初デートのしかた2
待ち合わせは10時半。
いつもの駅の改札前で。
私はそわそわと、みやが来るのを待っていた。
いつもは待ち合わせ時間ギリギリに到着、なんてことばっかりだけど、今日は違う。
だって、日曜日だというのに、いつもより1時間も早く目が覚めちゃったもの。
早起きした分、念入りに髪の毛をブローした。
中途半端な長さで、肩先で跳ねるのが悩みの髪の毛だけど、おかげで今日はスッと内巻きだ。
渚が選んだ洋服は、白いノースリーブのワンピース。レース編みで、裾がふわっと広がった可愛らしいデザイン。それにピンクのカーディガンを羽織った。
実はこれ、渚が買ったばかりというのを貸してもらったもの。
同じ体型の妹をもったことに感謝。
可愛くない妹は、この貸しは倍返しだ、とか言ってたけどね。
ショーウインドウに映った自分の姿が、ちょっといつもと違くてこそばゆい。
みやは、なんて言うかなあ。
どきどきする待ち時間。
こんなに楽しい待ち時間は初めてかもしれない。
「あ」
遠くだけど、駅に向かって歩いてくる人の中にひとり、みやを見つけた。
こんなに遠くだって見つけられる、自分がちょっと嬉しい。
軽く手を振ると、みやも私に気がついて、小走りにかけてきた。
「しの、おはよー!ちょっと私遅れたかな?ごめんね」
そう言うみやに、私は「ううん、今来たとこだから大丈夫だよ」って言った。
うう、これ、言ってみたかったんだよね。
このために今日、待ち合わせの20分前から待っていたようなものだ。
私はそっと両手を握りしめて、なんだかじわじわとくるものをかみしめた。
「今日、しの、可愛いねー」
みやがさらっと言う。
私はどきりとした。
「そ、そうかな…?」
「うん、そのワンピース、良く似合ってる」
それはもうとろけるような笑顔で。
渚グッジョブ!
私は心の中で親指をたてて、帰りにお土産を買って行ってやろうと、こっそり思う。
「み、みやも、可愛い…ってか、かっこいい、かな」
「そ、そう…?なんか、褒め合うのも、恥ずかしいね」
私が言うと、みやも照れたように、前髪を触った。
私がそう言ったのはもちろん、お世辞なんかじゃなくて。
冗談抜きで今日のみやは、いつも以上に可愛くてかっこよかった。
すらっとした七部丈の白のパンツに、爽やかなブルーのシャツ。
ショートカットの髪型に、さりげなくかぶったキャップが似合っていてとっても良い。
「しの、髪の毛のびたねー。最近は縛ってたから、気づかなかった」
そんなことを言いながら、みやは何気なく私の髪の先を触ってくる。
距離が近くて、どきどきする。
髪の毛、おろしてきてよかった、な…
「…やっと、ここまで伸びたよー」
「中学生の頃は、長かったもんね」
「うん、高校生になって、バッサリ切ったのは失敗。我ながら似合わなかったもん」
そんなことを言って笑う。
そう、高校入学の時、みやのショートカットが羨ましくて、ばっさり切ってみたのだ。
結果、私は再度のばす決意をした。
「似合わなくはなかったと思うけど、しのの長い髪、私好きだから、のびるの楽しみだな」
みやはそんなことを言って、微笑む。
私の髪先をいじりながら。
私はそんなことにどきどきして。
もっとはやく、髪の毛が伸びればいいなって思った。
「じゃ、そろそろ電車くるし、いこっか」
自然にみやが私の手を取って、私たちは改札を通った。
今日はちょっと電車で遠出をして、最近できたクレープ屋さんに行って、お買い物をして、映画を見るのだ。
私は、まだ始まって間もない今日の日が、とっても良い日になる気がして、もうそうと決まっているような気がしていて、胸をときめかせた。
夏の青空、賑やかな蝉の声に背中を押されるようにして、私たちは電車に乗り込んだ。