初デートのしかた1
「日曜日、2人であそびにいこっか」
なんて、みやが言ったから。
私は土曜の夜、ひとりファッションショーを繰り広げていた。
「…これじゃ気合入りすぎかな?でも、こっちじゃラフすぎ?」
姿鏡の前で、タンスから引っ張り出した服を着てみては変え、着てみては変え…
リボンがたくさんついたワンピースも、お気に入りのTシャツも、最近買ったショートパンツも…いろいろあるのだけど、どれもしっくりこない。
「ああああ、決まらない…」
私は洋服の山に顔をうずめた。
みやと遊びにいくことは初めてじゃないけど…付き合うことになって、初めての遊びに行く約束。
とゆうことは、これって、やっぱり、初デートじゃん?
だからこそ、ちょっとでも可愛く見せたいから。
洋服も、メイクも、妥協できないって。
みやは、どんな服が好きかな?
みやは、どんな服をきてくるんだろ?
いつもは、私服で遊ぶときは、みやはボーイッシュな格好が多い。
スラっとしてスタイルがいいから、それはとっても似合うんだけど。
とってもかっこ良くていいんだけど。
でもでも、私としてはみやはワンピースとか、可愛らしい服だって似合うと思う。
普段は恥ずかしがって着たがらないけど…
ああでも、恥ずかしがりながら着てるっていうのも…もう可愛いな!もう!
って、妄想していて、自分で自分が、恥ずかしくなった。
…結局、私は何を着ていくか決まらないし。
「ああああ、どうしよー」
洋服の山の上でばたばたしていたら、
「…お姉ちゃん、なにしてんの?」
私の部屋のドアをちょっと開けて、妹が引き気味に私を見ていた。
「ちょっ…渚!ノックぐらいしてよ!」
慌てて飛び起きると、渚は呆れた顔をして部屋に入ってくる。
「ノックしたよ。返事がないし、なんか変な声がしたから開けてみた」
「うう…なんか用?」
「電子辞書借りようと思って」
「あんた、いいかげん自分の電子辞書買いなさいよ」
「中学生は紙辞書じゃないとだめっていうのが、うちの学校の教育方針なの。高校生になったら買ってもらうって、母上と約束してる」
「ああそうですか」
しぶしぶ引き出しから電子辞書を取り出して投げつけると、渚はサンキューと言ってキャッチした。
「てか渚!その髪ゴム、私のじゃん!」
「えー、洗面所にあったから、ちょうど良くて借りた」
渚の前髪を縛っている黄色の髪ゴムは私のものだった。
別に使ってないみたいだからいいじゃん、と渚は悪びれる風もなく言う。
中学二年生になった妹は、最近生意気さを増してきている。
姉は大変だよ…と私はため息をついた。
「時にお姉ちゃん、この部屋の惨状は何?」
洋服の山の中で埋もれる姉がひとり。
そりゃ、惨状というに相応しい状態かもしれないけど…
渚は部屋を見回して、考えるような仕草をした。
「…さては、明日、デートだな?」
「は?!」
とんでもないことを言い出した妹に、私は仰天する。
とんでもないっていっても…事実は事実なんだけども…
じわじわと顔が熱くなるのを感じる。
渚はきょとんとした顔をした。
「え、なに、図星?」
「…そんなわけないでしょ?!」
私がクッションを投げつけると、渚はさっとキャッチした。
姉に似ず、反射神経の良い妹だ。
「そこを全否定は華の女子高生としてどうかと思うけど」
「うるさいっ」
私がむくれると、渚はまあまあと言いながら勝手にベットに座った。
こいつ、居座る気満々だな。
「でも何、明日どっかいくの?」
「…うん」
「え、まじでデート?」
「…ちっちがうもん!」
目を丸くした渚に私は慌てて否定した。
一応、みやとの関係は誰にも内緒なのだ。
渚は鋭いから、少しこわい。
「ふーん…」
渚が意味あり気な顔でニヤニヤするので、私はしぶしぶ、みやと遊びにいくのだと白状した。
お母さんには、もうそう言ってあるし。
渚はつまらな気に言う。
「なんだ、ゆうちゃんとでかけるのか。いつも通りじゃん」
「渚、先輩なんだから、ゆうちゃん、とか呼ばないの!」
私だって、小学校のときまでは、みやのこと、ゆうちゃんって呼んでたのに…
本当は今だってそう呼びたいけど、最近はみやが定着しちゃったから。
渚にそんな呼び方をされるのは良い気がしない。
私がたしなめると、渚は昔からだからいいじゃんとふくれっ面をした。
渚は昔からみやに懐いてるから。
「でもゆうちゃんとでかけるのに、いつもそんなに洋服迷ってたかなー、怪しいなー」
じと目で私を見てくる。
こわいなあ、私の妹。
誰に似たのやら…
渚は少し黙ると、今度は、よし!と言って唐突に立ち上がった。
「私がお姉ちゃんのために、一肌脱いであげようではないか!」
「え?」
「私が選んであげるよ、デート服」
そう言って、にやっと笑った。