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girl friend  作者: 柚木 ココ
12/35

みや、自室にて。

私には3つ上の姉がいる。

名前は本宮菫(もとみやすみれ)

地元の国公立大に合格して、今年から女子大生になった。

ちょっとお調子者だけど、しっかり者で頼りになる、優しいお姉ちゃん。


ずっと前に父が亡くなり、母一人に育てられた私たち兄妹だからか、いろいろと協力しあって、結構仲良くやっている。

姉と、もう一人、私には東京で一人暮らしをしている兄がいるけれど、今の所は紹介は割愛しよう。


だって、今、私の部屋にどんと居座っているのは姉なのだから。

そう、私たちは仲が良い…とは思うのだけど、私のいない時に勝手に私の部屋でアイスを食べるのはやめてもらいたい。


学校から帰って、自分の部屋のドアを開けた私は、姉を発見してため息をついた。

姉は私と目が合うと、ごく自然に片手をあげる。


「お、ゆう、おかえりー」


「…おかえりー、じゃ、ないでしょ」


「じゃ、ただいま?」


「そーじゃなくって」


私はもう一度、盛大にため息をついてみせた。


「勝手に部屋に入らないでよね」


私だって年頃の女の子。

何を隠そう、花も恥じらう女子高生である。

家族に見られたくないもののひとつやふたつくらい、あるんだから…


「えー、だって、ゆうの部屋の方が風通しがいいんだもん。私の部屋、暑くてだるい。」


姉は口を尖らせる。

我が家にはクーラーがない。

昨年、唯一居間にあった一台が故障してからそのままなのだ。

確かに、この猛暑の中、少しでも涼を求めて風通しの良い部屋にいきたいと思うのは、仕方ないのかもしれないけど…


「図書館かスーパーにでも避難でもすればいいじゃん」


「出かけるのも面倒な時ってあるのよ。それに、暑いところで食べるアイスはうまい」


「じゃあ自分の部屋で食えよ」


「冷たい妹〜」


姉はそんなことを言いながらも、部屋を出て行く気配がない。

私は諦めて、カバンを置くと制服から着替え始めた。

姉は勝手にごろごろしている。


「…私、クーラー買おっかなー。やっぱり家に一台もないのはキツイ」


「お姉ちゃん、そんな金あるの?」


「バイトをしてる姉をなめるなよ…あと数ヶ月たてば」


「夏が終わるよ」


私はTシャツをかぶって、キッチンへ冷たい麦茶を取りに行った。

部屋へ戻ると、まだ姉はごろごろしている。扇風機の真ん前で。

暑いところで飲む、冷たい麦茶はうまい。…けど、やっぱりクーラーは欲しいかなあ。


「…私もバイトしよっかなあ、高校生だし」


「いいじゃん。夏休みだけでもやってみれば?友達のとこでバイト探してたから、紹介するよ」


「本当?お願い」


そう言うと、姉はちゃっちゃっとスマホでメッセージを打ち出した。

行動が早い。

私はそんな姉を横目に、扇風機を首振りモードに切り替えて、自分にも風の当たるところに座った。


「そういえば、ゆう」


メールを打ち終わったらしい姉は顔を上げて口を開いた。


「…何?」


私は今日の宿題を取り出しながら、目だけ姉の方へ向ける。

姉は、にっと笑って言った。


「あーちゃんとは、最近どうなの?」


「ぶっ!」


唐突な質問に、私は飲みかけの麦茶を吹き出した。

ゴホゴホとむせている私に、姉はカラカラと笑った。


「やだなー、慌てちゃって」


「…う、うるさい!」


私は息を整えて、何とか口を開く。

姉が言うあーちゃんは、篠原朝海…しののこと。

私の、彼女。


姉に教えてやるつもりはないけど、反射的に今日のことを思い出してしまう。


『会いたかったのは、私も、だから。明日、楽しみにしてる』


…なんて。

思い出すだけで赤面する。


だってだって、私に会いたかったから、なんて、嬉しいこと言われちゃって、ちょっと舞い上がっちゃってて。

自分の気持ちもちゃんと伝えとかなきゃ、って思って、咄嗟に行動してしまったけど…なんでもっとスマートに出来ないかな、私。

少女漫画の王子様のようにはいかないのだ。


「ふふ、百面相しちゃって、面白いのー」


姉がニヤニヤしているので、私はハッとして顔を覆った。


「み、見んな!」


「ふふふ、若いっていいわねえ」


「…女子大生のくせに、おばさんくさいな」


「生意気言っちゃって」


姉が楽しそうに笑うので、私は閉口した。


「はは…ごめんごめん。それで?あーちゃんとは仲良くしてるんでしょ?」


姉はひとしきり笑った後、今度は親身な姉モードに切り替わったようで、頬杖をついて、優しく微笑んだ。

まったく、姉には敵わない。

私は顔をそむけると、ぼそっと言った。


「….明日、一緒にお昼を食べることにした」


「ふんふん…って、それだけー?!」


って、姉は拍子抜けしたような顔をする。

ご期待に添えなかったようで、悪かったですね。

抗議の気持ちを込めて睨みつけてやる。


「…あ、ごめんごめん。ついつい…ね。大変結構よ。ピュアな高校一年生だもんね」


「…もう話さない!」


「はは、ごめんってばー、お詫びにお昼の穴場スポット教えてあげるから」


「穴場スポット?」


実は姉は私と同じ高校の卒業生だ。

故に、新入生の私が知らないことをいろいろと知っている。

それは有益な情報が多いだけに、私はつい反応してしまった。

私がくいついたことに、姉は満足そうに口の端をあげた。


「…まあ、誰にも教えてない秘密の場所だったんだけどね。ゆうにだけ特別に」


「勿体ぶらないでよ」


「ふふ、お昼休みって、屋上や中庭は結構人気で混み合うでしょ?でもあそこなら人があまり来ないの。てか、私がいる時に来たことはない」


「で、どこなの?」


「旧校舎の2階。茶道室の隣の空き教室」


「旧校舎…?」


私の高校にある旧校舎は木造二階建て。明治期につくられたという、古いながらもお洒落な雰囲気の建物で、普通の授業では使われないけど、部活動やイベントなどで利用されることがあるそうだ。

出入りは自由みたいだけど、普段使わないだけに馴染みがなく、あまり人がいる印象がない。


「あそこって、木の影になってるから、夏は結構涼しくっていいのよ。用務員さんがよく掃除してくれてるから綺麗だし、人は来なくて静かだし、机はたくさんあるし、ランチタイムにはもってこい」


「へえー」


そんなとこがあったんだ、と、素直に感動した私は、さっきまでのイライラはなくなってしまっていた。


「うん、なんか良さそうだね。しのと行ってみるよ。ありがと!」


「いえいえー」


姉は微笑んで軽く手を振ると、ちょっとぼーっとした表情で言う。


「でも、いいなあ。私も、昔はよく行ったの、あの教室。彼女と」


「え」


私は、今度は持っていたコップを取り落としそうになった。


「お、お姉ちゃん、彼女がいたの…?!」


「うん。高2の時ね。別れたけど」


姉はサラッと言うけど、なかなかの爆弾発言だと思う。

私は口をぱくぱくさせた。


「し、知らなかった…」


「そりゃ、言わなかったもん。誰にも」


姉はいたずらっぽく笑う。

その表情はどことなくさみし気で、急に姉が大人っぽく見えた。


「…まあ、経験者から、ゆうとあーちゃんに一つ忠告しておこうかな」


「忠告?」


「うん。今の関係を続けたいのであれば、誰にも秘密にすること」


姉が真面目な表情をしているので、私もおとなしくうなずいた。


「私は別にいいって思ってるからいいけどさ、世間では女の子どうしって、マイノリティで、変に思われることが多いの。それで傷つくことになるのは、2人だから。ゆうもあーちゃんも、わかりやすいからちょっと心配」


「わかった、気をつける」


確かに、女の子どうしって、普通じゃないっていうか、変な目で見られるだろうことはわかってる。

私がうなずくと、姉は真面目な表情を少し崩した。


「うん、よろしい」


そう言って、さっと立ち上がる。


「あれ、どっかいくの?」


そんな姉に、私は首を傾げた。

そういえば、今日の姉は部屋着じゃなくてよそ行きのワンピースを着ている。化粧もきちんと済ませているし。


「うん、これからデートなんだ。彼氏とね」


そう言ってニコッと笑う。

どおりで気合が入った格好なわけだ。

我が姉ながら、やっぱり美人だと思う。


「そりゃ、お熱いことで」


「お互い様で」


そんなことを言いながら、姉は私の部屋を出ようとして、ふと思いついたように言った。


「…ああ、あと、忠告もうひとつ」


「なに?」


「…中途半端な気持ちなら、早めに切り上げること。のめり込むと、お互いに辛いことになるからね」


「うん?」


私がその言葉の意味を考えているうちに、姉はいってきまーすと言って部屋を出て行ってしまった。


「中途半端な…気持ち?」


取り残された私はひとり呟く。


しのへのこの気持ちが、中途半端か…?

そんなはずないじゃん。

そわそわして、どきどきするこの気持ちは、きっとプラスなもの。

姉の言う、辛い、がよくわからないけれど。

でも、あのとき、ふと見えた姉のさみし気な顔が引っかかりもしていた。


「…うーん、まあいいや」


とりあえずスマホを取り出して、しのへのメッセージをうつ。


『姉からお昼休みの穴場スポットを教えてもらった。明日、お楽しみに!』


送信っと。

明日が楽しみで仕方ない。


そういえば、しのと付き合うようになってから、毎日が今まで以上に色づいて、楽しい。

しのとずっと一緒にいたい、気持ちは変わらないまま。

この気持ちが、中途半端なわけないじゃん。


なんとなくモヤモヤする気持ちを押し込むように、私はぬるくなった麦茶を喉に流し込んだ。

とりあえず、明日が楽しみだということ。それは事実で。

今の私には、それさえあれば十分だった。



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