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girl friend  作者: 柚木 ココ
20/35

夏休みtroubles5


「私たち、恋人やめよっか」


…なんて、思ってもいない嘘を吐いた。

しのは、何を言われているのかわからない、というような顔で、私を見てた。

私は、しのの顔が見られない。

うまく、平静を装えているかな。

嘘だということが、ばれちゃわないかな。


「…なんで?」


消え入りそうな声でしのが言う。

答える私の声は、落ち着いていて、誰か別の人が話しているんじゃないかと思うくらい、遠くに聞こえた。


「…私のこと、特別じゃなくなっちゃったの?」


しのの、震える声がする。

きっと、今、涙目になってる。

特別じゃないわけ、ないじゃん!

そう叫んでいる自分を押さえつけて、どこか冷静な私は話す。


そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。

傷つかないで欲しい。

そんな顔は見たくないのに。

そんな顔はさせたくないのに。

…だからこそ、この答えを出したというのに。


いっそのこと、泣いて欲しい。

別れたくないって、泣いて、すがって?

私しかいないって、そう言って?

そうしてくれたら、私のちっぽけな決意なんて、あっという間に崩れる。

しのを抱きしめて、うそだよ、ごめんねって言える。


…だけど、しのは、ゆっくりと頷いてくれた。


そうだよね…それでいい。

悲しくないって言ったら、嘘になる。

嫌じゃないって言ったら、嘘になる。

でも、これ以上、しのを傷つけないように。

この先もずっと、しのを守れるように。

今ならまだ戻れるから。

私が、しっかりしなくちゃ。


「じゃ、そろそろ宿題に戻ろっか」


そう言って、しのに差し出そうとした手を、私ははっとして引っ込めた。

友だちに戻るって、こういうこと…

わかっていたはずなのに、引っ込めた掌が、急に寒くなったような気がして、私はそっとひとり、手を握りしめた。



帰り道。

しのはずっと上の空で。

ときどき、目が潤んでいるのがわかった。

早く元気になって欲しいと思う。

早く、いつもの明るい笑顔を見せて欲しいと思う。

こんな顔をさせるくらいなら。

はじめから、何もなければよかったね…


ふたり、肩を並べて歩いていても、今までになく、距離を感じる。

恋人じゃなくなった、私たち。

前と同じ、ただの友だちになった。

前と同じ。普通のこと…のはずなのに。

この距離に全然満足できていない自分がいた。

もっとしのに近づきたい。

こんな距離はいらない。

…自分から距離を置いたくせに、ずるい考えばかりが浮かんでは消える。

しのの恋人でいられた一ヶ月の、甘い時間を知ってしまったから。

私はすごく欲張りになってしまったようだった。


この先、しのが他の誰かを好きになるのを、しのが少しずつ大人になっていくのを、この位置から見ていくことになるのかな。

そんなことに、私は耐えられるのかな。



「…それじゃ、みや、またね。また、メールする」


しのは小さく微笑んで、いつもの曲がり角で手を振った。

夕焼けの中の、その姿はとっても綺麗で。

私も手を振り返す。

胸の奥がぎゅうっと痛んだ。


「時間」というものは、本当にこの胸の痛みを消してくれる?

私はまた、しのの友だちとして、しのの幸せを願えるようになる?



今ならまだ戻れる。

なんて。

今まで通りでいられる。

なんて。


そんなの、全部、嘘だ。

心に灯ってしまった想いは、もう消えることなんてないように思えた。

私は、きっと、この先もずっと、この想いを抱えて生きていく。

しのが忘れてしまっても、しのの隣で、きっと、ずっと。


夏の、夕方の、湿っぽい空気を、すっと胸いっぱいに吸い込んだ。

夏の匂いはどこか切なくて、今の私の気持ちに似ている。



しのの姿が見えなくなると、私は携帯電話を取り出して、電話をかけた。


「…もしもし。あのさ、協力してあげよっか?」


ワンコールで出た電話の相手に、そっと問いかける。


私は、しのの幸せだけを、ずっと、願う。

しののことが、好きだから。

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