恋人のなり方2
みやと私の家はご近所、親同士も仲良しで、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。
小学校も中学校も一緒で、進学した高校も一緒。
私にとってみやは、姉妹のようであり、大切な幼馴染であり、親友であり…
そして、それだけではなく、昨日、恋人、にもなりました。
「ああ、どきどきするなあ、もう…」
私はたまらなくなって小さく呟いて、さらに恥ずかしくなって赤面した。
いつも通りに、朝は駅のホームで待ち合わせ。
いつも通り…なのに、いつも通り、みやと学校に行くだけなのに…こんなにどきどきしてしまうのはなんでだろう。
親友が、恋人になった。
親友も、恋人も、どちらも大切な存在であることには変わりないのに、この違いは何なのだろう。
ちょっと寝不足な瞼が重たい。
顔はむくんでないかな。
前髪は寝癖、ついてないかな。
スカートのプリーツは、乱れてないかな。
おかしなところは、ないかな。
私はそわそわと落ち着かず、今日もひとつに結んだ髪の毛の先をいじっていた。
「おはよー、しの」
「み、みゃっ!」
「なんか猫の鳴き声みたいになってるよ」
だ、だって、しのがいきなり後ろから声かけてくるから…
びっくりして私は、会ったら最初に何て言おうかとか、何を話そうかとか、考えていたこと全部が吹き飛んでしまった。
「おーい、しのー」
固まっている私の目の前で、みやはパタパタと手を振る。
「電車きたから早く乗るよー」
「うわあ!」
私ははっとして電車に飛び乗った。
その後を、悠々とみやが乗り込む。
「しの、なんかぼーっとしてる?まだ寝ぼけてんの?」
みやが笑って言う。
「…そんなことないもん」
私は少しむくれた。
なんだか、みやは普通だ。
私ばっかり意識してるみたいで…ばかみたい。
そんなことを思ったけど、その後も何だかぎこちなくて、意識しない方が無理だって。
いつも通りのみやの笑顔も、はねた襟足も、日に焼けた肌も、骨ばった手の甲も…なんで、こんなにも、いつもと違く見えちゃうんだろう。
私とみやは違うクラスだから、学校に着くと、私たちは廊下で別れた。
みやと離れて、自分の教室に入って、私はやっと生きた心地がした。
ずっとこんなにどきどきしてたら、身体がもたない。何かの拍子で、心臓がとまってしまうかもしれない…なんて思う。
親友と恋人と…一体なにが違うんだろう。
私は一日、みやのことばかり考えていた。
小さな時から、ずっと一緒のみや。
みやのことなら、たくさん知ってる。
めんどくさがりだけど、実は真面目なこと。
宿題とか、いつもしっかりやってること。
負けず嫌いで、隠してるけど、努力家なこと。
とっても優しくて、面倒見がいいこと。
辛いものが苦手なこと。
可愛いものが好きなこと。
背が高くて、足が速いこと。
お姉さんとお兄さんがいること。
みやはみやで、何も変わらないはずなのに…
何かが私の中で変わってしまったみたい。
ああ、早くみやに会いたい。
本当は、休み時間に隣の教室に行きたくて仕方なかったけど、お昼ご飯も一緒に食べたいなあとか思ったけど、移動教室で、みやのクラスの前を通る時はそっと覗き込んだりしちゃったけど…いつもはそんなにベタベタしていないわけだし、私はぐっと我慢した。
そんな風にしてると一日はすごくゆっくり感じられて、友だちとの会話も、先生の授業も、全部右から左へ流れちゃう。
なんか…疲れた。
私は放課後、いつものようにみやが迎えにきてくれるのを、ぐたっとしながら待っていた。