初デートのしかた4
「この洋服かわいい」
「ほんとだ。しのに似合いそうだね」
「こっちはみやに似合いそう!」
「えー、ちょっと可愛すぎない?」
「すぎない!試着してみて」
「えー」
軽くお昼を食べた後、私とみやはウィンドウショッピングを楽しんでいた。
ピンクのブラウスを広げながら、私はちらりとみやを盗み見る。
今日、ケンタローと会ってから、私たちは手をつないでいない。
別に、肩を並べて歩いているだけだって、楽しいし、いいんだけど。
空いた手がなんだか気になってしまい、私の目は気がつけばみやの手にいってしまう。
みやの手は女の子にしては大きくて、少し骨ばっていて、触れると乾いていて、でも温かい。大好きな手なのだ。
「あ、しの、そろそろ映画始まる時間!」
「え、本当だ」
私たちはショッピングモール内の映画館にむかった。
キャラメルポップコーンのLサイズをひとつと烏龍茶のMサイズをふたつ買って、私たちは並んで座る。
みやと映画にはよく来るのだけど、こうやって並んで、ポップコーンをシェアするのがお決まりになっていた。
映画館は薄暗くて、並んで座ると、となりのみやが、ちょっと近く感じる。
映画が始まる前のワクワク感が私は大好きなのだけど、今日はそれだけじゃない、特別な気がする。
「あ、そうだ」
ふと、みやが呟いた。
「いいこと思いついちゃった」
「え、なに?」
「ほら、いいこと」
みやはそう言って、おもむろに私の手をとった。
温かい。
薄暗くてよく見えないけど、みやがちょっと笑うのがわかった。
「…暗いから、ここなら、人の目をきにしなくても大丈夫」
「あ」
きゅっと力を込められた手に、とくんと鼓動が高鳴る。
温かい。
手が吸い付くようにくっついて、ずっとみやを求めてたんだなってわかる。
みやの手を感じて、すごく、うれしい、うれしいんだって、体が躍ってる。
「…ほら、映画、はじまる」
つい、ぼーっとしてしまっていた私に、みやはそう言って促した。
私も慌ててスクリーンに目を向ける。
始まった映画は、お気に入りの小説が映画化したもので。
かっこいいヒーローが大活躍する話なのだけど、手の温もりの方が気になって、あまり集中できなかった。
ただ、恋人みたいに指を絡めあっていることが幸せで。
映画が一分でも長く続けばいいのに、なんて、思ってしまう。
「あ、これ、可愛い」
映画館を出たあと、通りがかった雑貨屋さんで、私の目にとまったのは様々なアクセサリーだった。
「これ、渚にお土産で買ってあげようかな」
手にとったのはキラキラしたヘアピン。
控えめな銀色のウサギのモチーフに、青色の透明な石が埋め込んである。
「あー、なぎちゃん?いいんじゃない?青が好きだもんね」
みやもそれを見て同意する。
そう、うちでは昔から、青は渚の色だった。
そして、私は…
「しのには…これかな」
みやがそう言ってとったのは、小さなりんごに、ピンクの石が埋め込まれたピンキーリング。
「わ、可愛い!」
「ピンクは、しのの色だもんね」
そう、みやはよく覚えてる。
「…じゃあ、みやはこれ」
私はグリーンの石が埋め込まれたピンキーリングをとった。
モチーフは翼を広げた鳥。
とってもきれい。
「わー」
みやも嬉しそうにそれをとる。
そして、思いついたように言った。
「そうだ、これお揃いで買っちゃおうか」
「わ、いい!」
「それは、どっちの、いい?」
「…もちろん、肯定の、いい、です」
私がそう言うと、みやはにっと笑って、そのリングを私の小指に通した。
「今日の、記念だね」
「…うれしすぎる」
私はリングをいろんな角度に傾けて眺めた。
キラキラしてて、とっても綺麗。
もちろん、高校生にも買えるような、偽物の石の、安物のリングだけど、私にとってはどんなに高い宝石よりも、ずっとずっと大事で嬉しい宝物になる気がした。
夕焼け空の、帰り道、みやはリングを眺めながら言った。
「…今日、しの、手つなげなくてさみしそうだったからさ」
「え」
「顔に出てたよ」
「まじですか」
私は両頬をひっぱる。
よく、わかりやすいと言われる顔だけど、ちょっと恥ずかしい。
「…でも、私も実はちょっとだけ、ざんねんだったから」
「.…まじですか」
みやがそんなことを言うので、私は照れ隠しに同じ言葉を繰り返した。
だって照れる。
けど、みやはお構い無しで、笑顔で。
「この指輪つけてたら、人前で手をつなげなくても、なんかつながってる気がするよね。ふたりの秘密って気がして、うれしいなあ」
なんて言う。
私もなんとか頷いたら、みやも嬉しそうに微笑んだ。
夕日に照らされた顔がとっても綺麗で、私はつい見惚れてしまう。
みやは、今日は楽しかったなーって言いながら、満足気に伸びをした。
「…でも映画はまたいこうね!あそこなら、何してても周りから見えないし」
「な、何しててもって…」
「?」
私はつい赤面してしまうけど、みやはそんな私の様子にクエスチョンマークを浮かべている。
ああ、もう、この子は天然ってやつだろうか。
私ばっかり恥ずかしくて、なんかずるい。
「もー、みやのばか」
私が頬っぺたをひっぱると、
「いひゃい、いひゃいって」
とか言いながら、みやはまだクエスチョンマークを浮かべていた。
あーあ、好きだな。
なんて思って、私は笑った。
初デートはどきどきしっぱなしで、恥ずかしいことばっかりで、でもとっても楽しくって幸せで。
私はリングを夕日に反射させた。
今日の日のこと、絶対忘れないようにと、キラキラ光るリングと、みやの笑顔を目に焼き付けて。