表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
girl friend  作者: 柚木 ココ
30/35

秋桜の追想4

「ただいまー」


家に入ると、居間のソファに寝転がっていた姉が顔をあげた。

私を見るなり不満げに口を尖らせる。


「ゆう、遅いよー!待ちくたびれておなかすいちゃった…もうお姉ちゃんお腹空いて死にそう…早くごはん…って、あーちゃん!」


「菫ちゃん、ひさしぶりー」


私の後ろから顔を出したしのを見つけると、さっきまでの不満顔はどこへやら、すごい速さで跳ね起きた。


「わー、あーちゃんひさしぶりー!いらっしゃい!相変わらず可愛いねー」


そんなことを言いながら、しのに駆け寄って抱きついたり、髪を撫でたり。はたまた良い匂いがするとか言って、鼻をくんくんさせたり。

私はちょっとイラっとして、姉をしのから引き離した。

我が姉ながら、とんだセクハラ親父だ。


「…もう、しのが困るからやめてよ」


姉はにやにや笑いながら、するりと私の手を抜ける。


「ふふ、そんなことないって。ね、あーちゃん!」


「うん!私も菫ちゃんに久しぶりに会えて嬉しいから」


しのも無邪気に笑って、腕を組んだりしている。

…なんだかおもしろくない。


「…ゆう、なんだかおもしろくない、って顔ね」


姉は愉快そうにそう言う。

…からかわれているのはわかっていて、それもまた、おもしろくないんだけど。


「ふふ、可愛い彼女を取られちゃって、そりゃ、ヤキモチもやくよね?」


「…か、かのじょ?!」


今度はしのが顔を真っ赤にして、小さく叫んだ。


「あーちゃん、可愛いなあ。照れちゃって。うちのゆうとお付き合いしてるんでしょ?私のこと、お姉さんって呼んでもいいんだよ?」


「…な、な、な」


しのは赤面したまま、金魚みたいに口をぱくぱくとさせる。

私はその顔を見て、あ、と思う。

しのは、心なしか少し潤んだ瞳で、私を睨みつけた。


「す、菫ちゃん…なんで知ってるの…」


私はそっと両手を合わせる。

ごめんね、しの。

そう言えば、ばれちゃったこと、言ってなかったんだった。



***


「まあ、私は2人の味方だからさあ。なんでも話してくれていいし、私にできることはしてあげるからねっ」


「…はあ」


散々、馴れ初めやらなんやらを聞いて満足したらしき姉は、上機嫌で、魔法の杖のようにスプーンを振った。

私は半ばあきれながらカレーを口に運ぶ。

朝に下ごしらえを全て済ませておいたから、圧力鍋でにこむだけで、すぐに完成したカレー。

我ながら、結構美味しくできたと思うけど、しのはというと、なんだか疲れたような顔でサラダのトマトをつついていた。

それを横目に見て、私は少し申し訳なくもなる。


「…そういえば、今日、すごい美人にあったよ」


話題を変えようと、私がそう切り出すと、なになに美人?って、姉はすぐに興味を示した。


「うん、すっごい美人。お姉ちゃんに教えてもらった旧校舎で」


「旧校舎に人がいるなんて珍しいね。すごい美人ってどんな美人なのさ?」


「なんかもう…白くって、細くって、髪がさらさらで、黒がよく似合う…儚げで、こう不思議な感じの…もう、すごい美人」


頭の中で、あの人がふんわりと微笑む。

かなしいかな、私の少ない語彙力じゃ、あの人をうまく形容することなどできない。とっても綺麗な人。

姉はわかったような顔で、うん、と頷いた。


「…うん。うん、全然わかんないけど、とにかく美人なんだろうということがわかった。会ってみたいなー。高校生なの?」


姉は私に聞くのは諦めた、というように、しのに向かって聞く。

なんだか悔しい。


「ううん、事務のバイトの人だって。みやは知らなかったみたいだけど、2学期からすごい綺麗な人がいるって、話題になってるんだよ!そういえば、卒業生だって言ってたんだっけ?」


首を傾げて言うしのに、私は頷いた。


「うん、そうだ。もしかして、お姉ちゃん知ってるんじゃない?本当に綺麗な人だったから、高校生の時も目立ってたかも」


「すっごい美人ねえ…確かに、いるにはいたけど」


姉は考えるように宙を見た。


「名前はわかる?」


「うん。山川さん、って言ってた」


「山川、山川…」


記憶をたどるように額に指を立てる姉を、私としのは期待を込めて見た。

だって、もし姉が知っている人だとしたら、不思議な、謎だらけのあの人が、少しだけ身近になる気がして…ちょっとわくわくする。


「…うん、知らないな」


そう言い切った姉に、私たちは同時にため息をついた。


「そんながっかりしないでよ。思い当たるような美人な子なら、いるんだけど…山川なんて名前じゃないからなあ。第一、山川って、あんまり美人じゃなさそうな名字だよね?」


1人でうんうんと頷く姉に、私はおいおいとつっこんだ。


「…お姉ちゃん、今、全国の山川さんを敵に回したよ」


「あら、そう?」


カラッと笑う姉はまったく悪びれた様子もない。


「でも、菫ちゃん、体育祭見にくるなら山川さんに会えるかもね。たぶん、事務の人も運営の手伝いするから」


「そっか!じゃあ、美人見物といくかな。もちろん、あーちゃんとゆうの応援もたくさんするよー。でも、3年に1回しか体育祭がないなんて、残念だよね。ゆうが唯一活躍できる行事が」


「うるさいな」


勝手に哀れみの目を向けてきた姉を私は軽く睨みつける。

うちの学校は3年に1回しか体育祭も文化祭も、球技大会もない。

1年に1度ずつ行事があって、卒業までの3年間に1回ずつ経験する、というシステムなのだ。


「私は運動だめだから、それがちょうどいいけどね」


しのはそう言って、ふふっと笑った。



「ああ、また、そういえばなんだけどさ」


私は、ふと思いついて口を開いた。


「お姉ちゃんに彼女がいた話、聞きたい」


「えっ、菫ちゃん、彼女がいたの?」


しのがすぐに食いついた。

姉はちょっと嫌そうに眉を顰める。


「…せっかくの食事中に、人の古傷を抉るような話をよく聞けるね。うちの妹は鬼なのかしら」


「もう時効でしょ。私たちの話だって聞いたんだから、今度はお姉ちゃんの番だよ」


しのも、遠慮がちながら、聞きたい、というように身を乗り出していた。

ちょっと強引かもしれないけど、実はずっと、気になっていたのだ。

いつもは聞きづらかったけど、しのもいるし、今なら聞ける気がした。


私たちの視線に耐えかねてか、姉は、はあとため息をついた。


「…時効か。確かにそうかもね。今、私、彼氏いるし」


「うん」


「ちょっとはあんたたちの参考になるかもしれないし、話しておいた方がいいかもね」


諦めたように、そう前置いて、姉は口を開いた。

懐かしい話だけどねえ、なんて、呟いくように言って。


「高校2年の時。はじめて彼女ができたの。自慢じゃないけど、優しくて、すごい美人だった」


「え、お姉ちゃんなのに?」


「当たり前でしょ?私、あの頃、もてたんだから」


ふふん、と笑うのが、ちょっと癪に障る。

確かに、高校時代の姉は、髪も短くて美少年風だったと思うけど。


「…私と彼女は、よくあの旧校舎で会ってたんだけど、2年の終わりに、私たちの関係がばれちゃったんだよね」


「えっ」


「それで、彼女の親が心配して、彼女を転校させちゃったの。それでおしまい」


「「ええ?!」」


私としのは声を揃えてしまった。

それで、おしまい、って。

思った以上に短い、唐突な話に対する、非難の気持ちも込められていたと思う。

そんな私たちの言いたいことはわかっているというように、姉は落ち着いた表情で頷いた。


「うん、おしまい。彼女のご両親、厳しい人で、彼女は逆らうなんてことできなかった。私もあの時はちょっと荒れたけど、お母さんに心配かけられなかったし、ただの高校生だったから、どうしようもなかった」


「そう…なんだ」


私はそう言うことしかできなかった。

確かに、高校2年の時、家がごちゃごちゃしていたことがあった。

単なる姉の反抗期かと思っていたけど、そんな理由があったなんて。


「…そんな別れ方で…もう、菫ちゃんは、そのことはいいの?」


しのがおずおずというと、姉はニコッと笑った。


「いいの、って、未練はないのかってこと?…全然、ないよ。あの時は辛かったけど、今は1番の選択だったって思ってる」


言い訳じゃなく、自分に言い聞かせている風でもなく、ちょっとさみし気ではあるけれど、本心からの言葉なのだと思う。



姉はそして、こうも言った。



あんたたちのことは応援するけど、自分たちの関係は世間には簡単に認められるものじゃないって、知っておいてね。

当人同士がよくたって、周りに祝福されないことってあるの。

今の関係を続けたいのであれば、人に知られないように、気をつけること。

…わたしと同じ想いは、できればして欲しくないからなあ。



いつもノリが軽くて、ふざけてばかりの姉が真剣に話してくれた。

その言葉はなんだか重たい鉛のように胸に沈み込んで、私たちは、うんと、頷くしかなかった。


そんなこんなで、その話題はもうおしまい、という風になって。

私たちは他愛もない話をして、夕食の時間を過ごしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ