ランチタイムの楽しみ方
昼休み、教室前の廊下で。
って、みやと今朝約束したから。
私は4限目が終わったらすぐ、廊下に出て待機していた。
手には昨日の夜、お母さんと一緒につくったお弁当。
みやにも少し食べてもらえたらなって思って、おかずを多めに持ってきたので、今日はいつもより少しだけ、重たい。
そわそわしながら、みやを待つ。
昼休みになったばかりの廊下は、教室から出てきた生徒でがやがやと賑わっているけれど、目を閉じれば自分の心臓の音が1番大きく聞こえる。
いつまでたっても、このどきどきには、慣れないなあ。
「しーのちゃん!おまたせっ!」
「んぎゃ!?」
明るい声と共に後ろからぎゅっとされて、驚いた私は思わず変な声を上げてしまう。
みや…ではない。
知らない声に知らない香り。
甘い花のような、良い匂いだけど。
だ、だれ…?
おそるおそる振り返って顔を見ると、ポニーテールの女の子だった。
「やー、やっぱり小さいー!可愛いなあ!」
なんて言って、まだぎゅっとしたまま離してくれないので、私は困ってしまう。
「え、えっと…あの…」
とりあえず何も出来ず、じっとしていると、よく知っている声がした。
「こら、葉鳥!一番乗りで教室飛び出したかと思えば…しのが困ってるでしょうが」
その声の主がポニーテールの子を引き離してくれたので、私はやっと解放された。
心臓がばくばくしている。
「み、みや…」
私はみやの顔が見られてホッとする。
ポニーテールの女の子はごめんごめんと言いながら、ははと笑った。
話したことはないけど、この子のことは、知ってる。
みやと同じクラスの、みやのお友だちだ。
「しかも、葉鳥、お弁当忘れてるし」
そう言いながら、教室からふんわりボブの女の子が出て来た。
この子も、そう、よくみやと一緒にいる子。
「しのちゃん、ごめんね。バカがびっくりさせちゃって」
そう言ってふんわりと微笑まれて、私は慌ててぶんぶんと首を振った。
「いっいえ…大丈夫、です!」
そして、どういうこと?って気持ちを込めて、みやを見る。
みやは私と目が合うと、困ったような、申し訳なさそうな顔になった。
「ごめん、しの。振り切れなかったんだ」
「え?」
頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
フリキレナカッタ、とな?
「みや、ひどいなー!私たちがお邪魔みたいに!」
ポニーテールさんがそう憤慨すると、みやはズバッと「みたいじゃなくて、お邪魔!」と言いきった。
「いいじゃん、いいじゃん!私たちだって、しのちゃんと一緒にお昼食べたいー」
そう言いながら、また私をぎゅっとしたけれど、今度はすぐにみやに引きはがされた。
「だから、しのを困らせないでってば!」
「みや、ひどいよー!冷たいー!私だって、しのちゃんと仲良くしたいんだもん!」
ポニーテールさんがバタバタとする。
隣でボブさんもにこにこ笑っていった。
「いいじゃん、お昼一緒にしたって。私も、しのちゃんと話してみたかったんだー」
「あのねー」
みやが渋い顔をしているので、私はおそるおそる手をあげた。
「あ、あの…私は別に、いいですけど」
「わー、しのちゃんっ!いい子っ!」
「しのちゃん、ありがとー。ほら、みや、しのちゃんもそう言ってるし」
今度は両脇から2人にくっつかれた。
2人ともそれぞれ良い匂い。
女の子って柔らかいなーとか、ちょっと考えてしまう。
みやは、額をおさえて、はあーとため息をついた。
「しかたないな…じゃ、喫茶スペースいくか」
わーい、と、ポニーテールさんは両手を上げて、ボブさんは「お弁当、自分で持てよ」と言って、ポニーテールさんにお弁当袋を突き出した。
***
ポニーテールさんは、葉鳥沙奈佳ちゃん、ボブさんは、島野花ちゃんというのだと、自己紹介してくれた。
2人とも良い子そうで、人見知りな私はちょっとホッとする。
喫茶スペースは夏場はうっすらと冷房が効いていて、涼を求める生徒たちで賑わっている。
簡単な購買と自動販売機が隅にあって、生徒たちがその場で食べられるようにとテーブルが配置されているのだけれど、空いている席を見つけるのはなかなか容易じゃない。
でも、はとりちゃんがさっと動いて、4人分の席を確保してくれた。
「相変わらず、あんたは席を見つけるのが得意だよねー」
花ちゃんが半ば呆れたようにそう言うと、葉鳥ちゃんは得意気にニヤッと笑った。
「こーゆーのはねえ、ばっと見つけてさっと座るのがコツなわけよ!躊躇ったらその時点で負けだね!」
「…はいはい、それより早く食べましょね」
花ちゃんは軽く流してお弁当を出す。
私たちもそれぞれお弁当を広げたけれど、みやは菓子パンをひとつ出しただけ。
「…あれ、みやは今日、お昼、それだけ?」
思わず聞くと、みやは困ったように笑った。
「やー、今朝、寝坊しちゃってさ。お弁当つくれなかったの」
みやの家は母子家庭。
お母さんが遅くまで働いてるから、お弁当はみやが自分でつくってるのは知ってる。
みやも、大変なのだ。
…でも、今日はつくれなかったというなら、ちょうどよかったかな、と思って、私は自分のお弁当と別にしていたタッパーを取り出した。
「…今日、せっかく一緒にお弁当食べるからって思って、おかず、多めに作って来たの。よければ、食べて?」
ドキドキしながら、反応を盗み見る。
料理は慣れないながら、頑張った甲斐もあり、見た目はまあまあだとは思うんだけど…
余計なことを、とか、いらない、とか、言われ…ないよね?
「え、すごい!しのがつくったの?」
私の心配をよそに、みやはすぐ、目を輝かせてそう言ってくれた。
私は少し恥ずかしくなる。
「…お母さんと一緒にだけど」
「わー、しのちゃん、すごい!美味しそう!私ももらっていいー?」
葉鳥ちゃんも身を乗り出したのを、みやがさっとタッパーを引き寄せた。
「だめー!これ、私の!」
「えー、何それ!みやのケチ!」
葉鳥ちゃんが口を尖らせて言う。
みやは毛を逆立てて餌を守る猫みたい。
私は思わず笑ってしまう。
「たくさんあるから…みんなで食べて」
そう言うと、
「わ、ありがと。いただきます」
と言って、花ちゃんが一番に箸を出して、玉子焼きを取った。
「「あ」」
出遅れたみやと葉鳥ちゃんはポカンと口を開ける。
花ちゃんは構わずモグモグして、にっこり微笑んでくれた。
「しのちゃん、じょうずー。すごく美味しいよー」
「あ、ありがと…」
ちょっと呆気にとられながら、私もホッとして笑顔になる。
みやと葉鳥ちゃんも、我先にと食べ始める。
「それ、私のコロッケ!」
「その玉子焼きは私がもらった!」
なんて言いながら。
その隙を花ちゃんがとってパクパク食べる。
…としているうちに、あっという間に完食してしまった。
「しの、美味しかった!ごちそうさま!」
そう言って笑ってくれたみやが可愛くて、私はキュンとなる。
がんばって作って来てよかったな…なんて思って。
心の中で小さくガッツポーズ。
みやがいつも自分でごはんつくっているのは知ってるから、たまにはひとが作ったごはんも、食べたくなるものね。
また作ってこよう、なんて小さく決意したりして。
「しのちゃん、本当美味しかったー!また作ってね!」
「本当に、ごちそうさまー」
葉鳥ちゃんと花ちゃんもそう言ってくれる。みやのために作ったごはんだったけど、こうしてみんなで食べるのも楽しかったから、私はよかったなって、嬉しくなる。
「でも、本当に今日、しのちゃんと一緒にお昼できてよかったなー!」
「ねー」
「よくしのちゃん、みやに会いに私たちの教室きてたでしょ?可愛い子が来てるなーって思っててさ!」
「でも、みやってば、お願いしても全然紹介してくれないんだもん。まるで、しのちゃんを守るナイトみたいに」
葉鳥ちゃんと花ちゃんが茶化すように言う。
みやは少しあかくなって、
「うるさいなー、だって、あんたらみたいに騒がしいのがきたら、しのがびっくりするかなって思って、それで…」
なんて、もごもご言ってた。
私は少しくすぐったいような気持ちになる。
やっぱり、2人で居る時とはちょっと違うみやが見れて、それはそれで可愛くて、嬉しい。
葉鳥ちゃんと花ちゃんも良い子だし、最初は、みやと2人きりじゃなくて残念…とか思ったけど、これはこれでよかったのかもしれない。
また一緒にお昼しようね、なんて約束して、私たちは教室に戻った。
私は、次はノニちゃんも誘ってみようかな、なんて思う。
ランチタイムは賑やかにするのも、楽しいもの。
そして、あれって、思い出した。
そういえば、みやがみやのお姉さん…すみれちゃんから聞いた穴場スポットって何処だったんだろ?
まさか、喫茶スペースは穴場とはいえないしなあ…
って、ひとり小さく、首を傾げていた。




