秋桜の追想7
日曜日。
ちょっと早いかな、なんて思いながら、私は校門をくぐった。
日曜日の朝の学校って、特別な感じがして、少しドキドキする。
校庭は朝から部活動や体育祭の練習に励む生徒たちで賑やかなのに対して、いつも騒がしい校舎の方はしんと静かだ。
一方、旧校舎は、いつもと変わらない様子で佇んでいた。
階段をのぼって、いつもの教室へ。
山川さんは時間を指定しなかったから、私は学校に行く日と同じ時間に家を出た。
山川さんが来るのは、朝イチかもしれないし、お昼かもしれないし、放課後の時間かもしれない。
それでも、いいと思った。
私はこの、旧校舎の教室で待つ時間が嫌いじゃないから。
そう思っていたのに。
教室には、既にいつもの場所に陣取った彼女がいた。
「…早いですね」
思わずそう声を掛けると、顔をあげた山川さんは、おはよう、と言って微笑んだ。
「ここで待つ時間が好きだから、なるべく早く来ていたいと思ったの」
すっと立ち上がると、私をまじまじと見る。
「…なんですか?」
「…制服、かあ、デートっぽくないなあ」
「…山川さんこそ、デートのわりにはラフな格好です」
そう返すと、山川さんはふふっと笑った。
「私、あんまり服装に気を使わないからね」
今日の山川さんは、黒のパーカーに細身のジーンズ。
…極めてラフだけど、それでもスタイルよく、かっこよく見えるから美人はずるい。
「今日、来てくれないと思ってた」
「…来なかったら、どうするつもりだったんですか?」
「それでも、ずっと待ってるつもりだった。…それだけでも、よかったの。でも、やっぱり、来てくれて嬉しい。…ありがとう」
そう言って微笑んだ。
山川さんはやっぱり綺麗で、私は思わず見惚れてしまう。
「じゃあ、いこっか」
そう言って私の手をとる。
「行くって、どこへ?」
「本日のデートに」
にっこり笑う彼女に、私は手を引かれるまま歩き出した。
***
今日の校庭は賑やかだ。
人目を気にしてか、外に出ると自然と山川さんは手を離した。
鉄棒の前でムカデ競争の練習をしている女の子たちが目に入って、私は思わずどきりとする。
今日、しのは母親と買い物に行くって言ってたから、いるはずはないのだけど。
私は彼女達からそっと目をそらして、山川さんに聞く。
「それで、これからどこに行くんですか?」
「えっとね、あっちの方」
山川さんが指さすのは本校舎の方。
「え、学校?」
「そう、学校。日曜日の学校って、結構いいものだよ」
そう言う山川さんはなんだか楽し気で。
「校舎まで競争ね!」
と言って、いきなり走り出した。
「えっ、ちょっと…」
競争と言うならば、フライングはずるいと思う。
長い髪をなびかせる山川さんを、私は慌てて追いかけた。
競争と言われれば、負けず嫌いの血が騒ぐ。
…が、かなり遅れたスタートにも関わらず、私はあっさり追いついてしまった。
山川さんを大きく離して、先に玄関にたどり着く。
「…っ、容赦、ない、なあ」
遅れてゴールした山川さんは、息を切らせながらそう言った。
白い頬に赤みがさしている。
「山川さんって、運動苦手なんですか?」
「…まあ、ちょっと、ね……それに、やっぱり現役女子高生にはかなわなかったわ」
呼吸を整えて、すまして笑顔をつくるけれど、やっぱり少し余裕がなさそうで。
私はちょっとおかしくなって笑ってしまう。
「…もう、おばさんを笑わないの」
「こんなに綺麗で可愛いおばさん、いないですよ」
「…もう、からかわないで」
山川さんは取り繕うように、頬にかかる髪を耳にかけて、微笑む。
さっきまで少女のようだったのに、急に大人びて見えた。
「じゃ、行きましょ」
山川さんは、下駄箱の隣に置いてある来賓用のスリッパを出すと、そう言った。
校舎の中はひと気がなく、いつもとは違った場所のようで、なんだか不思議な感じだ。
「…あの、なんで学校なんですか?」
「ん?だって、日曜の学校って、新鮮でしょ?」
「…まあ」
「それに、私のこと、知りたいんでしょ?」
「…はい」
山川さんは、満足気に頷く。
「じゃあ、ついてきて。貴重だよ。山川さんの高校ツアー!…なんちって」
そう言って、いたずらっぽく笑った。




