夏休みtroubles3
私はしののことが好き。
好き、にはいろいろなものがあるから、それはどんな好きなのか、と聞かれれば、表現が難しいのだけど。
友だちを好きなのとは、違う好き。
お母さんやお姉ちゃんとも、違う好き。
犬や猫を可愛いと思うのとも、違う好き。
誰にもわたしたくないくらい、好き。
独り占めしたいくらい、好き。
ずっと大切にして、ずっと一緒にいたいって思うくらい、好き。
…きっと、普通の女の子が男の子を好きになるのと同じように、好きなんだと思う。
女の子どうし、だけども。
しのも、私のことを、好きであって欲しいと思う。同じ気持ちであって欲しいと思う。
昔から、ずっと、好かれてはいる…自信はあるんだけど。
「…でも、あーちゃんの好き、は、ゆうの好きと本当に同じなのかなあ?」
姉はさらっと、そう言う。
「だって、付き合うってなった時も、お互い好きって言ったわけじゃないんでしょ?」
「…それは、そうだけど…あのときは私だって、好きがどんな好きなのかわからなかったし…」
私は口ごもってしまう。
まさに考えていたことを、姉はズケズケと言うものだから、おもしろくない。
「私、あーちゃんは、ゆうのこと、ただ友だちの延長で好きなだけだと思うけど。思春期にありがちな錯覚ってやつよ」
姉は口元をにっと歪める。
やめてほしい。
聞きたくない。
「…でも、ケンタローくんって、良い子だと思うんだけどなー私。高校生になって、ちょっと背も伸びたし、たくましくなったでしょ?野球も頑張ってるみたいだし。やんちゃだけど、根は優しいし」
「お姉ちゃんは買いかぶりすぎだよ。あんなの…ガキだし、馬鹿だし、嫌な奴…」
「ゆうがそう思いたいだけじゃないの?案外、あーちゃんも、好かれてるってわかれば、満更じゃないかもね。それに…」
姉は、前にみたことのあるような、少し大人びた、さみし気な顔をした。
「やっぱり、女の子どうしより、好きになってくれる男の子に大切にされた方が、あーちゃんも幸せになれると思うな」
「しのの、幸せ…?」
私と一緒にいるよりも、ケンタローと一緒になった方が、しのは、幸せ…?
「…みやっ」
しのの声がした。
いつものように、私を少し上目遣いで見上げて、隣に立っていて。
「みや、あのね、私…ケンタローと付き合おうかなって思うの。やっぱり、女の子どうしじゃ変だよ。私、もうみやの彼女は…」
ヤメルネ。
しのの声が頭の中を、無機質に響いた。
喉がカラカラに乾いて、声も出ない。
私は、目の前が真っ白になった。
「ゆうー?そろそろバイトでしょ?起きなさいよ」
重い瞼を開けると、リビングのソファーで仰向けになっていた私を、姉が覗き込んでいた。
「…のどかわいた」
口を開けば掠れた声がでた。
「こんな暑いとこで寝てるからいけないのよ。冷蔵庫に麦茶があるけど、自分でやってね」
「…ん」
のっそりと立ち上がり、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出して、喉に通した。
冷たい感覚に、徐々に思考が冴えてくる。
「…変な夢、見てた」
つぶやくように言うと、テレビをつけながら、姉はあまり興味なさ気に聞く。
「へえー、どんな夢」
「…とりあえず、お姉ちゃんがすごく嫌なやつだった」
「なにそれ」
私はちゃっちゃと着替えを済ませて、バイトに行くことにする。
今日はそんなに、暑くないといいんだけど。
***
「なあー、みやー、聞いてる?」
「…仕事中なんだけど」
「だから手伝ってんじゃん」
ケンタローはぶーっとした顔をする。
確かに、上の方の棚にCDを並べたり、重い本を持ってもらえるのは助かるけど、あんたはここのバイトじゃないだろう、と言いたい。
「なんでちゃっかり入り浸ってるわけ?」
「いいじゃん!店長だって、いいって言うし」
あの日からほぼ毎日、ケンタローは私のバイト先に顔を出していた。
持ち前の明るさで店長ともすっかり仲良くなってしまい、当たり前のように私の仕事を手伝っている。
「あんた、部活はいいわけ?」
「夏休みだし、部活は午前中で終わりだから」
「自主練しないとうまくなんないよ」
「夜、素振りやってるからな。見ろ、この筋肉」
「気持ち悪い」
CDの整理を終えて、レジに戻ろうとすると、ケンタローも後ろをついてくる。
私と話す機会をうかがっているのだ。
うっとおしくて、私はため息をついた。
さっきの嫌な夢のこともあって、私は機嫌がよくないのだ。
「今日もケンタロー君、いらっしゃい。麦茶でも飲むかい?」
「あ、店長!ありがとうございますっ」
奥から店長が、麦茶を二つ持って出て来た。
「…店長、こいつにお構いしなくていいですよ」
私が言うと、店長はにやにやとする。
「そんな、ゆうちゃん、照れなくていいんだよ。僕だって、賑やかだと嬉しいしねえ」
「……」
絶対何かを勘違いしている店長に、私は何も言うことができなかった。
何か言えば言っただけ誤解を生みそうで。
「じゃ、2人、仲良くね。僕はまた買い物に出かけるから…」
そわそわと言う店長に、ケンタローが元気良く「はーい」と返事する。
例によって足取り軽く店を出て行く店長を見送ってから、私はケンタローに向きなおった。
やっぱり、はっきり言っておかなくちゃ。
「ねえ、ケンタロー。最初に言ったけど、私は絶対協力できないんだから、もう店こないでよ。しのはあんたに興味ないみたいだから、諦めた方がいいよ」
今日までで溜まったイライラもあいまって、私は少し強めの口調で言った。
少し、傷つけたかもしれない…そう思いながら、ケンタローの顔を見ると、不思議と落ち着いた表情をしていたので、私は内心驚いた。
「…まあ、親友のみやが言うんだろうから、そうなんだろうな。今日でここに来るのは最後にしようと思って。今まで仕事の邪魔して悪かったな。話聞いてくれてありがとう」
こうも素直に言われるとは思わなかったから、私は拍子抜けしてしまう。
「…別に、私はお礼言われるようなことはしてないし…」
「いや、みやくらいしかこの話ができるやついなかったからさ!聞いてもらえるだけで良かったんだ。ありがとな!」
ケンタローはにっと笑う。
そして、どこかスッキリとした顔をして言った。
「聞いてもらったおかげで…勇気がでてきたんだ。俺、しのに、告白する!」
「…え」
私は頭の中が白くなる。
「みやがいうように、ダメだとは思うけど、夏祭りの前にはって思ってさ。気持ちを伝えるだけでもやってみるよ」
「う、うん…」
ガンバッテネ
思ってもいない言葉を吐いた。
真っ直ぐな彼にかけられる言葉なんて、私には何もなかったから。
「みや、あのね、私…ケンタローと付き合おうかなって思うの」
夢の中のしのの声が、もう一度頭の中で響いた。




