表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
girl friend  作者: 柚木 ココ
22/35

夏休みtroubles7

みやの浴衣は藍色に牡丹の花。


「私のは去年と同じだから…」


なんて自信なさげに言うけれど、この浴衣はみやによく似合っていて…とっても綺麗。

去年より、少し大人っぽくなった気がする。ショートカットからのびるうなじが色っぽい。

思わず見惚れた私と目があって、みやは少し照れたように笑った。


「でも、ゆうちゃん、また背が伸びたかしら?来年は新しい浴衣にしなくちゃかもね」


お母さんが、着付けの道具をしまいながらそう言う。


「…えっ、みや、まだ背が伸びてるの?」


「うんー。去年より3センチくらい伸びたかな」


「…うう、みやばっかりずるいー!」


口を尖らせる私を、みやは、ははっと笑う。


「しのはこれで可愛いからいいよ」


頭をぽんぽんとしてくれる、優しい表情。

私は胸がきゅうとなる。


「…ふふ、そうしてると、やっぱり姉妹みたいね。じゃあ、2人とも気をつけて出かけるのよ。ゆうちゃん、朝海をよろしく」


「はい」


「うん、お母さん、いってきまーす」


お母さんに見送られて、私たちは家を出た。

辺りは少し薄暗い。

昼間の暑さも柔らいだ、夕暮れの時。

お祭りの日の夜は、いつもと空気が違う気がする。

なんとなく、ざわめいている感じ。ちょっと落ち着かない、不思議な空気。


私とみやは並んで歩くけれど、手をつなぐことはない。

指に指輪はつけられない。

みやが望む、友だちとしての私を、演じていたいから。


「…お祭り、楽しみだね」


沈黙を割くように、みやがそう言うので、


「なに食べよっかな!私、りんご飴!」


私もちょっとおどけてそう言った。


「しのはいつもりんご飴だよね。でも大きいの買って、食べきれないのやめてよね。今年は私、食べてあげないよ」


「えー、だって、大きい方がわくわくするのに!」


「半分以上1人で食べさせられる私の気にもなってください」


「大丈夫だよ。今年は私が半分以上食べるもん」


「毎年そう言ってるでしょ」


みやは笑顔。

だけど、その顔が少しさみし気に見えるのは、私の気のせい?

私が、そうあって欲しいと思うから?


あの日からいつも、私は何かが足りないような、さみしくて、不安な気持ちでいっぱいだった。

何もやる気が起きないような、なげやりな気持ちでいた。

…もう、みやと笑顔で話すことなんて出来ないんじゃないかと思った。

私のものじゃないみやになんか…会いたくないって、思ってた。

でも、会ってしまえば、話してしまえば、やっぱりみやの隣が1番心地良い。

ただの友だち。

…そう思うと、胸はぎゅっと痛むけど、そんな痛みさえ感じていたいくらい、私はみやの隣にいたい。



屋台が並ぶ商店街が近づくにつれ、徐々に人が多くなり、音楽が聞こえ、賑やかになっていった。

暗がりに色とりどりの提灯が浮かび、どこか湿っぽい、お祭りの匂いがする。


「ケンタローたちとは島田商店の前で待ち合わせなんだけど…あ、いたいた」


みやがそう言って片手をあげる。

その先にはケンタローと、同じく小学校からの友人の、(しょう)ちゃんがいた。

…そう、今日のお祭りは、2人も一緒。

私はちょっと気持ちが重くなる。

いつもは、ご近所ゆえにお祭りにきてから顔を合わせることはあっても、一緒にまわることなんかないのに。

みやからの提案で、今日は4人でまわることになっていた。

翔ちゃんはともかく、私はケンタローが苦手だ。…それはみやも知っているはずなのに、何でこういうことになったんだろう?


たぶん、いやきっと、みやが、私と2人でお祭りをまわりたくないから。

何度問いかけても、私が思う答えはこれだった。

みやが私との間に引いた線…そう思うから、私は今回の申し出を受け入れたのだ。

私だって、みやとのこの距離感に、慣れなくちゃいけないと思うもの。



「…翔ちゃん、ひさしぶりー!」


明るい声で、翔ちゃんに声をかける。


「あ、しのみやだ。ひさしぶりだねー。2人とも浴衣かわいいね」


翔ちゃんはにっこりと笑う。

背が高くてひょろりとした翔ちゃんは、昔から他の子よりも大人びていて、落ち着いていて、優しかった。

だから、男の子とはあまり仲良くない私でも、翔ちゃんとはあまり緊張せずに話せる。

ひさしぶりに会っても、優しい笑顔は相変わらずで、私はちょっとホッとした。


「おい、しの!なんで翔にしか挨拶しないんだよ!」


「…げ。ケンタロー…」


「げっ。てなんだよ!」


「だ、だって、ケンタローは乱暴なんだもん!翔ちゃんをちょっとは見習ったら?」


私はそう言いながら、みやの後ろにちょっと隠れる。

中学生の時からずっと、半分いじめられていたようなものだから、ケンタローと距離をおくに、越したことはない。


「こらこら、しの。大丈夫だよ、ケンタローは怖くないよ」


みやが苦笑する。


「でも…」


「でも、ケンタローもいきなり怒るのはよくないよねえ。ほら、ケンタロー」


翔ちゃんが、にこにこしながら、ケンタローの背中を押した。

私が隠れたから、ケンタローはきっと怒った顔をしてると思っていたけれど、こわごわと見たら、思っていたのとは違った顔をしていたので、ちょっと驚いた。

ケンタローはうつむき加減で、気まずそうに、ぼそっと言う。


「…いきなり怒って、ごめん」


「え」


「…ごめん」


こんなことを言われたことはなかったから、私は目を瞬く。


「ほら、ケンタローだってちょっとは大人になったでしょ?だからしの、怖がらなくていいんだよ」


「はい、ケンタロー、よくできましたー」


「うっ、うっせ!」


みやと翔ちゃんにからかわれて、ケンタローは顔を赤くする。

でも、もう一度私を見て、こう言った。


「でも…今まで…よく、しののこといじめてたと思うけど、悪かったって思うから…これから気をつけるから、一緒に祭りまわらね?」


ケンタローとは思えないセリフに、私はもう一度瞬きをする。

小中学生の頃とは違う。いじめっ子とは思えないケンタローの様子に、私は拍子抜けしていた。

こうもしおらしく言われると、調子が狂ってしまう。


「う、うん…」


私がうなずくと、今度はパアッと明るい笑顔になった。

その顔は、子どもの頃から変わらないもの。

なんだか、不思議な気分だった。



屋台をひやかしながら、4人で歩く。

なぜか自然に、ケンタローと私が隣で、みやと翔ちゃんが隣のペアに分かれていた。

ケンタローの隣を歩くなんて、ありえないことと思っていたけど、おかしなくらいに今日はケンタローが優しいから。

私が言うのも偉そうだけど、なんだかんだで、高校生になって、大人になったのかな、なんて思ったり。


…でも、やっぱり私は上の空になってしまう。

前を歩くみやと翔ちゃんを眺めていると、モヤモヤしたものを感じるから。

だって、背が高い2人は、並んでいるとお似合いのカップルみたいなんだもの。

…翔ちゃんは、良い子だけど、でも、やっぱりみやはあげたくない。

みやの隣の場所は、とられたくないんだってば。


「…しの?どうした?」


ケンタローの声がして、ぼんやりしていた私はハッとした。


「…え、ごめん!なんか言った?」


「いや、りんご飴食べるかって、聞いたんだけど」


聞いてねーのかよ、と口を尖らせる。

その顔は昔と変わらなくて、私は苦笑した。


「ごめんごめん。…でも、りんご飴、いらない」


「え、りんご飴好きなんじゃねーの?いつも祭りの時は持ってんじゃん」


「…うん、でも、今日はいらない。ごめんね」


「そっか」


ケンタローには悪いけど、本当に食べたいと思えなかった。

今、初めて気づいちゃったから。

私は別に、りんご飴は好きじゃない。

だって、すごく、甘いし、食べても食べても、減らないし。

みやと食べるから、好きだったの。

お祭りの日だけの、特別なことで。

全部食べきれない私に、困ったように笑って、仕方ないなあって食べるのを手伝ってくれる、みやが好きだった。

2人で一生懸命、笑いながら食べるのが好きだったんだ。

1人で食べたって…そんなの全然美味しくない。


私たちの会話を聞いていたのか、えって顔をしてちょっと振り返ったみやと目があった気がした。

すぐに前を向いてしまったから、わからないけど。

困ったなあ…せっかくのお祭りなのに、あんまり楽しくないや。



「…なんか、人、増えてきたな」


「そうだね」


ケンタローが言うとおり、だんだん人が増えてきた。


「もうすぐ神輿が始まるもんねー」


翔ちゃんが振り返って言う。


「私たちもそっち行ってみようか?」


みやがそう言うので、うん、とうなずこうとした。その時。


「…あ」


団体さんが私たちの間を通って。

というか、私が人の波におされて、流されてしまった。


「あれ、あれあれ…」


こんな風に流されるなんて、本当にあるんだなーなんて思いつつ、本当に人波には逆らうことができない。

そっか、背が低いくせに今まで流されたことがなかったのは、みやがいつも、つかまえてくれてたからかもしれない。


「しのっ!」


みやの声がしたけど、流されるとこまで流されて、やっと自分の意思で歩けるようになった時、私はすっかりはぐれて1人になっていた。

人混みの中の1人って、すごく心細い。


「…さて、どうしようかな」


1人、呟いて、ちょっと泣きたい気持ちになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ