表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
girl friend  作者: 柚木 ココ
29/35

秋桜の追想3

最近は夕方になると、もう寒い。

制服も夏服からブレザーを着るようになったけれど、そろそろカーディガンが必要なくらいだ。

旧校舎を出ると、冷たい空気が頬を撫でて、私は首を縮めた。

薄暗くなった校庭を足早に歩く。

一歩一歩進むたび、なんだかさっきまでのことは夢で、現実にどんどん戻っていくような気がした。

校門につくと、もう制服に着替えたしのが待っていた。


「しの」


名前を呼ぶと、ゆっくり顔をあげた。


「…みや」


目が合って、柔らかく微笑んだしのの鼻先は、ほんのり赤い。

しのの顔が見られて、声が聞けて、なんだかホッとした私がいた。


「…帰ろっか」


そう言うと、うん、と頷いた。




「…すっごい美人さん、ねえ…」


帰り道、私の話を聞いたしのは、手をさすりながら、つぶやくように言った。


「なに、その顔」


「…その顔、って?」


「不満げな顔」


頬をつついてみせると、しのはわざとぶーっと頬を膨らませた。


「そりゃ、不満ですもん」


「え?」


「…みやが、他の女の人のこと、綺麗だって言うんだもん」


目をそらして下を向く。肩より少し伸びた髪の毛が、しのの横顔に影を落とした。

私は一瞬きょとんとして、それから、胸の奥がきゅっとするのを感じる。

くすぐったいような、温かいような、嬉しいような。


「…しのが一番可愛いよ」


そう言ってしのの顔を覗き込んだ。

ぱっと赤くなる、しのが可愛い。

しののことが可愛くて、誰よりも、どうしようもなく愛おしいんだって、そう思う。


「…そ、それより、その美人さんの話」


私の視線から逃れるように目を泳がせたしのが口を開く。


「幽霊でも見たんじゃないの?」


「え、やめてよ、そーゆーこと言うの」


私が苦手なの知ってるくせに。

私は軽く眉を寄せる。

…本当に、幽霊でもおかしくないって思っちゃうくらい、浮世離れした雰囲気の人だったから、ちょっと嫌だ。


「…冗談冗談」


そんな私の顔を見て、しのはくすくすと笑っていった。


「私、心当たりある」


「え?」


「美人な事務員さんでしょ?二学期になってからクラスの男子が騒いでたよ。毎週火曜と木曜にいるんだってさ」


なんだか急に現実味を帯びた話になった。

そういえば今日は火曜日だった。

確かにあれだけ綺麗な人なら、騒がれてたっておかしくないんだろうけど…


「…全然、知らなかった」


もし情報だけでも知っていたら、今日、あれほどの驚きはなかったのかな。

いや、あんなに綺麗な人、はじめてだったから、結局は変わらない反応だっただろう。

でも、夢でも見てたんじゃないかって半ば本気で思っていたから、話を聞いて、彼女は実際にいる人間なんだと、少し安心した。


「みやは噂とか疎いもんね。まあ、私の場合はノニちゃんが情報運んでくるんだけどさ…」


ひゅうと風が吹いて、しのは寒そうに、両手をこすり合わせる。


「…ふう、もう寒いね」


てのひらに、はあと息を吹きかけて、しのは独り言のように言う。

そんなしのの手を、私は思わずさっと取った。

…やっぱり、その手はひんやりと冷たい。

私の手の熱まで、奪っていくような冷たさで。


「み、みや?」


しのは慌てて引っ込めようとするけれど、私は離すまいと、きゅっと強く握る。


「…みや、人に見られちゃうよ…?」


しのは眉を八の字にして、困ったような顔をする。

私はなんだかおかしくなって、くすくす笑った。


「大丈夫だよ。暗いし、人もいないし」


「…壁に耳あり障子に目あり、って言うじゃん」


「ここには壁も障子もありませんから。それに、あったかいでしょ?」


「…もう」


しのはちょっと口を尖らせて俯いて。

でも、ちょっと嬉しそうにも見えた。

冷え切っていた手も、徐々にぽかぽかしてきて、私は満足する。


「…そうだ、しの」


「何?」


「今日、夕飯食べに来ない?ひさしぶりにさ」


我が家では私と姉が交代で夕飯を作っている。

今日は私の当番。

今日はカレーにするから、たくさん作るんだ。

そう言うと、しのは嬉しそうな笑顔を見せた。

それはもう、行く!って、即答で。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ