ。


「…でも、しのがギリギリなのは珍しいね。何かあったの?」


みやが聞くので、私はカバンをぐいっと突き出した。


「…ふふふー、見て見て」


「あ」


揺れるストラップを見て、みやが目を丸くした。

私はちょっと自慢気に胸を張る。


「朝、これ作ってたの。持ち歩きたくて」


「…なんだ、実は私も」


みやもごそごそとスカートのポケットを探って、ストラップにしたピンキーリングを取り出した。

グリーンの石に、鳥のモチーフの、みやのピンキーリングがキラキラと揺れる。

今度は私が目を丸くする版だった。


「…考えること、おんなじだ」


「本当だね」


そう言って、お互いちょっと照れて笑った。

2人で持ったら、思い出も2倍。

嬉しくて、私はきゅっとリングを握りしめた。



みやと一緒だと、登校時間だって短くかんじる。

もっと遠くてもいいのに…なんて思う。朝は近い中学生が羨ましいとか思ったくせにね。

昨日のテレビの話とか、家族の話とか、他愛もない話をしているうちに、学校についてしまう。

いつものように教室の前の廊下で私たちは別れる。


「じゃ、またねー」


みやはそう言って、隣の教室へと吸い込まれて行った。

おはよーって、クラスメイトと声を交わしながら。


みやのクラスメイトが羨ましいって思う。

だって、授業中だって、休み時間だって、ずっと一緒に過ごせるわけでしょ?

1日は24時間。

学校にいる時間は8時半から16時半の8時間。

1日の3分の1程の時間を、一緒に過ごせることになる。

私はといえば、学校にいる間はみやとほとんど会わないから、一緒にいられるのは朝夕の登下校と、放課後だけ。

前はそこまで気にしたことなかったけど、やっぱり、やっぱり、これってなんだか…物足りない。


授業の合間の休み時間、私は自分の机に突っ伏しながら、カバンについたピンキーリングをいじる。

まずいなあ。

朝会ったばっかりなのに…もう、会いたい。



「しのー、なんかお悩みのようだねえ」


声をかけられて顔を上げると、前の席のノニちゃんが、頬杖をついて私を見ていた。

ノニちゃんは席が近いことから仲良くなった友だちである。


「…ノニちゃん、おはよ」


私が挨拶すると、今更か、とデコピンされた。

確かにもうすぐお昼だけど…痛い。


「何悩んでんの?柄にもなく難しそうな顔して…」


「私には難しいことがいろいろあるのよ」


「嘘つけ」


ノニちゃんはバッサリ突っ込む。

地毛なのに茶色っぽいホワホワの髪の毛をしているノニちゃんは、見た目はかなり女の子らしいのに、中身はすごくサバサバしているのだ。


「んで、何かあったの?」


心配している風に聞くけれど、表情と声音からは好奇心がにじみ出ている。

面白がっているのがわかるから、私はうっと口をつぐんだ。

今考えたことをそのまま話すわけにもいかず、何か言い訳を…と、目を泳がせる。


「…ああ、ノニちゃん、そういえば火星に生命体がいるかもしれないって…」


我ながら苦しい話題をふると、ノニちゃんはすっと私の額に手を当てた。


「しの、熱か?熱があるの?暑さでバカになったの?」


「…なっなってません!」


「ああ…そっか、バカはもともとだよね」


「ううー、ひどい」


確かに私はバカかもしれませんが。

私がふてくされると、ノニちゃんはははっと笑った。


「なんてね。冗談冗談」


「嘘でしょ?」


「半分嘘」


「ええ?!」


なんて軽口を叩きながら、ノニちゃんはすっと人差し指を立てた。


「しの、私は閃いたよ」


「な、なにを…?」


「お嬢さん、恋のお悩みですね?」


「なっ!」


私は顔が熱くなるのを感じた。


「こっ鯉?」


「いや、恋だから、恋。…とぼけるとは、怪しいなあ。まあ、しのも、年頃の女の子だものね」


ノニちゃんはにやにやと笑う。


「…私の推理だと、これが怪しいなあ」


そう言って、私のストラップのピンキーリングをとった。


「ああ、だめ!」


「だめってなにが?」


「返してー」


ノニちゃんは頭の上にリングを持ち上げる。

彼女の方が背が高いから、私には届かない。


ああ、ノニちゃん楽しんでる。


焦れば焦る程彼女を楽しませてしまうことはわかるんだけど、私にはどうしようもなかった。

考えられる選択肢はたぶん3つ。

1.正直に話す

2.がんばってごまかす

3.チャイムがなるのを待つ

…ああ、私は迷わず3を選ぼう。


と、そのとき、


「篠原ー、なんか呼ばれてる」


教室の入り口隣の席の男子に呼ばれた。


「え?」


入り口の方を見ると、見慣れた大好きな人の姿。

私と目が合うと、よっと片手をあげた。

予想もしなかったことに、私は目を見開く。


「み、みやっ!」


「あ」


私は自分でもどうやったのかわからないくらいの身のこなしでノニちゃんからぱっとリングを取り返すと、みやの方へと小走りでかけた。



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