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girl friend  作者: 柚木 ココ
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夏休みの過ごし方

今日の空は突き抜けるほど綺麗な青色。

それなのに、私は蛍光灯の明かりのついた室内にいた。

大合唱している蝉の声も、刺すような夏の日差しも、窓の外では遠くに感じる。


なんだって夏休みに、こんなところにいなきゃいけないのさ…


ひとり盛大にため息をつく。

夏休みに入って数日…私、篠原朝海は母のすすめで塾の夏期講習に通っていた。

そりゃ、勉強は学生の本分であるという、母の主張はわかりますとも。

でもでも、私だって遊びたいざかりの女子高生。

夏休みは勉強ばっかりしてないで、やりたいことだってたくさんあるのに。


みやに、会いたいな。


指にはめたピンキーリングを眺めて思う。夏休み中はストラップからアクセサリーに昇格させたみやとおそろいのピンキーリングが、せめてもの慰みだ。

夏休みになればもっと一緒にいられる時間が増えると思ってたのに、結局、私は夏期講習だし、みやはバイトを始めちゃうしで、思うように一緒にいられずにいた。

勉強になんか、まったく集中できないよ。



「…篠原さん…篠原さん!」


「はっはい!」


先生に呼ばれていて、私は慌てて立ち上がった。

ぼーっとしてしまっていたらしい。

教室内のみんなからの視線が痛い。

先生はやんわりと言う。


「篠原さん、ちゃんと集中してくださいね。問7は解けましたか?」


「あ、はい…」


慌てて手元のプリントに目を落とすと、白紙だ。

わからなかった問題…という以前に、問題文さえ読んでいなかった。


「すみません…わかりませんでした」


「それでは、今から解説しますから、ちゃんと聞いていてください」


「はい…」


着席すると、斜め前の席のノニちゃんがニヤニヤしているのと目があった。


ど、ん、ま、い


口の形がそう動くのが読み取れた。

ノニちゃんとは偶然同じ教室で夏期講習を受けることになり、毎日一緒にかよっていた。他校の生徒も多い中で友だちがいるのは心強いけど、これは絶対、あとでからかわれるな…と私はため息をつく。


シャーペンを持って顔を上げ、壇上にたつ先生の指先が、数式を描いていくのを眺めた。

先生と目が合えば、聞いてますよ!と頷いてアピールする。

いけない、いけない。

目をつけられてしまったようだ。


かさり。

と、ノニちゃんからメモ用紙が回って来た。


『今日、塾終わったら、アイス食べにいこうよー』


そんな文字に加えて、おまけには鬼の角の生えた先生の似顔絵も。

私は思わずくすりとしてしまう。


「…篠原さん?」


「あ、はい!いえ、聞いてます!」


先生に睨まれ、慌てて笑顔をつくる。


『ごめんね、今日は用事があるんだ。』


先生の隙を見計らって、私はこっそり返事を書いた。



***



塾の帰り道、駅前の商店街に並ぶ、レトロな雰囲気の、CDショップを覗き込んだ。小さなお店に、びっしりとCDが並んでいる。端の方には申し訳程度に文庫本も置いてあった。

ガラスのドアを押して店内に入ると、カランカランと音がする。


「いらっしゃいませー」


客の気配に、奥のレジに座っている店員さんが顔を上げる。

私を見て、ぽかんと口を開けた。


「…きちゃった♪」


「…しの、来るなら言ってくれればよかったのに」


「驚く顔が見たかったからさ」


その店員さん…みやは呆れた顔で笑った。

私もにっこりする…というより、顔がにやけてしまう。

だってみやが働いてる姿が新鮮で、面白かったから。


「みや、しっかり働いてる?」


「…ぐわっ」


「ぐわ?」


「知らないの?あひるどん」


みやはそう言って笑った。

その笑顔できゅんとしてしまう。

だって、もうしばらく会ってなかったような気がしちゃうんだもん。


「今、話してても大丈夫?」


「うん、お客いなくて暇だからさ。店長も買い物行っちゃっていないし」


なるほど、店内を見回すと私以外に誰もいないみたい。

CDショップは、静かでどこか懐かしい匂いがした。

すみれちゃんのお友達がいつもバイトをしているそうなんだけど、夏休み中ずっと旅行にでかけるから、ということで、みやが代わりにバイトに入ることになったらしい。

クーラーを買うためだ、とか聞いたけど、こうやって働くの、すごいしえらいなーって思う。


「仕事、どう?大変?」


「うーん、そうでもないかな。店長も優しいし、わりと暇だし。期間限定じゃなくて働きたいくらい」


「えー、それはやだ!」


「なにそれ、なんでしのが嫌がるの?」


「…だって、あんまり一緒にいられなくなっちゃうじゃん」


夏休みの今だってそうなのに、学校が始まってからもバイトしてたら、なおさら。

私が頬を膨らませると、みやは困ったように笑った。私の頬を指で潰して言う。


「ごめん、ごめん。でもお祭りの日は休めることになってるからさ」


「そうじゃなきゃ怒るよ!」


そう言うと、ははっと笑われた。

毎年恒例の夏祭り。

いつもみやと2人で行く夏祭り。

私は店内に貼られているポスターに目をやった。


「すっごく楽しみにしてる!」


だって、今年の夏祭りは、いつもよりずっと特別な気がするから。


2人で、浴衣着てこうね、とか。

りんご飴食べようね、とか、お喋りして。

私は今日先生に注意されたこととか、塾の話をちょっと愚痴って。


そうしてたらお客さんが入って来たので、私は帰ることにした。

一緒にいたくても、お仕事の邪魔しちゃ悪いもんね。


「じゃ、またね」


「うん、バイト終わったらまたメールするから」


「うん!」


「ちゃんと塾の復習しなさいよー」


「私がすごく頭良くなるとみや、おいてかれちゃうよ」


「それはどうかな」


みやはニヤッと笑う。

あまり勉強してなくてもテストでいい点がとれちゃうみやは、余裕の表情だけど、私は今にみてろよ!と思う。

そう思うと、塾もやる気が出るし。


お店を出た後、私はずっと機嫌がよかった。

だって、みやの左手の小指にも、ピンキーリングが光っていたこと、気づいちゃったから。

そっと自分のリングに触れて、緩む頬をおさえた。


夏休み。

女子高生はじめての、夏休み。

やっぱり今年の夏休みは、いつもよりちょっと、特別だ。

そんな気がして、胸の奥がちょっとざわめいた。

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