秋桜の追想1
あんなに暑かった夏も気がつけば過ぎて。
姉と一緒に買ったクーラーも、もう役目を終えてしまった。
せっかくがんばって買ったんだもの。
来年はまた活躍してもらおう。
秋は1番好きな季節だ。
まず涼しくて過ごしやすいし、ごはんが美味しい、空が綺麗。
私は居間のソファーに寝転んで、だらりと腕を垂らした。
こうしているのが、最高に気持ちがいいのだ。
「…ゆう、ぐだぐだするなら自分の部屋にいけば?」
居間のソファーにだらしなく寝転ぶ私を嗜めるように、姉が言った。
「…いいじゃん。だって、体育祭の練習で疲れてるんだもん」
私はテレビのリモコンをいじりながら頬を膨らます。
姉はそのリモコンをひょいと取り上げて、寝そべる私の横に座った。
「ああ、体育祭ってもうすぐだっけ?」
「うん。絶賛練習中」
寝そべったままの手足を小さく動かすと、筋肉痛気味の身体がぎしりと軋んだ。
「…いたた」
「あんた、運動不足じゃないの?」
姉は呆れたように言う。
「若者が情けないなあ。高校でも陸上、続ければよかったのに」
「…私はお姉ちゃんほど、才能なかったし、」
私は横目で、飾られている賞状やトロフィーを見た。
今はやめてしまったけれど、姉は高校まで陸上部で、いろんな大会でよく入賞していた選手だった。
一緒に飾られている高校時代の写真では、今とは違う、ショートカットで少年みたいな姉が、満面の笑みを見せている。
「それに、私は高校ではバイトと勉強がんばって、東京の大学に行きたいからさあ」
高校で部活に入らなかったことは後悔していない。
「…ふーん、真面目な妹を持って姉は誇らしいわ」
「でしょ?」
「でもあんた、足はやいじゃん。やっぱり体育祭はリレーの選手?」
「うん、まあね…」
だから体中が筋肉痛なのだ。
高校に入学してから、全力疾走なんて体育の時間くらいしかやっていないのだから。
練習だけでこの様とは、ちょっと情けないけど。
でも、しのだってがんばってるんだから、私だってがんばらなきゃ。
しのはムカデ競争に出ることになっていて、朝と放課後と、チームの子と練習しているようだった。
やっとコツがつかめたんだとか、一生懸命に話してきたのを思い出して、つい頬が緩んでしまう。
運動が苦手なしのは、いつも体育祭は憂鬱気なのだけど、今年のムカデ競争は気に入っているらしく、熱を上げて練習していた。
「…なにニヤニヤしてんの。気持ち悪いなー。どーせ、あーちゃんのこと考えてるんでしょ」
「…うっせ」
姉の視線から隠れるように、私はクッションに顔をうずめた。
しのと私の関係を知っている姉は、なにかとからかってくるので厄介だ。
「…でも、見にいこっかなあ」
「は?なにを?」
「体育祭」
目を点にした私に、姉はにっと笑いかけた。
「ひさしぶりに母校にも行きたいし、妹の晴れ舞台を見に行くのも悪くないし、あーちゃんにも会いたいし♪」
「えー、いいよ、来なくて」
嫌そうな顔をした私に、姉は上機嫌だ。
ほんとに、嫌な性格。
「私、体育祭の日は予定ないし、ひさしぶりに先生にも会いたいし、友だちにも会えちゃうかもしれないし…」
「…昔の彼女にも会えるかもしれないし?」
悔しくなって、茶化すように言った私は、姉の顔を見て、驚いた。
だって、少し傷ついたような顔をしていたから。
「いや、彼女が嫌がるだろうからなあ」
その言い方は、まるで自分に言い聞かせるようだった。
そして、また、笑顔を見せる。
その話はおしまい、と言うように。
「ま、体育祭は見に行くからね♪楽しみにしてて」
「…うん」
私は頷くしかなかった。
「…そういえば、お姉ちゃんこそ、なんで今は陸上全くやんないの?あんなに走るの好きだったのに」
気まずい空気を消したくて、わたしは話題をふる。
立ち上がりながら、姉はちょっと考えるように言った。
「うーん、なんでかな。忘れちゃった」
そして、にかっと笑顔を見せて、課題があるからと、居間を出て行った。
姉の後ろ姿を見送って、どこかほっとしている、自分がいた。




