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girl friend  作者: 柚木 ココ
14/35

ランチタイム ドルチェ


「今日は、花ちゃんと葉鳥ちゃんとお話できて楽しかったなー」


放課後、一緒に帰ろうと迎えに行ったら、しのが、嬉しそうに話す。

肩を並べて廊下を歩きながら、しののおしゃべりは止まらない。


「2人とも面白くって、とっても良い子だよね!また一緒にごはん食べるの楽しみ」


花と葉鳥と友だちになれたことが、すごく嬉しかったみたい。

無邪気に話す姿はとっても可愛いけど、嬉しそうなしのを、素直に喜べない私がいる。

私と2人きりでお昼、食べたくはなかったの?…なんてね。

花と葉鳥を連れ出してしまったのは私だけど…でも、おもしろくないのだ。

少しくらい、2人がよかった、って不満気な顔、してくれたっていいのに。


「ノニちゃんに話したらね、今度はノニちゃんも一緒にきたいって言うの。いいよね、みや?」


私に向けられる明るい笑顔が、いつもは大好きなはずなのに、今はなんだか見たくない。

靴を履き替えて、学校の玄関を出たところで、私はしののカバンを掴んでいた。


「…みや?」


立ち止まったしのが、不思議そうな顔で、私を見上げる。


「なに?」


小首を傾げる仕草は、小さな子犬みたいで。私は胸がきゅうと締め付けられる。


「…しの、今から、ちょっと寄り道しない?」


「え、いいよ?」


私の提案に、素直にうなずいてくれる。どこにいくんだろうって、わくわくしたような顔で。


「どこいくの?」


「いいとこ」


私は曖昧に笑みをつくった。


今日、本当はしのと一緒に行きたかったところ。

みんなと一緒になっちゃったから、予定変更しちゃったけど。

やっぱり私はしのと一緒に行ってみたかった。


部活動の声が賑やかな校庭を横目に歩く。

学校の敷地内の隅の方、大きなポプラの木に隠れるようにして、ひっそりとそこはあった。


「旧校舎?」


しのは少し不安気な声音で呟く。

確かに、二階建ての小さな古い建物は、放課後の喧騒から忘れられたかのようで、不思議な雰囲気を醸し出していた。


「嫌?」


と尋ねると、しのは大きく首を振る。


「確か、新入生オリエンテーションのときに入ったよね。私、この建物好きだよ。秘密基地みたいで。でもここって、勝手に入っていいの?」


「いいんじゃない?だって鍵あいてるし」


「本当だ」


私が玄関の戸を開けると、しのは、ちょっとはにかんで笑った。

私は少し安心する。


中に入ると、空気がひんやりとしていた。暑さに晒されていた肌が、ちょっとホッとする。

古い建物なのに埃っぽい感じはなく、どことなく湿った木の匂いがする気がした。

私たちはスリッパに履き替えて、しんとした廊下を、ぺたぺたと音を立てて歩いた。


「二階、上がってみよう」


そう言うと、しのは目を輝かせてついてきた。


「本当に、秘密基地みたいだ。探検だね」


なんて言って、嬉しそうにしている。

私は少しどきどきしながら、二階の、茶道室の横の教室を見つける。


「あ、ここだ」


戸を開けると、そこはお姉ちゃんの言っていた通りの場所だった。

通常の教室のように机と椅子が並んではいるが、とても静かで、時間の流れに取り残されてしまったような教室。

教室内は薄暗く、窓の外が眩しい。鮮やかな緑に日の光が透けて見えて、とても綺麗だった。


「わあ…」


しのは感嘆の声をもらして、窓際に小走りで駆け寄った。


「木の陰になってるから、こんなに涼しいんだね!とっても綺麗」


緑の光を背景にしのが微笑む。

私は目を細めた。

今までに見たどんな景色よりも、綺麗かもしれない。


私たちは椅子ではなくて、黒板前の、一段上がった教壇に並んで座った。

耳を澄ませると、遠くにテニス部の声がする。

騒がしかった蝉さえも、ここでは啼くことを忘れてしまったかのようだった。

世の中には私としのしかいないんじゃないか、または、私としのだけ、時間に取り残されてしまったんじゃないか…そんな錯覚さえ覚える。

さっきまで私の心を騒がせていたザワザした気持ちは、嘘みたいに消えていた。


「…すみれちゃんの教えてくれた場所って、ここなんだね」


徐にしのが口を開く。

私は、ちょっとだけ目を見開いた。


「よくわかったね」


「そりゃ、わかるよ。今日はお昼休み、みんなと一緒になっちゃったから、ここは教えなかったんでしょ?」


「…なんだ、お見通しか」


私が苦笑すると、しのはにっと笑っていった。


「でも、嬉しいな。私と、みやだけの秘密の場所だ」


…秘密の場所。

その響きにちょっとドキドキして、しのの笑顔が眩しくて、私は思わず目を逸らした。

静かだから、息遣いや鼓動の音まで

よく響く気がする。


「ねえ、みや。ここ、小さい頃に遊んだ秘密基地に似てるよね?」


「…うん、私も思った。小学校の低学年のときだっけ?公園の、ボロ屋敷。」


昔よく遊んだ、秘密基地。

家の近くにある公園の、ボロ屋敷。

誰のものかは知らないけれど、勝手に忍び込んで、よく遊んでいた。

今はもう、危ないからという理由で壊されてしまったけれど。


あの頃も、しのはちょっと不安そうにしながら、でも目を輝かせて、私の後をついてきていたっけ。

そう、あの頃から、ううん、もっとずっと前から、ずっと、しのは私にとって特別な存在で。

…でも、恋人同士になってから、確実に私たちの関係は、私のしのを想う気持ちは、変化していることも感じていた。


他の友だちとは、違った存在で。

とっても大切で、大切で、大切で。

独り占めしたいんだと思う。

だから、葉鳥や花にも紹介したくなかったんだと思う。

自分の中の我儘な気持ちに気がついて、私は胸が苦しくなる。

この気持ちをわかって欲しいけど…身勝手すぎて、しのに押し付けることができない。

どうやって、伝えたらいい?


「…みや」


私が黙っていたからか、しのが不思議そうな顔をして、私の頬を軽くつねっていた。


「…なに?ちょっと痛い」


「あは、ごめん。寝てるのかと思って」


「いや、このタイミングで寝ないでしょ」


私は苦笑する。

しのは、えー、と言いながら、私の頬から手を離そうとする。

私は、その手をそっと取った。


「ねえ、しの」


今の気持ちを、少しでも伝えたくて。どうか、共感して欲しくて。


「私たちって、普通の友だちとは違くて…特別、だよね?」


「と、とくべつ…?」


しのは手を取られたことに驚いてか、少し顔を赤くする。

特別、という言葉を、吟味するかのように、もう一度、小さく呟いて。

そして、私の目を真っ直ぐに見て言った。


「特別、だよ。すごく、特別」


照れたように笑う。

私も、つられて頬が火照るのを感じながら、気持ちを伝えたくて言葉を探す。


「…私も、しのが1番で、誰よりも、ずっと、特別だから」


「うん」


「本当に、しののこと、特別に思ってるから…」


だから、他の子と仲良くしないで。

他の子に、私に向けるような笑顔を、向けないで。


そんなことまでは言えなくて、私はぐっと言葉をのみこんだ。

これは本当に身勝手な、私の我儘だから。


静かな教室で、2人きりで手を繋いで、特別だって、言い合って。

それで十分だって思うけど、やっぱり、この気持ちは伝えきれない気がする。

きっと、しのが私を想う気持ちよりもずっと、私がしのを想う気持ちの方が、大きいよ。


隣を見れば、思ったよりも近くにしのの顔がある。

瞳は心なしか潤んで見えて。

私にはもう、鼓動の音しか、聞こえなかった。

ねえ、特別で、特別で、本当に、他の友だちとは違う…特別で。

この気持ちを、どうやって伝えたらいい?

ねえ、もし、ここで瞼を閉じてくれたら、私は…


じっと見つめあっていた、気がした。

1秒が10分くらいに感じられて。

このままだったら、心臓が壊れてしまうんじゃないかって、思うくらいで。

しのは、大きくひとつ瞬きをして。


「あーーっ!!」


と大声を出した。



「なっななななに…?!」


私は思わず仰け反る。

本当に、心臓が止まるかと思った…


「み、みや!電車の時間、もうすぐだよ!これ逃したら、次30分後!」


「げ、もうそんな時間?!」


急に音と時間を取り戻したような気がして、遠くにテニス部の掛け声が聞こえ出した。


私たちはばたばたと音をたてて旧校舎を飛び出した。

それから大慌てで走って走って…なんとか電車に間に合うことはできたけど。もうその時には、この顔の火照りも、心臓のドキドキも、走ったからなのか何なのか…わからなくなってしまっていた。






***







「ただいまー!」


私は玄関で声を掛けると、ばたばたと二階の自分の部屋にあがった。

そのままベッドの上のテディベアにダイビングする。


どきどきする。

どきどきする。

どきどきする。


旧校舎での、みやとのやり取りを思い出して。

私はずっと心臓が爆発寸前だった。


思ったよりも、ずっと近くに。

ずっと近くに、みやの顔があったとき…

もし、あのまま、瞼を閉じてくれたら、私は…?


「ああーー!!恥ずかしい、よーー!!」


ジタバタして、この気持ちを発散する。

思わずテンパって、最後はドタバタにしてしまったけれど…

もし、そうなっていなければ…


そっと唇に触れてみる。

自分の想像に、とんでもなく恥ずかしくなって、私はテディベアに顔をうずめた。



「…あのー、お取り込み中のところ、悪いんですが…」


急に声をかけられて、私は跳ね起きた。

部屋のドアがあいていて、たたずむ人影。


「っ!!なっ渚?!!いっ、いつからそこに…?!」


「いつからって、さっきからだけど…」


渚はあくまで冷静に、慌てる姉を見下ろしていた。


「よくこのバカ暑いのに、テディベアなんか触れるよね…」


「うっうるさいな!なんか用なの?!」


私が睨みつけると、渚はヒラヒラと手に持ったチラシをふった。


「私が用っつーか、母上が、お姉ちゃんが帰ってきたみたいだから、これ渡せって言ってさ」


「なにさ?」


差し出されたものを受け取って、私は読み上げた。


「『夏期講習のお知らせ』…?」


すーっと、熱が引いていくのを感じた。

もうすぐ楽しみな楽しみな夏休み。

お母様は、娘が堕落するのを防ぐために、早くも一手打ち出していたらしい。


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