表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
girl friend  作者: 柚木 ココ
24/35

夏休みtroubles9

神社の境内は静かで、提灯がぼんやり並んでいる。

メインの通りからは離れているから、お祭りの音楽やざわめきも遠くに聞こえて、ここだけ違う世界のような、不思議な感じがした。


「…静かだなあ」


「そうだねえ」


ケンタローの言葉に、私も同意した。

…なんとなく、気まずい。

まさか、神社の境内に誰もいないとは思わなかったから、ふたりきりというのは、ちょっと。

ふたりきりになったら、少し思い出してしまう。

みやが前に、チラッと言っていたこと。

『ケンタローは、しののことが好きだもんね

』って。

…まさかね、とは、思うけど。

私は少し赤くなって、ケンタローとの間に距離をおいた。


「と、とりあえず、あそこに座るか」


「う、うん!」


ケンタローの指差すベンチに、並んで座った。

…そういえば、こうしてゆっくりケンタローと話すのなんて、久しぶり…というより、こんなこと、今までに会ったかな。


「…あ、これ、返すね。ありがと」


私は借りていた帽子をケンタローに返して、ささっと簡単に、髪の毛をまとめた。

鏡がないからわかんないけど、少しはマシになったはず。


「おう」


ケンタローは帽子を受け取ると、深くかぶった。


「…そういえばさ、小学生の時、ここでよく遊んだよな」


「あー、そうだね」


頷いて、私も思い出す。

石段でグリコをしたり、木々の間でドロケイしたり、かくれんぼしたり…

ここは私たちの遊び場だった。


「…私はよくここでケンタローに泣かされたな」


髪の毛を引っ張られたり、蜘蛛を投げつけられたり、蛇のおもちゃで驚かされたり……

思い出すと、幼い私、かわいそう。

そりゃ、ケンタローを嫌いにもなるよね。


「…わ、わるかったな」


ケンタローが口を尖らせて言うので、私は笑ってしまう。


「小さい頃も、よくそうやって謝られた」


「そ、そうだったか?」


「うん、みやに怒られてさあ…」


みやは、いじめられている私をいつも助けてくれた。

泣いていると、駆けつけてくれて。

体が大きかったみやは男の子より強くって、いつも私を守ってくれた。

みやは、いつだって、私にとって大きな存在で。ヒーローで。

今だって変わらない。

隣にいて欲しいのは、みやなんだ。

…思い出して、涙がにじみそうになる。


「…しの?」


「….あ、ごめん。なんかいろいろ思い出してぼーっとしちゃった」


ケンタローが怪訝そうな顔をしたので、私は慌てて笑顔をつくった。


「…なあ、俺さ」


「うん」


真面目な顔をしたケンタローと目があって、私はちょっと嫌な予感がした。


「俺、昔はよく…お前をいじめてたけど」


「….そうだよね。本当にひどかった」


「…でも、お前のこと嫌いだからいじめてたわけじゃなくて」


…今日は、ケンタローと初めてまともに話せた気がして。

なんだ、案外いいやつじゃん、とか、思ったりもして。

…友だちに、なれるかも、なんて思ったけど。


「…俺、お前のことさ」


何を言われるかは何となく想像がついて。

本当は聞きたくないな、なんて思ったけど。


「お前のことさ、ずっと、好きだったんだ」


まっすぐな目に、私は目を逸らすことができなかった。

まっすぐ伝えてくれたことに、ちゃんと向き合わなきゃいけないと思って。


「…だから、俺と付き合ってくれませんか?」


見つめあったまま。

私たちの間に沈黙が流れた。

顔を赤くしながらも、ケンタローは目を逸らさない。

強いなあって思う。

自分の気持ちを、こんなにまっすぐ伝えられて、強い人だなあって思う。


答えないと。

…口を開こうとしたけれど、私からは言葉じゃなくて、涙がこぼれ落ちていた。


「なっ…なんで泣くんだよっ?!」


ケンタローがうろたえる。


「ごっ、ごめん!そ、そんなに嫌だったか?!」


「…う、ひっく…ちが…っ」


ちがう。

そうじゃなくて。

と、言いたいけど、うまく声が出なかった。


まっすぐ伝えてくれた気持ちに、応えられないことが申し訳なくて。

本当はこのまま、ケンタローを受け入れられれば一番いいのに。

…でも、そんなのじゃ嫌だって、心が叫んでる。

私がずっと、隣にいて欲しい人は、もう決まっていて。

でも、その人はもう、隣にはいてくれなくて。

ごめんね、ケンタロー。

ケンタローじゃ、だめなの。

涙があふれて、止まらない。

気持ちがぐちゃぐちゃだ。


「ごめんな、しの?本当、ごめん」


ケンタローは、困った顔をしている。

そんな顔をさせたいわけじゃないのに。

ケンタローは何も悪くない。

私、最低だ。


「ちがっ…う、ちがう…の…」


なんとか声を押し出す。

ちゃんと、私も、伝えないと。


「…好きな、ひとが、いるっ…の…ごめん…」


途切れ途切れの私の言葉に、ケンタローは一瞬固まって。

それから、くしゃっと笑って言った。


「…だよな!そうだと思ってた!」


私を気づかって、明るくしてくれている。


「…泣くなよ、しの。そんなに泣かれたら、俺が可哀想だろが」


「…ごめっ…」


「…謝んなって!」


「うう…」


涙が止まらない。

不安も、悲しさも、寂しさも、切なさも…今までためていた全部を吐き出すように、私は泣いていた。

みやと別れてから、初めて出る、涙だった。


その時。


「…しのっ!」


ずっと、聞きたかった、声がした。



「っ!おまえっ、しのに何した?!」


みやは、ケンタローと私の間に割ってはいるようにして、私を引っ張ると自分の背後に隠した。

ケンタローは、目を丸くする。


「な、俺は、何も…」


「何もしてないのに、しのが泣くわけねーだろ!」


みやがケンタローに掴みかかる。

私は慌てて、みやの袖を掴んだ。


「み、やっ!やめて、ちが、ちがうのっ…!」


一度引っ込みかけていた涙が、もう一度、溢れる。


「し、しの…?」


みやが戸惑ったように、私を見る。


「…っ、うっく…うぇ、ケン、タロー…は、なにも、悪くっ、ない…っうう…」


しがみついて泣く私を、みやは、困ったように私を撫でてくれる。

みやの匂いがする。

熱い体温から、みやが走ってきてくれたことがわかる。

みやの腕の中で…私は、安心してしまっていた。


「…本当に、何もされてないの?」


そう言うみやに私はなんとか頷く。

みやは、もう一度ケンタローを見て、ちょっと気まずそうに、謝った。


「…ケンタロー、ごめん」


「お、おう…」


ケンタローはさっきのみやの剣幕に押されたようで、呆気にとられたような顔で返事をする。


「…私たち、今日はもう帰るね」


みやは私の手をひいて、歩き出す。


「…しのっ!」


少し離れたところで、ケンタローに呼び止められて、私は振り返った。


「しのは、好きなやつと、うまくいくといいな!」


にっと笑ってくれた。

私も、胸がつまりそうになる。

でも、涙を拭いて笑ってみせた。


「…ありがとう、ケンタロー」


最後だけ、はっきり言えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ