夏休みtroubles10
小さな星が散りばめられた夜空の下、みやに手を引かれて歩いた。
手のひらが熱くて、少し湿っぽい。
お祭りの音が遠ざかるにつれて、2人の足音や、息づかい、鼓動の音…よく聞こえるようになって、私はそのすべてに耳をすました。
みやの存在がすぐ近くに感じられる、それだけで、私は安心する。
「…ねえ、みや?」
「何?」
「小さい頃も、よくこうやって、神社から歩いたよね」
私の前を歩くみやの背中が、小さな頃の記憶と重なって見えた。
泣いている私を、いつもみやはこうやって、家まで連れ帰ってくれたの。
みやと歩いているうちに泣き止んで、気がつけば笑顔になっていたんだっけ。
「いつも、私がいじめられて泣いてると、みやが助けに来てくれて、こうやって、一緒に帰ってくれたよね」
「…しのは、泣き虫だったもんね」
みやは懐かしそうにそう言って、夜空を見上げた。
私は、そんなみやを見上げる。
今日の夜空の星のように、綺麗で、憧れで…手が届きそうで、届かない人。
「私ね、女の子には、ピンチの時には王子様が助けに来てくれるって、思ってた。私にとって、それはずっと、みやだったの」
「…うん」
「困ってる時に助けてくれるのはね、みやが良かったの」
「うん」
「みやじゃないとね、嫌だったの…」
「うん」
「ずっと、ずっと、隣にいて欲しいのは、みやだけなの…」
「…うん」
みやは、私の言葉に、頷いて答えてくれる。
否定とも肯定とも受け取れない、曖昧な表情で。
「…これからも、ずっと、隣にいるし、ずっと、私はしのを守るよ」
そう言って、微笑んでくれた。
私はまた涙が滲みそうになる目元を、右腕でこすった。
思い返せば、ずっとそうだった。
曖昧な言葉で誤魔化して、はっきりと想いを伝えることを避けていた。
恋人同士になった時も、「好き」の言葉も言わないで、自分の気持ちも伝えずに、居心地の良い場所で満足してた。
別れようって言われた時も、文句も言わずに黙って受け入れた。
伝える勇気が、なかったから。
ケンタローの、まっすぐな目を思い出す。
昔の、いじめっ子の子どもじゃない。強い人だなって思った。
私だって、そう、なれるかな。
私も、もう泣き虫の子どもじゃない。
ケンタローが伝えてくれたように、みやに、伝えられるかな。
好き。好きなの。
みやだけなの。
みやじゃないと、だめなの。
今のままの関係じゃ嫌なんだ。
この想いが、届いても、届かなくても、伝えられたら、何かが変われるような気がするから。
「…みや、今度ちゃんと、言うからね」
「ん?」
きょとんとするみやに、私はにっこり笑って見せた。
みやの腕をぐっと引き寄せて、私もみやと並んで歩く。
「待ってて、ね?」
「え…うん」
心が、すっと軽くなった気がした。
本当は、とってもシンプルなことだったんだ。
私は、みやが、好き。
みやが、大好き。
伝える前から、失恋してた。
ひとりで、ぐずぐず悩んでた。
今度、ちゃんと、告白するね。
こんなに髪の毛がぐちゃぐちゃで、泣き腫らした顔じゃない時に。
「…ねえ、こんな顔で帰ったら、お母さんびっくりするかなあ」
「…うーん、私が泣かしたと思われたらどうしよう…」
「えー、お母さんはみやに甘いから大丈夫だよ」
「…しのが転んで泣いたってことにしようか」
「私、そこまでドジじゃない…」
「じゃあ、人混みに流されて迷子になって泣いてたことにしよっか!半分本当だし」
「小学生じゃあるまいし…」
「いや、しののお母さんならそれでいける!…そういうことにでもしないと、しのを泣かしたなんて、私、殴られちゃうよ」
「なにそれ」
ふたり目を合わせて、ふふっと笑った。
いつまでたっても夏は続くような気がしていたのに、気がつけばもう、秋の虫が鳴き始めている。
夏の終わりを感じる、お祭りの夜の帰り道。
私は夜空の星に手を伸ばした。
たとえ届かなくても、叶わない、夢なのだとしても、手を伸ばす勇気を、私にください。




